(7)
あたしはスカートの生地を指先でイジる。
「大地・・・」
「んー?」
「・・・ごめん」
「んー、まあ、さすがに驚いたっつーか・・・ちょっと心配したけどな」
「ごめん」
「何事もなかったんだから、いいんじゃね? 別にさ」
大地が、ぽんぽんとあたしの肩を軽く叩いた。その手の重さとか、強さとか、大きさとか・・・
それらの全部に慰められているようで・・・あたしは、また泣きたくなった。
ごめんね、大地。ごめんね。
そんで・・・えと・・・
「ありがとう・・・」
ぽん、ぽん、ぽん・・・
大地の手が、あたしの肩を優しく叩く。慰めるように。
ありがと大地。ありがとう・・・。
それを見ながら優太郎が渋い顔をしている。
「おい、良く無いだろ全然。ちゃんと反省しろよ」
「なによ、そもそもあんたのカン違いじゃんかっ」
「目上の者に向かって、あんたとはなんだよ」
「あんたで充分っ。性根の腐ったイジメッ子のくせに!」
机に頬杖ついて苦笑いする優太郎に、あたしは食って掛かる。
気恥ずかしいのと、情け無いので居たたまれなくて。こいつを攻撃する事で気を紛らわすしか方法が無い。
いいよね、別にさ。だってこいつがイジメッ子だったのは、周知の事実だしっ。
ここはひとつ、カッチリ謝罪してもらおうじゃないの!
警官なんだから、そこらへんは市民の模範になってよね!
「イジメッ子?」
大地が首を傾げながら優太郎を見た。
「そーよ! こいつ小学生の頃、毎日のようにお姉ちゃんを泣かしてたんだから!」
「へえ・・・?」
「最悪でしょ!? 最低でしょ!? 天敵よこいつは!」
「はあ、なるほどねー」
「きっちり謝って・・・え?」
・・・なるほど? なるほどって? なにが??
大地は何かを納得したように優太郎に向かって話しかける。
「つまり、そーゆーコトっすか?」
「つまり、まあ、そーゆーコトだよ」
「なるほど。分かります」
「な? 分かるだろ?」
にやにやにや・・・。
男同士で見詰め合ってにやにや笑ってる。気色悪いわよ、ちょっと。
何をふたりで理解し合っちゃってんのよ?
「そーゆーコトってなによ??」
「女には分かんねーかもなあ」
「偉そうに女性蔑視発言してないで、教えなさいよ!」
あたしは男ふたりの顔を交互に見て叫んだ。大地が笑いながらそれに答える。
「児童心理学の初歩ってやつだよ」
「児童・・・?」
「好きな女の子ほどイジメたい」
「・・・・・」
「このおまわりさん、一海さんに恋してたんだよ」
「・・・・・」
えええぇっ!!?
恋ぃっ!!?
優太郎がお姉ちゃんに!!?
あたしはビックリして優太郎を見た。優太郎は頬杖したまま、ニコニコとこっちを見ている。
「そ。俺の甘酸っぱい初恋ってやつだよ」
「・・・・・」
「まだ子どもだから、自分の恋をどう表現すればいいか分からなくてな」
「・・・・・」
「イジメる事でしか、好きな子に近寄れなかった。いやー切ない」
・・・・・。
優太郎がお姉ちゃんの事を好きだった?
お姉ちゃんが虚弱なのを、軽蔑してからかってたんじゃないの?
あたし、てっきりそうだと思ってた。だって・・・
「だって、あんただけじゃなく周りの男の子達も一緒にイジメてたじゃん」
「あー。一海、あの頃からモテてたからなあ」
「もてて?」
「おう。ライバル多かったんだぜ?」
じゃ、あの当時の男の子達全員がお姉ちゃんを好きだったの!?
お姉ちゃんがモテてた!?
・・・うそでしょ? だってそんな、だって・・・。
あたしは思いもよらなかった事実に驚くばかり。
だってお姉ちゃんは体が弱くて。
なにもできなくて。
いつもイジメられてて。
かわいそうで。
あたしが守ってあげなきゃって・・・。




