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恋敵?【蓮月風雅】

 それは、風雅が芽榴にプロポーズする少し前。

 芽榴が風雅の部屋に泊まりにきていた時のこと。


「芽榴ちゃん、今日のご飯何?」


 料理をする芽榴の肩からニョキッと顔をのぞかせて、風雅は楽しそうな声を出す。

 そんな風雅を横目に見て、芽榴は困った顔を返した。


「寒いから、お鍋だよ。野菜切ってるし、危ないからあっちで待ってて」


 風雅が芽榴の体に抱きついているため、芽榴は包丁を動かさない。芽榴に注意されると、風雅はしゅんとおとなしくなって芽榴から離れた。


 しかし、風雅がおとなしくなるのは一瞬のこと。


「じゃあオレはお風呂の掃除でもしてくる!」

「ありがとー」

「だから一緒にお風呂入ろうね!」

「……は?」


 芽榴が慌てて振り返るが、すでに風雅はいない。

 浴室から「芽榴ちゃんとお風呂〜」という楽しげな作り歌が聞こえてきた。


 その件については、あとで話し合おうと心に決め、芽榴は料理を進める。


 お鍋を温めて、あとは風雅がお風呂の掃除を終えたら一緒にリビングでくつろごうなどと考えていた。


 そのとき。


 部屋の扉が、なぜか、開いた。

 かけていた鍵が、外から差し込まれた鍵によって。


「え……?」


 芽榴が驚いて玄関の様子を伺うと。


「フウ! ちょっと聞いて……って」


 綺麗な女の人が、芽榴の目の前にいた。

 目鼻立ちがしっかりしているからか、ナチュラルメイクがその美しさを映えさせている。

 明るめの髪をゆるく巻いた、風雅の部屋の鍵を持った美女。


 その美女は芽榴の姿に目を細め、全身を舐め回すように見つめてきた。


「……あの、こんばんは」


 動揺しながらもとりあえず頭をぺこりと下げ、挨拶をした芽榴に対し、彼女は少しばかり目を丸くした。

 そして、芽榴の目には、微かに彼女が笑ったように見えた。


「こんばんは。……ねえ、あなた誰? どうしてフウの部屋にいるの?」

「あ、すみません。あの、私……楠原芽榴っていいます。今、その、風雅くんとお付き合いさせてもらっていて……」

「……フウと、お付き合い?」


 その人は、その単語を聞くと、今度はちゃんと、しっかりと笑った。

 どこか嘲笑するように。

 でもなぜか、芽榴はその笑みに不快感を覚えなかった。


「ごめんけど、それ何かの間違いじゃない? だってフウと付き合ってるのはもう十年以上ずーっと、私なんだから」


 その美女は、余裕そうな笑みを芽榴に向ける。

 堂々とした物言いは、それを嘘だとは思わせなかった。


「芽榴ちゃん、お料理終わったー? って……え!?」


 ちょうどお風呂掃除を終えたらしい風雅がこちらにやって来た。

 目の前にいる女の人を見た瞬間、風雅の顔を青ざめた。対してその女の人は嬉しそうに風雅に近寄って、綺麗な顔を綻ばせた。


「な、なんで、今、この、タイミングでここに……っ!」

「フウ〜、会いたかった! 今日泊めてよ? いいでしょ?」

「はあ!? ちょっと待って! いきなりなに!?」


 風雅は慌てているが、その女性を邪険には扱わない。そうしてまた、その女の人は風雅にしがみついて、芽榴のほうを振り返った。


「ね? 分かったでしょ? フウが大事にしてるのは私なの」

「ちょっと何言って……ふぐっ」


 その人は困惑する風雅の口を勢いよく、塞ぐ。塞ぐ、というよりわし掴む勢いで。


 そこまで見れば、もう芽榴の中の憶測は確信に変わった。

 芽榴が深く息を吐くと、風雅の顔が引きつる。


「芽榴ちゃん、この人は……っ!」

「うん、分かってる」


 そう答えて、芽榴は小さく笑って、かわいらしく頭を下げた。


「はじめまして。先程はご挨拶が拙くてすみません。改めて、楠原芽榴です。風雅くんのお姉さんの……雪乃さん、ですよね」


 一切の不安を感じさせない、柔らかい口調で、芽榴は風雅の姉、雪乃に挨拶をする。


「なぁんだ、バレてたの。……まあ、出だしから『こんばんは』なんて言ってくる時点で、浮気の心配はしてないわよね」


 雪乃は肩を竦め、「ごめんね」と悪びれもなさそうに謝った。


「姉ちゃん……」

「いいじゃない。あたしが彼女だったら、即別れてるけど、信じてもらえてる証拠。お姉ちゃんのおかげで分かったんだからありがたく思ったら?」

「そんなことしなくても、芽榴ちゃんはオレのこと疑わないし! オレが芽榴ちゃん一筋なの分かってくれてるし!」

「いくらその顔でも必死すぎてキモいんだけど」

「姉ちゃん……っ!!」


 風雅のことを芽榴以上に辛辣に扱う、その人は紛れもなく風雅の姉だ。


「こっちこそ、ひどいことしてごめんね。風雅の姉の雪乃です」


 口角を上げるだけの笑顔。

 ただそれだけで美しいと思わせる。

 さすがは風雅の姉。人を魅了する容姿は弟と同じものを感じた。







 話を聞いてみると、雪乃は先程彼氏と喧嘩をして家を飛び出したらしい。

 ちょうど合鍵を持っている(風雅は奪い取られたと説明)風雅の家が近くにあるということで、泊めてもらおうと立ち寄ったらしいのだ。


「まさか、フウが彼女とイチャイチャしてるとはね〜」

「前から言ってるじゃん!! 来るときは連絡してって! 芽榴ちゃんとの時間を誰にも邪魔されたくないし! オレと一緒にいる芽榴ちゃんのかわいさを誰にも知られたくないし!」

「その重さなら、そう長くないうちに振られそうだね……芽榴ちゃん、フウと付き合うのしんどくないの?」


 雪乃に話を振られ、芽榴は目をパチパチと瞬かせた。

 ちなみに手元は雪乃に渡されたお椀に、鍋のスープと具材をよそっているところだ。


「なんで姉ちゃんまで、芽榴ちゃんのご飯食べてんの!?」

「だって美味しいから」

「当たり前でしょ!! これは芽榴ちゃんがオレのために作ったの! 姉ちゃんのためじゃないの!」

「こういうとこ。うるさくない? 無理じゃない?」


 見ているだけで仲良しの姉弟だとわかる。

 明らかに芽榴と圭の仲の良さとはベクトルが違うけれど。

 芽榴がクスクスと笑うと、風雅が「芽榴ちゃん!」と涙目で訴えてきた。


「高校の時に、慣れましたよ。最初はうるさいって毎日言ってました」

「え……高校でもこんなだったの? 嘘でしょ。それなのにモテてたの? 麗龍の女たち、やっぱり頭おかしかったんだね」

「芽榴ちゃんにだけだから! 他は外面良くしてたから!!」

「聞いた? 芽榴ちゃんのこと好きなくせに他の女に愛想振りまいてたって。うわぁ、いやだいやだ。本当、フウは無理だわ」

「姉ちゃん!!」


 そんな会話を続けていると、雪乃が飲んでいたお酒が空になった。

 もちろん、そこで「もうなくなったから飲まない〜」というような姉ではない。


「フウ、買ってきな。大至急」

「なんで!」

「寒いし、お姉ちゃん酔っ払ってるから」

「どこが酔っ払ってんの!? オレも寒いよ!」

「え〜、じゃあ芽榴ちゃんに行ってもらおうかな〜」

「すぐに帰ってくるから待ってて! 芽榴ちゃんに変なこと吹き込まないでよ!?」


 そんなことを叫びながら、風雅はコンビニに買い出しに行かされたのだった。


 部屋に、雪乃と二人きり。

 緊張感が走る空気。

 なんとなく、この状況をわざと雪乃が作り上げたように思えた。


「フウといて、楽しい?」


 雪乃は風雅の飲みかけのお酒を奪って、それを口にする。芽榴が頷くと「そっか」と小さく答えた。


「まさかフウが本当に一人の女の子に本気になるなんて、思ってなかったなぁ」


 今の今まで。芽榴にこうして会うまで。

 雪乃は心のどこかで信じていなかったのだと言った。


「フウには一生ちゃんとした彼女ができないと思ってたし、できなくていいと思ってたんだけどね」


 雪乃は芽榴から目を離さない。今、風雅と付き合っている芽榴に言うべきことではないと分かっていながら、雪乃は芽榴に伝えていた。


「だってそのほうが、フウも……フウの本気で好きになった芽榴ちゃんも幸せだから」


 それは、誰もが心のうちに秘めている本音。

 生徒会のメンバーも、聖夜も慎も、家族でさえも、みんな知っている。


 風雅が芽榴を想うことで、芽榴が傷ついた過去も。

 その事実に傷ついて、風雅が苦しんだことも。


「でも、フウは変わったね。……それって芽榴ちゃんのおかげなんでしょ?」

「……風雅くんが言ってましたか?」

「ううん。でも昔ね。好きな子がいるってフウがはじめて教えてくれたことがあったの。……それから、フウは変わったよ。本当に」


 雪乃は嬉しそうに言った。

 本当に風雅のことを思っているのだと芽榴にも分かった。


「だからね。フウが『いい子』だって自信満々に言ってのけた芽榴ちゃんが、どんな子なのかすごく気になってた」


 そして今日偶然にも出会った。

 雪乃は芽榴のことを『風雅の言っていた、その子』だとすぐに気がついた。


「あれからフウがその子と付き合うことになったーってわざわざ報告してくれることはなかったから。最初来た時は、芽榴ちゃんのこと……また昔みたいに適当に付き合った女の子かな? とも思ってたんだけど。……彼氏の部屋に別の女が入ってきて、『こんばんは』って普通ないでしょ?」


 雪乃はキャハハ、と思い出して愉快に笑った。


「ああ、この子が例の子かってすぐに分かった。だからちょっと試したの。フウがあんなに想ってるのに、この子は疑うかな? って」


 でも芽榴は疑わなかった。雪乃が風雅の姉だと見抜いた。


「最初は、少し驚きました。でも、もし風雅くんが私以外で付き合ってる人なら……たぶんもっと怒ると思ったんです。それに、少なからず私と同じくらいには動揺するだろうって。でも雪乃さんは終始楽しそうだったので」


 そのあと、風雅とのやりとりを少し見て確信した。


「風雅くんがどんなに変わっても、女の子にあんな態度はとらないですもん。だから、分かりました」


 芽榴が笑うと、雪乃は「残念」と舌を出してクスッと笑った。


「じゃあ、試さずに今度は直接聞こうかな」

「え?」


 芽榴が首をかしげると、雪乃は笑みを携えたまま、机に頬杖をついた。


「もし……フウが昔みたいに、女の子からの誘いを断れなくなったら、芽榴ちゃんどうする?」

「え?」

「たとえば、付き合ってくれないと芽榴ちゃんに何かする〜って言われたら、フウは考えなくもないと思うんだよね」


 そして、そんな女子が現れる可能性は少なくない。


 雪乃の質問は鋭くて、難しい。


 でも芽榴は、少し間を置いたのち、静かに口を開いた。


「そのときは、風雅くんとたくさん話します」

「話す?」

「私は藍堂くんっていう武術の天才にも認められたくらい強い子だから大丈夫だってこと。もう簡単には傷つかないってこと。……それを約束して、付き合ったっていうこと」


 付き合う時に最初に約束した。

 二人なら、今度は乗り越えられるって。

 そんなことが起こり得る可能性も、分かっていたから。


「そして風雅くんに尋ねます。私と別れたいか、別れたくないか。それでもし風雅くんに別れたくないって気持ちがあるなら……私は、別れないで済む道を考えます。風雅くん一人に抱え込ませないように」


 一人で抱え込んだら、悪い方にしか向かわない二人だから。

 でも二人なら、正しい道を選ぶことができたから。


「だから、私が風雅くんのそばにいるうちは……風雅くんを悲しませないつもりです」


 笑顔で、でも真剣な瞳で、芽榴は雪乃に宣言した。

 雪乃はやはり少し驚いた顔をしたけれど、すぐに嬉しそうな微笑みを返してくれた。


「そっか。なら、安心」





 それから、風雅が帰って来て、また3人で盛り上がっていた。

 雪乃がいる、ということを理由に、芽榴は一人でお風呂に入るという説得に成功し、一人で風雅の浴室に向かった。


「もうっ、全部姉ちゃんのせいだ……。オレと芽榴ちゃんのラブラブ計画が……」

「お風呂くらいいつでも一緒に入れるでしょ」

「芽榴ちゃんはなかなか入ってくれないの!」

「あっそ」


 雪乃はバカ正直な弟にため息を吐く。


「逆に芽榴ちゃんはこの愚弟のどこがいいのやら」

「なに?」

「別に。ただ、芽榴ちゃんが男なら私も堕ちてだだろうなーと思って」

「……っ、芽榴ちゃんはオレのだよ!?」


 風雅の的外れな焦りに雪乃は呆れたようなため息を吐く。


「分かってるわよ。だから男だったら、って話。まあでも……あれはすごくモテるでしょ? 顔もかわいいし」


 雪乃がそう尋ねると、風雅の顔が一段と青ざめた。


「姉ちゃんが他人をかわいいって言うとかやばくない? 芽榴ちゃんヤバイわ。そうだよ。モテるよ。めちゃくちゃ。もうオレなんかの比じゃないから」

「しかも自覚してなさそうなタイプよね」

「そう! そうなんだよ!」


 風雅は数ある芽榴のモテエピソードを雪乃に語る。もちろん自分が感じた芽榴のかわいいエピソードもしっかり添えて。


「まあ……そういうわけだから、ちゃんと捕まえておきなよ? 私もあの子なら義妹にしたいと思うから」


 雪乃が眉を下げて告げると、風雅は今までのふざけた態度を不意に消した。

 そして稀に見せる、真剣な顔で。

 写真立てに飾られた、芽榴と二人で撮った写真を見つめながら。


「うん。もう決めてるから。……絶対、誰にも渡さないって」


 その一週間後、クリスマスがやってくる。




読者様からのリクエスト①により、雪乃との対面話でした!

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