圭×功利【藍堂有利】
好きな人には、別の好きな人がいる。
「圭さんの好きな人は、お姉さんですよね?」
功利はローテーブルを挟んで向かい側に座る圭に尋ねる。座布団の上に正座で、和菓子を食べるその姿は、いたって普通の容姿。クラスにいる男子と比べれば、そこそこかっこいいと思える。
が、自らの兄と比べると……否、比較対象にもならない。
「今日はそんなことを聞くために俺を呼んだんすか?」
功利が尋ねても、圭は動揺を見せない。
圭の姉、芽榴は現在アメリカ留学中。
以前、楠原家に電話して圭に連絡をとって以降、「母さんがうるさいから」という理由で圭に連絡先を渡された。
ので、功利は昨日『美味しい和菓子とお茶をもらったので』と連絡し、圭を藍堂家に招いたのだ。
「もしそうだったとしても……少なくとも、芽榴姉の彼氏さんが住んでる家では白状しないっすよ」
功利が年下だからか、圭はいつも余裕そうな態度で功利の言葉に返事をする。
それが功利も気にくわないのだが、癖になっているところがある。
「じゃあ私の方が年下なので、いい加減その微妙な敬語をやめてもらえませんか?」
「微妙な敬語って……うーん、でも功利さんって気品あるから気安い口聞きづらいんすよね」
圭は苦笑しながら、功利の淹れたお茶を飲む。
「あ、美味しいっすね。このお茶」
「……お姉さんの淹れたお茶のほうが美味しいと思いますけど?」
また捻くれたことを言ってしまった。
そう思って、功利の表情が曇ると、圭はくすりと笑った。
「芽榴姉と比べ始めたら、キリないっすよ」
その表情はやはり動揺を写さない。でもどこか、儚いのだ。
「誰も、何も……芽榴姉には敵わないっすから」
「……一番比べてるのは圭さんでしょう? だから圭さんには彼女ができないんです」
「あっはは、それ以前にお兄さんほどモテないっすからね〜」
圭のことを知れば知るほど、功利は圭の本質に気づいていった。
楠原圭という男の外面はそれこそ風雅に匹敵するほど、作り上げられたものだということ。
「じゃあもし、私が圭さんのこと好……」
「功利さん」
功利の言いかけた言葉を無理矢理に止めて、圭は笑った。
「俺は、功利さんとまだ普通に仲良くしてたいです」
功利が何を言おうとしていたのかも。
それが例え話でもなんでもなく、功利の本心だと、圭は知っている。
知っていて、圭は功利の話を聞こうとはしない。
聞いたら、圭はもう功利と会わないつもりだから。
答えが、決まっているからだ。
だったらいっそ、言わせて終わらせたほうが早いのに、圭はそうしない。
「……ずるいですよね、そういうところ」
鈍感などではない。
圭は、機敏で、そして性格が悪いのだ。
普段見せている鈍感さも好青年な物言いも全部、芽榴のために作り上げた性格なのだと功利は知った。
知ってなお、好きだと。
すると二人のいる部屋の戸がノックされた。
「失礼します。……圭くん。こんにちは」
顔を出したのは功利の兄にして、芽榴の彼氏である有利だ。
「こんにちは。稽古だったんですか?」
袴姿の有利に、圭は尋ねる。すると有利は柔らかい表情で頷いた。
「はい。功利がご迷惑をかけていませんか?」
「いえいえ、むしろこんな美味しいお茶菓子いただいちゃってます」
「お姉さんが作ったものに食べ慣れた、圭くんの口に合えばいいのですが」
「あはは、あれは特別ですよ。普通にこれもめちゃくちゃ美味しいお菓子でした」
圭は楽しげに有利と話す。
その顔には一切の曇りがない。
言葉にも口調にも、嫌みが全くない。
それが圭の嘘で塗り固めた外面の行き着いた先なのだと思うと、やはり功利は切なくなった。
どんなにずるくても。
自分以上に悲しい思いを抱いた人だから。
ずっと好きだった人には、もう大切な人がいる。
「圭さん……」
有利がいなくなった後、功利が圭に話しかけると、圭は変わらず「なんすか?」と、にこやかに笑いかけてくれた。
「次は……手作りのお菓子を用意しますね」
当然、芽榴の作ったものに敵わないものを。
あえて作ると言った功利に、圭はなんと返すのだろう。
その、答えが知りたくて。
「マジっすか。そりゃ楽しみにしてます。絶対呼んでくださいね、すぐいただきに来るんで」
笑顔で、そんなことを言って。
そのずるい嘘に、功利の心はどうしようもなく奪われる。
読者様からのリクエスト②により、有利ルートの圭×功利でした!
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