(2)
それはほとんど全部、大地がこなしてくれた。
いやあ~、口がうまく回るヤツって便利だわ! 大地って絶対、社会に出ても失敗しないと思う。
うまぁ~く世渡りして、地味にしぶと~く生き残っていくタイプだわ。
うーむ・・・。
こういうのと結婚すれば、食いっぱぐれなくて安心安全かもねぇ。
「対照的な兄弟ね」
「なにがだよ?」
学校の廊下で書類片手に、あーだこーだと話し合ってる時、大地の顔を見ながらつくづく思った。
兄の方は穏やかでのんびりさんで、夢見がち。
片や弟は、現実的で実行派で図太い。
同じ血を引く兄弟なのに、こんなに性格って違うのね。長男と次男の違いかしらね?
半ば感心してるあたしに、大地も同意する。
「お前と一海さんも正反対だしな」
「あたしとお姉ちゃん?」
「姉は一見気弱そうで、じつは案外頑固者。妹はしっかり者に見えて、かなりふわふわ危なっかしい」
「なによぉ!」
「おまけに姉は地道な性格だけど、妹は甘えん坊だ」
「あま・・・!」
な・・・なによ甘えん坊って!
なんかそれって、アレじゃない!?
まるであたしが、あんたに毎日べたべた甘えてるみたいに聞こえるじゃない!?
心から頼りきってるみたいじゃない!?
「ああ。お前はオレに甘えてるだろ?」
「な・・・・・!?」
笑いながら、あっさり言われたその言葉に顔を赤らめた。
胸がどきんとする。
あ、甘・・・? あたしがあんたに甘えん坊になってるって・・・!?
やめてよ! なんかすごく恥ずかしい!
そ、そりゃ確かに多少は甘えてるけど!
・・・あ、いや、そーじゃなくて!
頼りになる男だなと思ってるだけで!
・・・あ、いや、そーじゃなくて!!
だから、そーゆー恥ずかしい事じゃなくて!!
・・・てか、なんでそれが恥ずかしい事になるんだっけ?
なんであたし、顔を赤くして、こんな心臓どきどきさせてんの??
大地は書類をめくりながら、真面目な顔をして書き込んでいる。
結構広い肩幅。大きくてゴツイ手と指。
シャツの襟元から覗く鎖骨の辺り。
背も高くて、靴のサイズもあたしとはこんなに違う。
な、なんかどきどきする。
なんで? なんでなんで? なんでこいつの鎖骨や手や指にどきどきすんのよ!
だいたい靴のサイズってなによ! 変態かあたしは!
あたしがどきどきしていいのは柿崎さんだけよ!
永遠の運命の人である、彼だけ! そーだ、そもそもこいつが悪い!
『お前はオレに甘えてる』
なんて失礼で恥ずかしい事を言うから!
そーゆー事はね、レディに対して言っちゃいけないのよ! そーゆーもんなのよ!
自分でも良くわかんない理屈だけど!
あたしは、あたしはねぇ・・・!
「あたしは柿崎さんが好きなんだからぁっ!!」
・・・し―――――ん・・・・・・・
あたしの絶叫に、廊下にいた生徒全員がこっちを見た。
大地も目を丸くしてあたしを見てる。そして、ぽつりと言った。
「・・・知ってるけど・・・??」
かあぁっと顔に血が集まった。
恥ずかしいやらみっともないやらで、もう、もう・・・。
「知ってるなら、よろしい!!」
訳分からない捨てゼリフを残し、あたしは大地にクルリと背を向けた。
そしてドスドス大股で歩き出す。
「おい、この書類・・・」
「適当に記入して出しといて!」
「適当ってお前・・・」
大地の呆れた声が背後から聞こえた。
ふんっ! 知るもんか! あんたが悪いのよ! こんな恥かかせてさ!
ばーかばーか!
あぁもう! なんか分かんないけどすっごい腹立つ!!
イライラするうぅぅ~~!!!
あたしはグシャグシャ髪を掻きむしりながら、ずんずん廊下を進む。
その後は一日中、機嫌が悪かった。
学校が終わってお店に手伝いに行っても、どうにもおさまらない。
大地が話しかけてきても、つんっと無視してやった。
大地は肩をすくめて
「女ってほんと分かんね・・・」
そうつぶやいていた。




