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皆が部屋から出て行って、あたしと大地は無言で時を過ごす。

なんていうか・・・言葉が出てこなくて。

胸の中の感情や想いを、うまく単語で表現できない。


それでも、お互いの感じている事は良く分かる。

そんな不思議な感覚に満ちていた。


でもやっぱり時間が経つにつれ、話し合いの様子が気にかかる。

いったいどんな状況なんだろう? まだ終わらないのかな?

・・・荒れた展開になってないかな? 心配で気になって、どうしようもない。


ここで、ただじっとして待っているだけのあたし。

何もできない、何もしないあたし。

心配するだけで、じりじりと秒針の進む音ばかりを聞いている。


カチ、カチ・・・。

カチ、カチ、カチ・・・。

カチ、カチ、カチ、カチ・・・・。


・・・あ―――もうっ!!!



「もー嫌、もーダメ、もー限界!!」


机をバンッ!と叩きつけて、あたしは立ち上がった。


「なんだ?足の痺れが限界なのか?」

「違うわよ!」


いや、確かに足も痺れてはいるんだけど!

ここでこうして、じっと待ってるだけって状況が限界なの!


ちょっと時間がかかり過ぎてない!? 心配しながら待ってる人がいるってのに!


「おい、どうするつもりだ? テルばーちゃんに言われたろ?」

「言われた事はちゃんと理解してるっ」

「なら・・・」

「言い付けを破るつもりはないよ」


しゃしゃり出て行くつもりは無いんだ。ただ話しを聞くだけ。

聞くだけなら邪魔にならないし文句も無いでしょ?


「いや、あるだろう? 今さら部屋に行ったって入れてもらえないぞ?」

「部屋になんて入らないもん」

「はあ?」

「どっか盗み聞きできるような所を探す」

「はああ??」

「梅の間、とか言ってたよね? 確か」


ポカンとしてる大地を尻目に、あたしはさっさと部屋の中を見渡した。

ええと・・・あったあった。民宿内の見取り図。


ここで座って待ってたって足が痺れるだけよ。

どこで待っても結果は同じなら、盗み聞きでもしてた方がよほど進歩的だわ。

見つかって叱られたら、足が痺れたんで運動してましたぁ、とでも言っときゃいいや。


「へえ? 梅の間って大広間なんだぁ」

「おい」

「入り口に耳を押し付ければ、中の音が聞こえるかな?」

「おいっ」

「無理なら外から・・・」

「おいって」

「なによ? バレても大地は知らなかった事にしてればいいから」

「オレも行く」

「・・・へ?」


大地は隣に来て、見取り図を確認した。


「方向オンチのお前が見たって、何のことか分かんねえだろ?」

「大地・・・」

「お前らしいよ。すごく」


大地は楽しそうに笑う。


「ここで言われるままに引っ込んでたら、そりゃ確かに桜井 七海じゃねえよな」

「・・・・・・」

「花梨のヤツが言ってたぞ」


花梨ちゃんが? ・・・何を?


「お前は向こう見ずで、見境無くて、突っ走っては転んでばかりで・・・」

「え゛?」

「面倒かけるし、心配させるし、手間はかかるしで・・・」

「・・・ちょとぉ・・・」


いったい何を話してたのよ? ふたりして。

そりゃ確かに、いちいちごもっともだから反論ひとつできないけどさ。


「すぐ落ち込むし、すぐ泣くし・・・」


まだ続くんかいっ。


「でも・・・」

「でも? なによっ?」

「でも、そこがお前の良いとこなんだとよ」

「・・・・・!」

「そんなお前が、あいつは大好きなんだとさ」


う゛・・・っ!


よ、予想外の攻撃・・・!


顔をポッと赤くして、言葉に詰まってしまった。な、なに言ってんのよ花梨ちゃんてばもう!

照れちゃうでしょうがぁぁっ! そんな事、わざわざ人に言う事じゃないでしょ!?

大地、あんたもわざわざ教えてくれなくてもいいんだからっ!


心の中で文句を言いながら、顔は嬉しくて正直にニヤけてしまう。

そんなあたしをおもしろそうに眺めながら大地は言葉を続けた。


「オレもそう思うぜ?」

「え?」

「お前は向こう見ずだけど、いつも自分を正直に見つめてる。突っ走り屋だけど、一生懸命走ってる」

「・・・・・」


パアァッと顔が赤く染まっていく。

ま、また予想外の攻撃・・・。

褒め、てる? 大地、あたしのこと褒めてる?


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