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恋愛時計  作者: 夢呂
【1】九遠香子
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8/15

8、

「“外”って・・・・店とかでもなくて本当の外なんだな」


会社から少し離れた街路樹のベンチに少し離れて腰かけると、かつての上司だった矢倉直人が苦笑しながら私に言った。


「それで、・・・・・何のご用ですか?」

「どこまでも他人行儀なのか?」

「・・・・」


ここまで移動する道中も、今も、私は目を合わせなかった。

以前の会社だって辞めたし、転職したし、引っ越しもした。


彼との思い出は何一つ、持ち込まないようにこの地にやってきたのだ。


それなのに────。


(ああ、もう帰りたい・・・・)


この空間にいるだけで、精神的苦痛でしんどい。


それなのに────彼が甘く熱い視線を、向けてくる。


「────ずっと、逢いたかった。」


(やめて・・・・もう)


「───結婚しよう、香子」 


(もう、終わったんだから────・・・)


笑い飛ばしたら良かったのかもしれない・・・冗談やめてよと。

だけど、彼の瞳は真剣そのもので・・・私は苦しさから胸が詰まる。


「いや、“俺と結婚してください”、だよな」

言い直したところで、以前のように胸を熱くすることはもうないのに。

罪悪感だけが増していくだけなのに。


(だって────知らなかったんだもの・・・・)


「俺、香子のことが忘れられなくて。」

「そんな────困る・・・。そんなこと言われても」

先程までは強気な態度をとっていたけどそれも出来ないほど、彼の雰囲気に呑まれそうになっていた。


そう、“困る”の。

だって、私は────矢倉さんのことを本気で好きだったから。

嫌いになって、───別れたわけじゃなかったから。


ただ、出逢うのが遅かった。

ただ、出逢ったタイミングが悪かった。

何も、知らなかった私が悪かった。



「妻とも離婚したから。だからやり直そう?───今度こそ、幸せにするから」


違う。そうじゃない。

ずっと私は───そんな言葉が欲しかったわけじゃなかった。


(・・・・・ごめんなさい)


精一杯の懺悔を────私は口にする。


貴方を信じていた奥さんに。

奥さんに嘘をつかせた貴方に。

ひとつの家庭を狂わせてしまった事に・・・・。


「ごめんなさい。私はもう貴方を愛してません」

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