7、
「あ・・・」
昔宮くんが今日のプレゼンで使うであろう資料の一部を見つけて、私は外回りへと出掛けていった彼のあとを追い掛けた。
「あ、」
ちょうど受付のところで、久住さんと話している昔宮くんの姿を見つけた私は───。
「昔宮く───」
───すぐに声をかけようとして、やめた。
いや正確には、声をかけられない雰囲気に臆したのだ。
「────それって私がお邪魔しちゃったからじゃないですか?」
「でも久住さんのこと、可愛い可愛いっていつも言ってたし。飲み過ぎたのは“久住さんが可愛いからつい”って言ってたし。」
「それ、絶対嘘ですよ」
(もしかして・・・・私の、話? )
二人の話題が自分だと気づいて、益々近づけないでいた。
(なんで?)
私の視界は完全に、二人の姿に奪われていて。
「香子、」
名前を呼ばれるまで───その人が背後から近づいてきてたことに気が付かなかった。
涙が出そうになった。
好きだったその声で────名前を呼ばれたのは何年ぶり?
もう、会いたくなかったのに。
「矢倉さん・・・どうして、」
(どうしてここに・・・・いるの?)
「話がしたくて。ずいぶん探したんだ」
やっと会えた、と嬉しそうに微笑む彼から私は目をそらす。
そして震える唇で、冷たく言い放った。
「────お帰りください。業務中です」
(ああ、頭が痛い・・・。)
クラリと揺れた視界をなんとか保ちながら、この場から逃げようと背を向けると、咄嗟に腕をとられる。
「ちょっと離してっ」
「香子、待ってくれ。五分でいいから」
懇願するように、彼が食い下がる。
(今更、なんで?あの時私がどんな思いで・・・・っ)
思い出したくなかった過去まで遡りかけて、いよいよ本気で泣きそうになったその時。
「────先輩、どうしたんですか?」
昔宮くんが私と彼の存在に気が付いて駆け寄ってきた。
これが修羅場というものだと気付いたのはこの時だった。
周りにいた社員も、チラチラと興味深そうな視線を向けていた。
「・・・・昔宮くん、これプレゼンに必要でしょ?デスクに置き忘れてたから」
そう。
私は君にこれを渡しに来ただけだったの。
それなのに・・・・。
「あ、すみません」
「早く行かないと、間に合わないんじゃない?」
「はい。でも先輩────」
心配そうに私と彼を見て昔宮くんが言いかけた言葉を、私は敢えて遮った。
「大丈夫だから、行って。先方に迷惑だけはかけないで」
ね、と安心させるように微笑んで見せると昔宮くんは渋々会社から出ていった。
昔宮くんの背中を見届けてから、私は少し低い声で矢倉さんに言った。
「────外で話しましょう」




