(7)
皆が部屋から出て行って、あたしと大地は無言で時を過ごす。
なんていうか・・・言葉が出てこなくて。
胸の中の感情や想いを、うまく単語で表現できない。
それでも、お互いの感じている事は良く分かる。
そんな不思議な感覚に満ちていた。
でもやっぱり時間が経つにつれ、話し合いの様子が気にかかる。
いったいどんな状況なんだろう? まだ終わらないのかな?
・・・荒れた展開になってないかな? 心配で気になって、どうしようもない。
ここで、ただじっとして待っているだけのあたし。
何もできない、何もしないあたし。
心配するだけで、じりじりと秒針の進む音ばかりを聞いている。
カチ、カチ・・・。
カチ、カチ、カチ・・・。
カチ、カチ、カチ、カチ・・・・。
・・・あ―――もうっ!!!
「もー嫌、もーダメ、もー限界!!」
机をバンッ!と叩きつけて、あたしは立ち上がった。
「なんだ?足の痺れが限界なのか?」
「違うわよ!」
いや、確かに足も痺れてはいるんだけど!
ここでこうして、じっと待ってるだけって状況が限界なの!
ちょっと時間がかかり過ぎてない!? 心配しながら待ってる人がいるってのに!
「おい、どうするつもりだ? テルばーちゃんに言われたろ?」
「言われた事はちゃんと理解してるっ」
「なら・・・」
「言い付けを破るつもりはないよ」
しゃしゃり出て行くつもりは無いんだ。ただ話しを聞くだけ。
聞くだけなら邪魔にならないし文句も無いでしょ?
「いや、あるだろう? 今さら部屋に行ったって入れてもらえないぞ?」
「部屋になんて入らないもん」
「はあ?」
「どっか盗み聞きできるような所を探す」
「はああ??」
「梅の間、とか言ってたよね? 確か」
ポカンとしてる大地を尻目に、あたしはさっさと部屋の中を見渡した。
ええと・・・あったあった。民宿内の見取り図。
ここで座って待ってたって足が痺れるだけよ。
どこで待っても結果は同じなら、盗み聞きでもしてた方がよほど進歩的だわ。
見つかって叱られたら、足が痺れたんで運動してましたぁ、とでも言っときゃいいや。
「へえ? 梅の間って大広間なんだぁ」
「おい」
「入り口に耳を押し付ければ、中の音が聞こえるかな?」
「おいっ」
「無理なら外から・・・」
「おいって」
「なによ? バレても大地は知らなかった事にしてればいいから」
「オレも行く」
「・・・へ?」
大地は隣に来て、見取り図を確認した。
「方向オンチのお前が見たって、何のことか分かんねえだろ?」
「大地・・・」
「お前らしいよ。すごく」
大地は楽しそうに笑う。
「ここで言われるままに引っ込んでたら、そりゃ確かに桜井 七海じゃねえよな」
「・・・・・・」
「花梨のヤツが言ってたぞ」
花梨ちゃんが? ・・・何を?
「お前は向こう見ずで、見境無くて、突っ走っては転んでばかりで・・・」
「え゛?」
「面倒かけるし、心配させるし、手間はかかるしで・・・」
「・・・ちょとぉ・・・」
いったい何を話してたのよ? ふたりして。
そりゃ確かに、いちいちごもっともだから反論ひとつできないけどさ。
「すぐ落ち込むし、すぐ泣くし・・・」
まだ続くんかいっ。
「でも・・・」
「でも? なによっ?」
「でも、そこがお前の良いとこなんだとよ」
「・・・・・!」
「そんなお前が、あいつは大好きなんだとさ」
う゛・・・っ!
よ、予想外の攻撃・・・!
顔をポッと赤くして、言葉に詰まってしまった。な、なに言ってんのよ花梨ちゃんてばもう!
照れちゃうでしょうがぁぁっ! そんな事、わざわざ人に言う事じゃないでしょ!?
大地、あんたもわざわざ教えてくれなくてもいいんだからっ!
心の中で文句を言いながら、顔は嬉しくて正直にニヤけてしまう。
そんなあたしをおもしろそうに眺めながら大地は言葉を続けた。
「オレもそう思うぜ?」
「え?」
「お前は向こう見ずだけど、いつも自分を正直に見つめてる。突っ走り屋だけど、一生懸命走ってる」
「・・・・・」
パアァッと顔が赤く染まっていく。
ま、また予想外の攻撃・・・。
褒め、てる? 大地、あたしのこと褒めてる?




