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「なら大人には相談できるかね? あんたよりもずっと年上で、長生きしてるような大人には?」
「でき・・・ます。信頼できる大人なら」
「大人と子どもの違いってのは、そういう事さね。確かに大人なんて別に偉くもなければ不完全だし、間違いも起こすがねえ」
でも、ただシワくちゃなだけでもないのさ。カカカ・・・。
おばあちゃんはそう言って、大きな口で笑った。
その血色の良いピンク色の口の中。見ているうちに、あたしはホケッと興奮が抜けるのを感じる。
・・・・・。
ええっと。
ちょっと冷静に考えてみよう。
つまりおばあちゃんが言うところ、あたしが今してる事って・・・。
「エロ本みつけた幼稚園児が、なんで見ちゃダメなんだ?って泣いてダダこねてるのと同じ事?」
「おま・・・よりによって何でエロ本なんだよ!?」
大地があたしの肩をビシッと叩いた。
だ、だってえぇ・・・。とっさに浮かんじゃったんだもん。しかたないでしょ?
顔を赤らめてる大地を見て、あたしの顔も赤くなってしまう。
おばあちゃんはカカカと大笑い。
「おもしろい子達だねえ。名前は?」
「七海です」
「オレは大地です」
「ふたり共、今は少し早いんだよ。大人の領分に入り込むのはね」
「・・・・・」
「なあに、急がなくてもいずれは嫌でも領分に入る時が来るさ」
まだどこか納得しきれないあたしの表情を見て、おばあちゃんは目を細める。
そしてあたし達を温かく見つめながら語り続けた。
諭すような、でもちっとも押し付けがましくない。
物語でも読み聞かせてくれてるような優しい声・・・。
だからね、あんた達。
今だからこそ、あんた達には子どもしか入れない領分の中でするべき事があるんだよ。
「その時」が来るまで学べる事を学ぶのさ。
たくさんの学問と、学問以外の多くのことを。
慌てなくていいからね。時間はたーんとあるんだから。
羨ましいぐらいねぇ。
それをたっぷり贅沢に使って、色んな物を見て聞いて・・・
たくさん肥やしにしんさいよ。
そうやって何とかかんとか、自分の足で立って生きていけるようになった時・・・
心底から助けたいと思う人に、手を差し伸べられるかもしれないよ?
だから、今は・・・
今はただ、自分で大人になるために頑張って生きんさい。
歯ぎしりしながら生きんさい。
今の自分の無力を嘆くように生きんさい。
そうして進んで行けば、その先に望む自分がいるかもしれんから。
辛いだろうが、耐えんさい。
それが全ての子どもの辿る道なんだよ。
「それを抜けなきゃ、誰も大人になんぞなれんからねえ」
「おばあちゃん・・・」
「そんな堅苦しい。テルちゃんでいいよお」
「いや、それはさすがにちょっと」
テルおばあちゃん、あたりで落ち着かせよう。
「テルおばあちゃん。でもあたし、今までずっとお姉ちゃんの事を守ってきたんです」
ずっと。ずーっとずっと。
お姉ちゃんの大事な場面や、ここ一番って時には、いつもあたしが支えてきた。
傲慢かもしれないけどその自負がある。
「お姉ちゃん、あたしが側についていないと言いたい事も言えないと思うんです」
それが心配なんだ。
今までのお姉ちゃんの人生は、諦めの連続だった。最後には諦めるという事に慣れてしまっている。
素直で優しい性格だから他人の気持ちばかり優先しようとするし。
「だからあたしが側にいないと、あたしが守ってやらないと、お姉ちゃんは・・・」
「そうかねえ? あたしは案外、一海ちゃんは頑固者だと思うけどね」
頑固者? お姉ちゃんが?
あれ? それって以前、確か大地も同じ事を言ってたような・・・?
大地を見上げると、あたしを見て何度も頷いてる。
お姉ちゃんが頑固者・・・。
そんな事、生まれた時から一緒に居ても、一度も思った事なかったけど。
でも大地もテルおばあちゃんも同じ事を言ってるって事は・・・
お姉ちゃんには頑固者の素養があるって事?
知らなかった。気付かなかった。
家族なのに。姉妹なのに。
それでも気付かない・・・
ううん。近すぎる家族だからこそ、気付けない部分ってあるのかもしれない。




