(8)
好きな人に褒められてるんだよね? あたしって今。
ここは素直に喜んでいいのよね?
・・・えへへ。
「お前は泣いても、涙を拭いてまた走り出す。精一杯前を向いて」
・・・そ、そうかな? えへへ。
「自分にできる最善を尽くそうとする。自分と人に誠実に」
いやあ、そうかなぁ?? えへへぇ。
「オレも好きだ」
そうか・・・・・・・
へ?
「オレも、お前のそんな所が好きだよ。七海」
・・・・・・・っ!!!
瞬間沸騰したみたいに顔が真っ赤に染まった。
体中がボンッ!って音をたてたみたいに、心臓が高鳴る。
あ・・・あぁ、あ・・・
こ、これは、予想外の奇襲攻撃・・・・・。
両目をパチパチさせて、ひょっとこみたいに口を尖らせ必死に呼吸する。
そうでもしないと酸素供給が追いつかないっ。それぐらい激しく心臓がバクバクしてる!
「好き」という言葉に、一瞬で翻弄されてしまった。
あたしの全身を、そのひと言が包み込んでしまう。
でも・・・
そんなあたしを見つめる大地の表情は、とても穏やかで。
全然、あたしみたいに動揺していないの。その優しい目を見れば、分かる。
あたしと大地の「好き」の温度の違いが。
恋情と友情の壁が。
あたしと大地は単なる同士。
大地が恋してるのは、あくまでもお姉ちゃん。
「オレもお前を見習うよ。最善を尽くしたい。・・・大切な人のために」
そう。大地の想う大切な人は、あたしのお姉ちゃん。
その深い眼差しも精一杯の最善も、全てはお姉ちゃんのため。
彼の胸を焦がし捉えて離さないお姉ちゃんのため。
たとえ・・・
他の男の子どもを身篭っているとしても。
そこまで一途にお姉ちゃんに恋し続ける大地を見て、あたしの心は密かに涙を流す。
きっとあたしは振り向いてはもらえないんだろう。大地にとってはお姉ちゃんが運命の恋人だから。
あたしにとって唯一の救いは・・・
大地の想いも、あたし同様に振り向いてはもらえない事実。
彼の恋もきっと叶う事は無い。その事実に、あたしの胸は安堵している。
ひどい話。
大地の不幸があたしの慰め。
これが本当に「恋する」って事なんだろうか?
たぶん・・・そうなんだろう。
今まで知らなかった事を知って、あたしは大人になるんだろう。
自分自身の醜い部分と向き合って行くんだろう。
その現実に歯軋りしながら。叶わぬ想いの無力さを嘆きながら。
それでも・・・
「じゃあ、行くとしますか?」
大地が好きで、一緒にいたい気持ち。
お姉ちゃんが好きで、幸せになって欲しい気持ち。
この気持ちはどちらも、紛れも無いピカピカの本物だ。
だから、胸張って行くとしよう。涙を拭きつつ精一杯進むとしよう。
自分自身が、いま最善と信じる道を。
言えない気持ちを抱えながら
切ない想いを秘めながら
顔で笑って素知らぬふりで
歯軋りしながら進むとしよう。
いつか・・・いつか必ず。
とりとめも無い、その言葉をお守りのように。
明日、何が起こるか分からない道を歩いていくとしよう。
これなら出来ると思った事を、とりあえず信じてやってみよう。
うん、そうだよ。見上げる空は青空だし・・・
ここで御仕舞いじゃないんだから!
「案内頼むよ、大地」
「オレに任せろ、方向オンチ」
おどける大地の背中を、あたしは笑って威勢良く叩いた。
ばっかやろお―――。
・・・大好きだよ。
あたし達は一緒に並んで部屋を出る。
梅の間に向かうために・・・。




