6、
「日高部長、何の件だったんですか?」
営業二課に戻ると、待っていたかのように昔宮くんが声をかけてきた。
「え。ああ・・・・うん。たいしたことじゃなかったよ」
「え、でも部長から直接話があるなんてよほどのことなんじゃ・・・・────」
私の言葉に、昔宮くんは腑に落ちない顔をした。
だけどまだ正式な辞令が出ていない以上、口外はできない。
「お話し中すみません。久遠さん、今よろしいですか?先日の案件についてご相談なのですが、」
「はい?」
同じく二課の新入社員、平館くんから声をかけられて私はホッとしながらもそちらに顔を向ける。
嬉しいことに、今日も仕事は山積みだ。
「───うん、あとはそこだけ訂正してもらえたら大丈夫だと思う。」
「ありがとうございます」
平館くんがほっと胸を撫で下ろして頭を下げる。彼も昔宮くん同様、真面目でなんでも吸収する優秀な社員だ。
平館くんの背中を見届けて自分のノートパソコンに向き合おうとした時、横から昔宮くんが手を伸ばす。
「久遠さん、これどうぞ」
「え、なに?」
「無理だけはしないでくださいね」
昔宮くんが、ブラックコーヒーの入ったカップを私のデスクに置いた。
(本当に、真面目で良い部下を持ったわ)
「ありがとう」
素直にお礼を言うと、昔宮くんが珍しく照れたのか慌ただしく席を立つ。
「いえ・・・。あ、それじゃ僕、外行ってきます!」