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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
第四章、武神奉闘祭
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98、幕開け


 そもそも、何故『武神』が守り神としてヤマトに根付いているのか?

 知る者は最早、彼の者本人しかいまい。

 何度も言うが、詳しいことは何も残っていないのだ。

 

 予想でしかないが、いくつもの逸話があったのだろう。

 国防の伝説。

 その技のすべてを用いて、国の存亡を救ってきた。

 だからこそ、ヤマトの神として認められたのかもしれない。


 その伝説はもう数少ないが、その中でも最古のモノは、五百年ほど前のことだ。

 


 ※※※※※※※※

 

 

 昔むかし、ヤマトは陸の孤島ではなかったらしい。

 囲う山々はずっと低く、海は今より穏やかで、人の行き来も多かったとのことだ。

 とても信じられることではないが、あり得なくはない。

 名の知られる魔術師が徒党を組めば、山を作れる。

 海にしても、星の魔力の流れが急変し、魔物がそれに集って住処としたのなら、説明はつく。

 

 だが、問題はそこではないのだ。

 人の流れが多かった、ということ。

 人と人との関わりが多いことは、それだけ戦の火種が多いということ。

 関わりがなければ、憎しみも嫉妬も願望も生まれない。

 隣の芝生は青く見えるのだ。

 きっかけは些細でも、火種は火に変わり、さらに炎から大火へ大きくなる。

 だから、その頃の隣国とは仲が悪かったらしい。


 それが後に語る、()()()()()で爆発した。

 

 ヤマト側、計六万。

 隣国側、計十万。

 合計で十六万もの兵士が集められたのだ。


 憎しみを向ける隣国。

 負ければどうなるのか、火を見るより明らかだ。

 数では負けているが、質では勝っている。

 どちらが勝ってもおかしくはない戦いが始まる前に、彼の者は現れた。



 『ボクがやろう。――――――からね。ヤマトの兵士に、死人は出させない』



 たった一人で、殺し尽くした。

 敵兵を真正面から、殺して殺して、殺して。

 だが、血は一滴も流れない。

 『武神』が掌で兵の胸を触れると、心臓が止まる。

 万を超える相手に囲まれても、一度だって触れられなかった。

 今と変わらず、その『武』は天にあったのだ。

 誰にも触れられない、届かない。

 蟻が何万匹群れたところで、空に登れるはずがなかった。


 味方の兵士は一人も死なず、敵の命だけが落ちていく。

 眠るように、だが二度と目は覚まさない。

 神の御技は傷すら付けない。

 

 この様子を見て、死神と呼んだ兵士が居たらしい。

 それも、味方であるヤマトの兵士が。

 だが、それを間違いであると言えた者は居ないらしい。

 口が裂けても、言えてたまるか。



 『本当に皆、バカばっかりだ』



 ただ、この一言だけが、残っている。

 誰が言ったか、知られてはいない。

 しかし、このへばりつくような執念を前に、そんなことは些細な問題だった。

 どんな劇にも、最後のコレだけは、必ず言わねばならない。

 まるで、死んだ誰かの代弁のように……



 ※※※※※※※※※



 「やあ、キミらが『勇者』の仲間かな?」



 態度が露骨すぎた。

 この状況で察せない者などいないだろう。

 隠すはずが、向こうから出て来るとは。

 タイミングが悪すぎた。



 「な、なんです? え、」


 「おっ」



 光る



 『武神』が声をかけた瞬間に。

 一瞬の内に溢れたエネルギー。

 

 タイミングが悪すぎた。

 明らかに怪しい相手と、焦るような様子の仲間たち。

 それを見て、普段はおどおどしているが、一度決めたら容赦ない彼女が真っ先に動く。

 おそらくは、自分の仲間たちならば即座に躱すだろうと判断して。

 この即断の嫌なところは、他の被害など考えてはいない所だ。

 街が壊れようが、他人が死のうが、関係ない。

 その場で出せる最大火力。

 超高密度の『魂の力』を利用した魔術。

 大きな滝ほどの太さの雷。

 チカッと光ったなら、やたらめったら辺りを焼き尽くす。

 エイルたちはアレーナの顔を見た瞬間に脇へ避ける。

 当たればマズい攻撃を仕掛ける、と確信したために。


 だが、最後の一人は動かなかった。

 



 「危なっ!」



 

 瞬きの、百分の一の時間があったろうか?


 非実体の雷を逸らす。

 一直線に伸びるはずの光の束は、途中から冗談のように直角に上へ曲がった。

 次いで轟音が響く。

 パッと光が晴れた時には、不自然に腕を振り上げた人影のみ。

 完璧に、攻撃を殺しきった。



 「……嘘」


 「嘘、じゃないよ! いきなり過ぎるだろ! あんなの街中でぶっ放す奴があるか!?」



 とびきりの焦りが漏れる。

 流石にビビった『武神』が、アレーナに詰め寄った。



 「ボクが止めなかったらどうなってたか! 名に考えてんだホントに。お前『勇者』の仲間だろがコラ!」


 「ひっ! だ、だって、別にいいかなって……あ、明らかに、危ない、し。それなら、さ、さっさと殺すために、う、動いた方が……」


 「脳筋か! おい! しつけくらいちゃんとしろ!」



 驚きを隠せない。

 何でもないようにしているが、気が付けば既にアレーナは魔術の準備をしていたのだ。

 杖から放たれた雷を、後出しで対応した。

 雷を完璧に受け流した。

 


 「あ〜もう! 騒ぎになるから離れたのに、離れた先でもまた騒ぎかよ!」


 「あ、騒ぎ……」



 考えが遅かった。

 言われて気付いたアレーナは、催眠の魔術を辺りにかける。

 光に集まりだした人々が次々と倒れていき、ざわめきかけた空気が静かになった。

 


 「そ、それでこの方は?」


 「ああ、そこの魔術師がぶっ飛びすぎて自己紹介できてなかったね。ボクは『武神』と呼ばれてる。キミらの敵さ」


 「…………!」



 構える。


 が、リベールはすぐに警戒を解いた。

 傍らに控えるケイトは声も発さず、自然体のままでいる。

 


 「おや、どうしたのかな? 警戒は?」


 「……私は、使徒や天上教が分かりません。殺戮すると思えば、ただの悪人には見えない部分を見せる。だから、少し話をしたいのかもしれません。敵意はなかった。それに、あなたは街を守った。だから、」


 「ふぅん? そっちのキミは?」



 会話に入ろうとしない。

 自主性をまったく見せようとしないケイトに話を振った。

 


 「何をしても勝てないのに、身構える必要はない。私にできるのはせいぜい、敵対行動はしないであなたの機嫌を伺うことくらい。あとは、もしもの時は、彼らを生かすために盾になる事だけだな」


 「……う〜ん。まだ遠いなぁ……」


 「? 何か言ったか?」


 「いいや?」



 首を傾げる。

 どこか残念そうにしながら。

 


 「いやーいいね! 先代と似て、しっかりしてる。コレが今代の『勇者』とその仲間か」



 けれども、その言葉には満足があった。

 


 「嬉しいねぇ。キミらの成長は皆が心待ちにしてるんだ」


 「テメェが勝手に満足してんのが腹立つな。結局、何かしてぇんだよ」


 「だから何回も言ってるよ。キミらのことが知りたかった。でも、もう大体オッケーさ」



 次の瞬間、姿が消える。

 周囲を見回すが、影も形も見えなくなっていた。

 だが、



 「リベールちゃん。キミの疑問、とても良いものだ。疑うことを忘れるな」


 「!」



 真後ろから声がする。

 リベールは声の方向へ振り向くが、そこには誰も居ない。

 ただ、声だけが響く。



 「少し、話をしたかったのですが……」


 「ボクもしたかったけど、今はこれでいい。次はボクの動きを目で追えるくらいになってからだ」



 そして、

 


 

 「ケイトちゃん。キミは信頼してもいいんだよ」




 何も変わらない。

 その表情も、態度も、意思も。

 変わらないまま、聞くだけだった。



 「……考えておく」



 それだけで、この日が終わった。

 突然の神の襲来は、突然神が勝手に満足して、去っていって、終わりだ。

 

 劇の幕開けとして、十分な衝撃だけがそこにはあった。

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