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「当人が産みたいって言い張るなら、そりゃ産む以外ねえだろうしな」

「まさか、一海さんの腹を蹴り上げて流産させるような事も無いだろうしねぇ」

「おま・・・過激な発想だなっ」

「だから、そんな事は誰もしないって言ってんのよ!」

「お前だったらやりかねないな・・・」

「なによそれっ!?」


目を吊り上げた花梨ちゃんは、ふんっと息を吐いて気を取り直す。


「でも手紙には、探さないでって書いてるわよ?」

「探すに決まってるでしょ? そんなもん」


あたしも、ふふんっと息を吐いて胸を張る。

だれが「はい、そうですか」って言う通りにするもんか。

そんなバカ正直な。

当然、探させてもらうわよ。キッチリと。


「でもどうやって? 住所も電話番号も何も書いてねえぞ?」

「それをこれから皆で考えるの!」

「お前、そんなエラそうなくせに何の案も持ってねえのかよ・・・」


大地が呆れたようにガックリ頭を垂れる。

なによっ、しかたないでしょ?

こーゆーのはね、まず気合が大事なのよ気合が。

それに何の案も無いのは、あたしだけじゃないじゃんっ。


「ふふふふふ・・・」


花梨ちゃんが腕を組み、ニヤリと忍び笑いを始めた。


「・・・なに?花梨ちゃん。悪徳代官みたいな笑い方して」

「なんであたしが悪徳代官なのよ!?・・・さて、これは何でしょう?」


じゃーんと取り出した封筒。それってお姉ちゃんの手紙が入ってた封筒?

その封筒の、花梨ちゃんの人差し指がさす場所に・・・


〇〇県〇〇市〇丁目〇番地


民宿 『癒しの山神』


しっかりと、そう明記されていた。


お、お姉ちゃ・・・。

おたしは思わず赤面する。

住所が印刷されてる封筒使ったら、隠れてる意味ないでしょ!?

我が姉ながら恥ずかしいよ、もう!


「一海さんの抜けっぷりに助けられたわね」

「恥ずかし~も~お姉ちゃんってば!」

「いいじゃねえか。一海さんらしいし。本当に元気そうだな」


大地と花梨ちゃんが笑った。

ま、まあ確かに。これで有力な手掛かりがつかめたしね。


「お姉ちゃん達、この民宿に泊まってるのかな?」

「それか、ここで働いてるかね」

「働いてる?」

「周囲の親切とか、お世話になってる人がどうとか書いてたでしょ?」

「あぁそういえば・・・」

「民宿なら住み込みで働いてるかもな」

「寝泊りする場所の確保にもなるし、お金は稼げるし」


そうか。それならここで働いてる可能性が高い。

よーしよーし! 明るい光が見えてきたあ! さっそく明日にも現場に突撃だ!


「明日って、学校は?」

「当然、ズル休むよ」


とてもノンビリ週末まで待っていられないよ! すぐに行ってお姉ちゃん達の元気な姿を見たい!


「ちょっと七海ちゃん、確認もしないで行くつもり?」

「だって電話確認なんてしたら、バレて逃げられるかもしれないじゃん」

「本人たちがそこに居なかったらどうすんのよ」

「どうもしない。ただ帰ってくるのみ」

「あのねぇ・・・」

「当たって砕けろだよ。大丈夫」


居ないなら居ないで、周りの人達から情報聞き出さなきゃならないし。

どっちにしろ行かなきゃ。なら早いにこした事ないもんね。


「行くのはいいにしても、どうするんだ?」

「なにを?」

「親父達だよ。この事、話すか?」

「・・・あ~・・・」


それかあぁぁ・・・・・。

うーん、悩みどころだよなぁ、それはちょっと。教えたら事態がまた悪化しそうな気がするなぁ。


「せっかく沈静化してる親たちの頭が、再び沸騰しそうねぇ」

「その光景が目に浮かぶな」

「かなりストレス溜まってるもんね。噴火は間違いなしだよ」


その事態はヤバイよね。

それに親達を連れて行ったら、お姉ちゃん達のショックが大きすぎる。

ここはまず、あたし達だけが行くべきじゃないかな?

その方がお姉ちゃん達も心を開きやすい気がする。


「あたしは遠慮するわ」

「花梨ちゃん、一緒に来てくれないの?」

「本音を言えば、行きたいわよすごく。でもここはやっぱり遠慮すべきでしょ」


家族の話し合いの場だからね。そう言う花梨ちゃんにあたしは頷いた。

花梨ちゃんの、いつものそういう気遣いってエライと思う。

時々、水臭いって思う事もあるんだけど。

でも礼儀正しいその線引きは、長く付き合ううえで大切なものなのかもしれないなぁ。


「でもあんた達、一緒に行って大丈夫?」

「え? 大丈夫って何が?」


聞き返したあたしは、ハッと気付いてパァァっと顔を赤らめた。

や、やだもう花梨ちゃんたら! なに想像してんの!?

いくら二人っきりで小旅行するって言っても日帰りだし! そんな心配なんて無用だってば!

もう! 花梨ちゃんてエッチなんだから!


「あんた達いま、学校に目を付けられてるんでしょ?」

「・・・・・へ?」

「千代ちゃん七ヶ条よ。疑惑持たれてるんでしょ?」

「あ、あぁそれ? うん。付き合ってるんじゃないかって疑われてる」

「それなのに一緒に行動して大丈夫なの?」


な、なんだその心配してたの?

えっちな想像してたのは、あたしだけか・・・。


「うまいこと言って、疑われないよう理由つけて学校休むから大丈夫」

「オレも今から何か理由考えとくよ」

「もっともらしい理由を考えなさいよ。疑われちゃだめよ」

「ああ分かってる」

「七海ちゃん、おばさんにバレないように自然に振舞うのよ」

「うん」


あたし達三人は、お互いの顔を見ながら深く頷き合う。

花梨ちゃんに、くれぐれもバレないように繰り返し忠告され、あたしは家に帰った。


実際お母さんの顔を見た時の気まずさは、かなりのもので。

黙ってる罪悪感に胸がチクチクする。でも絶対にバレるわけにはいかない。

・・・お母さんだって本気で心配してるんだけどなぁ。でもごめんね。言えないんだよ。


あたしは懸命に努力して、完璧に自然を演じきってみせた。

そして翌日。


あたしは何食わぬ顔をして家を出た。自然に、いつも通り学校へ行く振りをして。

そしてそのまま、大地と待ち合わせの駅へ向かう。

ホームへ行くと、もう大地はそこであたしを待っていた。


「来たか、七海」

「うん・・・」

「そんな緊張した顔すんなよ」

「うん。大丈夫だよね?」

「ああ大丈夫だ」


大丈夫。大丈夫。きっとうまく事が運ぶ。

お姉ちゃんも柿崎さんも元気に過ごしていて・・・そして、あたし達の話し合いはうまくいく。

大丈夫。きっと大丈夫・・・。


座席に座り、窓の外を見ながら心の中で何度も繰り返す。

あたしと大地は、振動を身体に感じながら言葉少なに時を過ごす。


目的地へと、ひたすら心を逸らせながら・・・。


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