(11)
「病弱な姉を必死に守ってきたんだろ? 黄色い安全帽被ってるようなチビすけが」
「・・・・・」
「誰にでも出来る事じゃねえぞ? お前、自分で分かってんのか?」
「だって・・・」
だからそれは。
あたしが優越感に浸って・・・
「浸っていいんだよ」
「え?」
「立派な事をしたんなら、優越感に浸る権利ぐらいあるだろ?」
「・・・・・」
「正々堂々、浸れ。オレが許す」
きゅん・・・
胸が切なく痛んだ。
体がふわりと浮き上がり、心もフッと軽くなる。
だめだよ。軽くなっちゃ。だって・・・
「あたしはお姉ちゃんを見下して・・・」
「そりゃカン違いだ」
「・・・・・」
「あたしって頑張っててエライ!って思うのと、他人を見下すことは一緒じゃねえよ」
「・・・・・」
「お前はゴッチャにしてんだよ。言ったろ? 見えなくなってるって」
とん・・・とん・・・とん・・・
ふわり・・・ふわり・・・
風を受けて体が浮き上がる。浮遊感に全身が包まれる。
あたしの心と一緒に。
「お前さ・・・」
「・・・なに?」
「一海さんの事、好きだろ?」
「うん」
「じゃあ間違いねえよ」
とん・・・とん・・・
ふわり・・・ふわり・・・
「お前は絶対、好きな相手を見下せるようなヤツじゃない。断言できるぜ」
すううぅ・・・
心の中に風が入り込んで、吹き抜ける。
「オレが言ってんだから間違いない」
「・・・・・」
「親を亡くした苦労人が言う事には、真実味があるぜ。信じろよ」
吹き抜ける風が、押し流していく。心の中の重石を。
軽くなる。どんどん、どんどん。あぁ・・・浮上していく。
「・・・あたしだって親を亡くした苦労人ですけど?」
「人間の格が違うんだよ、格が」
「えっらそーに」
「だから、偉いんだよオレ様は」
「オレさまあぁ~~?」
大地の明るい笑い声が聞こえた。
大地の手の平が背中に当たる。大きくて固い感触。そして・・・
とても温かい。
その手に背中を押されて、あたしは浮き上がる。
ふわり、ふわり。
戻るたびに、間違いなく大地の手は繰り返し受け止めてくれる。
そしてあたしはまた浮き上がる。
風を受けて、ふわりふわり。
「ねえ大地」
「んー?」
「お姉ちゃんってさぁ、色白で華奢で、ロングヘアーが似合っててさぁ」
「んー」
「憧れの姫君なんだってさぁ」
「おお、そうだなあ」
風を切って浮き上がるあたし。あたしを受け止め押し上げる大地。
髪の毛が流れて乱れ、スカートがめくれ上がる。でも気にしない。
だってここには、あたしと大地だけ。
「それに引き換えあたしは、早とちりで先走りで、全然可愛くないけどぉ」
「おー」
「こら! そこで納得すんな!」
あたし達は笑った。夜の公園にあたし達の声が響き渡る。
「でもさぁ」
あたしも自分の力でブランコをこぎ出す。
「でも、それでも頑張って恋しちゃってもいいよねぇ!」
とん・・・っ!
「おーっ」
大地の大きな手に押されて、ひときわ高く浮き上がる。
風が気持ちいい。浮揚感が気持ちいい。軽い。体が、心が軽い。
さぁとりあえず浮き上がろうよ。
頑張って浮き上がろう。
大丈夫、心配ない。後ろに頼れるヤツがいるから。
それ、足を動かして!
ほら、前を向いて!
情けないあたしだけど、ほら見て。なんとかなるもんだよ。
うん、けっこう大丈夫そうだ。
「大地ぃ!」
「んー?」
「ありがとう!」
大地はあたしの後ろから移動した。横に立ち、あたしを見上げる。
なんとか自分でブランコをこぎ出したあたしを確認するように。
あたしは大地に向かって微笑んだ。
大地もすごくいい顔で笑ってくれた。
その笑顔を見て、あたしの心はますます浮上する。
高く、高く、高く。
切ないような、疼くような、痛いような、嬉しいような。
不思議な胸の高鳴り。言葉にできない高揚感。
そして大きな安心感。
なんだろう。今まで感じた事の無いこの感覚は。
風を切り、体をいっぱいに動かす。
そのせいか、心臓がドキドキしてる。さっきからずっと。
・・・ずっと。
大地に見守られながらあたしは
そんな不思議な自分の感覚に包まれていた。




