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あたしはスカートの生地を指先でイジる。

「大地・・・」

「んー?」

「・・・ごめん」

「んー、まあ、さすがに驚いたっつーか・・・ちょっと心配したけどな」

「ごめん」

「何事もなかったんだから、いいんじゃね? 別にさ」


大地が、ぽんぽんとあたしの肩を軽く叩いた。その手の重さとか、強さとか、大きさとか・・・

それらの全部に慰められているようで・・・あたしは、また泣きたくなった。

ごめんね、大地。ごめんね。

そんで・・・えと・・・


「ありがとう・・・」


ぽん、ぽん、ぽん・・・

大地の手が、あたしの肩を優しく叩く。慰めるように。

ありがと大地。ありがとう・・・。



それを見ながら優太郎が渋い顔をしている。


「おい、良く無いだろ全然。ちゃんと反省しろよ」

「なによ、そもそもあんたのカン違いじゃんかっ」

「目上の者に向かって、あんたとはなんだよ」

「あんたで充分っ。性根の腐ったイジメッ子のくせに!」


机に頬杖ついて苦笑いする優太郎に、あたしは食って掛かる。

気恥ずかしいのと、情け無いので居たたまれなくて。こいつを攻撃する事で気を紛らわすしか方法が無い。


いいよね、別にさ。だってこいつがイジメッ子だったのは、周知の事実だしっ。

ここはひとつ、カッチリ謝罪してもらおうじゃないの!

警官なんだから、そこらへんは市民の模範になってよね!


「イジメッ子?」

大地が首を傾げながら優太郎を見た。


「そーよ! こいつ小学生の頃、毎日のようにお姉ちゃんを泣かしてたんだから!」

「へえ・・・?」

「最悪でしょ!? 最低でしょ!? 天敵よこいつは!」

「はあ、なるほどねー」

「きっちり謝って・・・え?」


・・・なるほど? なるほどって? なにが??


大地は何かを納得したように優太郎に向かって話しかける。


「つまり、そーゆーコトっすか?」

「つまり、まあ、そーゆーコトだよ」

「なるほど。分かります」

「な? 分かるだろ?」


にやにやにや・・・。

男同士で見詰め合ってにやにや笑ってる。気色悪いわよ、ちょっと。

何をふたりで理解し合っちゃってんのよ?


「そーゆーコトってなによ??」

「女には分かんねーかもなあ」

「偉そうに女性蔑視発言してないで、教えなさいよ!」


あたしは男ふたりの顔を交互に見て叫んだ。大地が笑いながらそれに答える。


「児童心理学の初歩ってやつだよ」

「児童・・・?」

「好きな女の子ほどイジメたい」

「・・・・・」

「このおまわりさん、一海さんに恋してたんだよ」

「・・・・・」


えええぇっ!!?

恋ぃっ!!?

優太郎がお姉ちゃんに!!?


あたしはビックリして優太郎を見た。優太郎は頬杖したまま、ニコニコとこっちを見ている。


「そ。俺の甘酸っぱい初恋ってやつだよ」

「・・・・・」

「まだ子どもだから、自分の恋をどう表現すればいいか分からなくてな」

「・・・・・」

「イジメる事でしか、好きな子に近寄れなかった。いやー切ない」


・・・・・。


優太郎がお姉ちゃんの事を好きだった?

お姉ちゃんが虚弱なのを、軽蔑してからかってたんじゃないの?

あたし、てっきりそうだと思ってた。だって・・・


「だって、あんただけじゃなく周りの男の子達も一緒にイジメてたじゃん」

「あー。一海、あの頃からモテてたからなあ」

「もてて?」

「おう。ライバル多かったんだぜ?」


じゃ、あの当時の男の子達全員がお姉ちゃんを好きだったの!?

お姉ちゃんがモテてた!?


・・・うそでしょ? だってそんな、だって・・・。


あたしは思いもよらなかった事実に驚くばかり。

だってお姉ちゃんは体が弱くて。

なにもできなくて。

いつもイジメられてて。

かわいそうで。

あたしが守ってあげなきゃって・・・。

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