運命は行動力と思い切り(1)
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
学校の・・・
いつもの、物置小屋裏の場所で。
あたしは座ってヒザを抱え、完璧に落ち込んでいた。
その隣には、花梨ちゃんと大地が一緒。
空を見上げて、ふたり揃って軽く溜め息をついている。
「七海ちゃん、それからどうなったの? 聞かなくても想像はつくけど」
「想像、つく? やっぱり?」
「うん、つく。かなり正確に」
「・・・たぶんその想像、当たってると思う」
あの後。
大騒ぎになった。
頭からビーフシチューを被ったおじさんは体中ヤケドしてしまって。
大慌ての大地に引っ張られてお風呂場へ直行。冷たいシャワーで全身を冷やしていた。
「この時期、冷水のシャワーはキツイよねぇ」
「親父、辛そうに悲鳴あげてたなぁ・・・」
「それでヤケドの具合は?」
「大丈夫だ。それほどひどくはなかったみたいだぞ」
「良かったね。七海ちゃん、傷害事件の主犯になるとこだったよ」
ほんとに。
危うくまた優太郎のお世話になるところだった。今度こそ本格的に。
「お母さんがさ、おじさんに平謝りでさ・・・」
「当然でしょ。我が子がしでかした事は、ぜーんぶ親にしわ寄せが行くんだもの」
「うん・・・。」
あたしは、軽いヤケドとはいえ人様に怪我を負わせちゃったわけで。
その事実を前に、お母さんの頭にのぼっていた血は一気に急降下したらしい。
すっかり恐縮してしまって半泣きで謝罪し続けていた。
もう、土下座せんばかりの勢いで。
その姿を見て・・・
さすがにあたしも、一気に冷静さを取り戻した。
「あたし、かなりヤバイ事しちゃったかなぁって・・・」
「したわね。かなり」
「したなぁ。かなり」
「だよね・・・」
「なんでそこで踏みとどまらなかったの? 昔のあたしの事件、忘れたわけじゃないでしょ?」
「そりゃ覚えてるけどさ」
「人間、感情にまかせて突っ走ると、その代償って大きいのよ」
「だってガマンできなかったんだもんっ」
ヤケドさせちゃったのは、悪いと思ってるよ? ちゃんと反省もしてるよ。
でもさ、でも!
おじさんのあの言葉はないと思う! いくらなんでも! しかも当人や家族の目の前で!
・・・とても抑えきれずに爆発しちゃったんだよ。
「一海さんを抑えるために行ったんでしょ? 自分が水素爆弾になってどうすんのよ」
「反省してます・・・」
「まぁ、ウチの親父だって自分のツケを払ったわけだよ」
「大地・・・」
「あんなこと言われちゃ、七海が腹立つのも無理ない。あれは親父が悪いさ」
大地が慰めてくれる。その気持ちが、すごく嬉しい・・・。
でも、それを言ったらウチのお母さんだって同罪なわけで。
でも柿崎さんも大地も、お母さんに対して腹を立てても冷静だった。
誰もビーフシチューをぶん投げたりなんてしなかった。
向こう見ずに突っ走ったのは、あたしだけ。あたしが一番問題だ。
どんなに立派な正統な理屈があっても、人に怪我をさせたらお終いだもの。
「シャワーの後、おじさんを病院に連れて行く事になってさ」
「そうね。一応診てもらった方が良いものね」
「えらくバタバタして慌ただしかったよなあ」
「それで結局、一海さんと柿崎さんの件は棚上になったの?」
「うん・・・」
そうなの。棚上げになっちゃったの。・・・あたしのせいで。
あたしがあんな騒ぎを起こさなかったら、話は進展してたかもしれないのに。
今頃決着がついて落ち着いてたかもしれないのに。
「お姉ちゃんがさ・・・」
「一海さんが?」
「泣いてたんだ」
「・・・・・」
泣いてた。
おじさんが大地に付き添われて病院に行った後。
泣きながら、床に飛び散ったビーフシチューを掃除していた。
「その姿を見たら、もう、あたし・・・」
申し訳なくて申し訳なくて・・・。
胸が詰まって、あたしも泣いてしまった。
お姉ちゃん、どんな気持ちで掃除してたんだろう。自分が心を込めて作った料理の残骸を。
こんな状況になってしまって。妹が、全部ぶち壊しにしてしまって。
どんな、気持ちで・・・・。
柿崎さんになだめられながら、ゾウキンで床を拭くお姉ちゃん。
あたしは、申し訳なさ過ぎて、ふたりに近づくことすらできなくて。
手伝う事もできず、そばに突っ立ったまま泣いていた・・・。




