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「病弱な姉を必死に守ってきたんだろ? 黄色い安全帽被ってるようなチビすけが」

「・・・・・」

「誰にでも出来る事じゃねえぞ? お前、自分で分かってんのか?」

「だって・・・」


だからそれは。

あたしが優越感に浸って・・・


「浸っていいんだよ」

「え?」

「立派な事をしたんなら、優越感に浸る権利ぐらいあるだろ?」

「・・・・・」

「正々堂々、浸れ。オレが許す」


きゅん・・・

胸が切なく痛んだ。

体がふわりと浮き上がり、心もフッと軽くなる。

だめだよ。軽くなっちゃ。だって・・・


「あたしはお姉ちゃんを見下して・・・」

「そりゃカン違いだ」

「・・・・・」

「あたしって頑張っててエライ!って思うのと、他人を見下すことは一緒じゃねえよ」

「・・・・・」

「お前はゴッチャにしてんだよ。言ったろ? 見えなくなってるって」


とん・・・とん・・・とん・・・


ふわり・・・ふわり・・・


風を受けて体が浮き上がる。浮遊感に全身が包まれる。

あたしの心と一緒に。


「お前さ・・・」

「・・・なに?」

「一海さんの事、好きだろ?」

「うん」

「じゃあ間違いねえよ」


とん・・・とん・・・


ふわり・・・ふわり・・・


「お前は絶対、好きな相手を見下せるようなヤツじゃない。断言できるぜ」


すううぅ・・・


心の中に風が入り込んで、吹き抜ける。


「オレが言ってんだから間違いない」

「・・・・・」

「親を亡くした苦労人が言う事には、真実味があるぜ。信じろよ」


吹き抜ける風が、押し流していく。心の中の重石を。

軽くなる。どんどん、どんどん。あぁ・・・浮上していく。


「・・・あたしだって親を亡くした苦労人ですけど?」

「人間の格が違うんだよ、格が」

「えっらそーに」

「だから、偉いんだよオレ様は」

「オレさまあぁ~~?」


大地の明るい笑い声が聞こえた。

大地の手の平が背中に当たる。大きくて固い感触。そして・・・

とても温かい。


その手に背中を押されて、あたしは浮き上がる。

ふわり、ふわり。

戻るたびに、間違いなく大地の手は繰り返し受け止めてくれる。

そしてあたしはまた浮き上がる。

風を受けて、ふわりふわり。


「ねえ大地」

「んー?」

「お姉ちゃんってさぁ、色白で華奢で、ロングヘアーが似合っててさぁ」

「んー」

「憧れの姫君なんだってさぁ」

「おお、そうだなあ」


風を切って浮き上がるあたし。あたしを受け止め押し上げる大地。

髪の毛が流れて乱れ、スカートがめくれ上がる。でも気にしない。

だってここには、あたしと大地だけ。


「それに引き換えあたしは、早とちりで先走りで、全然可愛くないけどぉ」

「おー」

「こら! そこで納得すんな!」


あたし達は笑った。夜の公園にあたし達の声が響き渡る。


「でもさぁ」

あたしも自分の力でブランコをこぎ出す。

「でも、それでも頑張って恋しちゃってもいいよねぇ!」


とん・・・っ!


「おーっ」


大地の大きな手に押されて、ひときわ高く浮き上がる。

風が気持ちいい。浮揚感が気持ちいい。軽い。体が、心が軽い。


さぁとりあえず浮き上がろうよ。

頑張って浮き上がろう。

大丈夫、心配ない。後ろに頼れるヤツがいるから。


それ、足を動かして!

ほら、前を向いて!


情けないあたしだけど、ほら見て。なんとかなるもんだよ。

うん、けっこう大丈夫そうだ。


「大地ぃ!」

「んー?」

「ありがとう!」


大地はあたしの後ろから移動した。横に立ち、あたしを見上げる。

なんとか自分でブランコをこぎ出したあたしを確認するように。


あたしは大地に向かって微笑んだ。

大地もすごくいい顔で笑ってくれた。

その笑顔を見て、あたしの心はますます浮上する。


高く、高く、高く。


切ないような、疼くような、痛いような、嬉しいような。

不思議な胸の高鳴り。言葉にできない高揚感。

そして大きな安心感。

なんだろう。今まで感じた事の無いこの感覚は。


風を切り、体をいっぱいに動かす。

そのせいか、心臓がドキドキしてる。さっきからずっと。


・・・ずっと。


大地に見守られながらあたしは

そんな不思議な自分の感覚に包まれていた。


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