12「GAOにえもいわれぬ横臥」(終)
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七月一日。俺達は火津路町にやって来た。
茜条斎から打って変わり、地方の田舎町だ。とりあえず、運動公園の駐車場にいる。
「ふう~、やっぱり田舎は空気が美味しいですね~」
「央、早急に虫よけスプレーを大量に買い込まないと、私が死ぬわ」
長時間運転の疲れを取るため、俺はキャンピングカーの屋根で仰向けに寝ている。すると元気いっぱいの義吟と亜愛も上がってきた。
今日の空は雲ひとつない快晴だ。しかし俺の気分はいまいち優れない。
「どうしたのですか、央くん。浮かない顔をしていますよ」
「うーん……なんか、釈然としないんだよな……」
心にぽっかりと穴が開いていると云うか、なんと云うか、とにかく虚しい感じがする。
「え~、どうしてですか? せっかくの新しい土地ですのに」
「さあな……これといって理由に心当たりはない」
「それなら、もっと明るくいきましょうよ~」
「新天地ではまず素っ裸になれ――ということわざがあるわ」
「ねえよ、そんな逮捕されることわざ」
一体、なんだろうか。なにかが足りないみたいだ。
この町でそれが見つかるだろうか?
「あ、犬屋さんが来ましたよ」
義吟が公園の入口の方を指差す。起き上がって見ると、マウンテンバイクに乗った女子が、シャーッと爽快な運転で近づいてくるところだ。
亜愛と義吟が屋根から下りていくので、俺も続く。
梯子を下りる途中で、俺は不意な思い付きに打たれた。
「犬屋さん、お久しぶりです~。なんだか平和そうな町でいいですね~」
「そうでしょー」
「しかし平和すぎると、私達の出番がないわ」
「そこは心配いらないよ。こう見えて裏では結構、キナ臭いから」
俺達が火津路町に来たのは、この町に滞在中の犬屋に電話で勧められたからだ。
「へい、荻尾さん。なんか気合入ってるね」
「あれ? 央くん、さっきまでと全然違います」
「やる気に溢れている様子だわ。どうしたの?」
そんなに顔に出ているのか。
まあ、それだけ自分でも手応えのある思い付きではある。
「いや、今日からの俺のテーマが決まったんだよ」
「なんですか、テーマって」
「俺は愛に生きる。これまでの俺に足りていなかったのは愛だ」
「また変なことを云い出したわね」
義吟も亜愛も犬屋も不思議そうな表情で、あまり反応は良くない。
だが俺は新しい決意に、この空と同じくらい晴れやかな気分となっていた。
【G章:悪魔の私と私の神様】終。
『GAOにえもいわれぬ横臥』終。
25歳の冬に書いた小説でした。




