(2)
「ねぇ花梨ちゃん・・・」
「なに?」
「おじさん、きっと怒ってるよね?」
「・・・・・」
「絶対絶対、怒ってるよね? ものすごく怒ってるよね?」
「過去の経験から言わせてもらえば、相手は激怒してるわね」
「だよね・・・・」
状況、最悪。
明るい展開になりそうな気配が、ひとっつもない。あたしのせい? あたしのせい??
・・・あたしのせいだよね。当然。
さらに落ち込んでヒザを抱え込むあたしを見て、花梨ちゃんが背中をさすってくれた。
そして大地に話しかける。
「ちょっと大地。あんたの父親の、その後の様子はどうなのよ?」
「親父は、その件に関しては一切オレに話さない」
「じゃあ、おんたのお兄さんから聞き出しなさいよ」
「こっちには情報が流れて来ないんだよ。兄貴もずっと難しい顔して黙り込んでるし」
「使えない男ねぇ。あんたって」
「しかたねえだろ? 自業自得とはいえ、親父もショック受けてんだよ」
大地がガリガリと頭をかく。
「最後の『ハゲ!!』ってのがなあ、余計だったよなあ」
「・・・・・『はげ』??」
「七海がウチの親父に投げつけた暴言だよ」
「うわ、そんなこと言ったの?」
「まずい事に、実際、気にしてたんだよ最近。親父のやつ」
「じゃあ七海ちゃん、痛い所にクリーンヒットかましちゃったのね?」
「『ハゲ』ってのはさ、男にとって禁句なんだよ」
「わかる。まさに逆鱗よね」
「男を殺すのに刃物はいらないんだよ。『ハゲ』とひとこと言えばいいんだよ」
「『ハゲ』って致命傷ね・・・」
花梨ちゃんと大地の会話を聞きつつ、あたしは救いようが無いほど落ち込んでしまう。
・・・言わなきゃ良かった。『ハゲ』なんて。
だって目に付いたんだもん。
おじさんの頭のてっぺんが。
よく見もしないで突っ走る。それはあたしの悪いクセ。
いや、今回は良く見たからこそポロッと出ちゃった暴言なんだけど。
小さい頃からさんざん忠告されてるのに、また突っ走っちゃった。
進歩無い。あたしって、全然。
「ねぇ大地」
「ん?」
「あたし、柿崎さんに謝りたいな」
「兄貴にか?」
「うん」
「・・・どっちかっつーと、親父に謝るべきじゃねえか? 順序からいうと」
「ゴメン。まだそこまで心が整備されて無いの」
わだかまりというか・・・まだおじさんに対して素直になりきれない気持ちがある。
どうやら時間がかかりそうで。
だから先に、柿崎さんに謝っておきたいの。余計なことしてごめんなさいって。
「一海さんには謝ったのか?」
「うん」
「そうか」
もちろん自宅に帰ってから速攻で謝ったよ。
でもお姉ちゃんは、ひと言もあたしを責めなかった。
責めないどころか「七海、ごめんね。お姉ちゃんを許してね」って逆に謝られてしまった。
自分のせいで、あたしをこんなトラブルに巻き込んでしまったと思ってるんだ。きっと。
お姉ちゃんが謝ることなんか、ひとっつも無いのに。
「じゃあ、皆で店に行くか」
「そうね、あたしも久々にブレンドが飲みたいし」
「お前、ちゃんと金払えよな」
「おごりなさいよ。男のクセにせこいわね」
「ふたり共、一緒に行ってくれるの?」
あたしは丸めていた背中を伸ばして二人を見た。




