(6)
血相変えた柿崎さんとお姉ちゃん、そして大地が交番に駆けつけて来たのは、それから30分後だった。
「七海ちゃん! 大丈夫!?」
「ななみぃ!」
「おい七海! どういうことだよ!?」
イスにしょぼくれて座っているあたしに、矢継ぎ早に声が掛けられる。
あたしは顔も上げられない。
あんまりに情けなくて。
落ち着きなく室内に目を走らせる。
無機質なスチール製のテーブル。戸棚の中のたくさんのファイル。
背表紙の「巡回」「地域安全」「女性相談」の文字。あちこちの交通安全ポスター。
どれもこれも、『いかにも警察』な雰囲気満点。
それらのアイテムに囲まれて、あたしは身を縮める。
結局、カフェまで連絡が行ってしまった。誤解だって一生懸命説明したんだけど・・・。
だからって「はいそーですか」って帰すわけにはいかないって言われて。
きちんと保護者を交えて、事実確認をしなきゃだめだって言われた。
本当は学校にも連絡が行くところだって言われて、冷や汗をかいた。
「すみません、桜井 七海の姉です。このたびは本当に・・・」
ぺこぺこと何度も頭を下げるお姉ちゃん。
優太郎が懐かしそうに声をかけた。
「久しぶりだな。元気そうでなによりだ」
「・・・・・?」
「俺だよ。イジメッ子の優太郎」
「・・・あっ!」
「はは、懐かしいな本当に」
驚いてポカンとしていたお姉ちゃんが、ハッと我に戻る。
「あの、あなたが七海を?」
「ああ、まあ、そうだよ」
「ごめんなさい。ご迷惑をかけてしまって・・・・」
「もう暗かったからな。あんな格好で厚化粧して駅前に子どもが立ってたら、やっかいな事になるから」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい・・・」
お姉ちゃんは涙声で繰り返し謝っている。
その声を聞いたらあたしも泣きたくなってきた。
お姉ちゃんを出し抜こうとしたあたし。それで先走って、こんな騒動起こしちゃって。
出し抜こうとしたお姉ちゃん本人に、責任とらせて謝らせて。
・・・情け無い。
ほんとにあたしって、どうしていつもこうなんだろ。
「全部僕の責任なんです」
柿崎さんの声が聞こえた。
あたしは視線を下げたまま、ぴくんと震える。
「七海ちゃんは悪くないんです。本当に申し訳ありませんでした!」
勢い良く頭を下げる気配。柿崎さんがあたしのせいで警察に謝ってる。
ずっと頭を下げっぱなしで、ずっとずっと謝ってる。
・・・やだ。もう我慢の限界。涙出ちゃうよぉ・・・。
鼻がツーンと痛み始めた時、白髪頭のお巡りさんが話しかけてきた。
「七海ちゃん、だったね?」
「・・・はい」
「お姉さん達と話があるから、少しの間待っててくれるかい?」
あたしは涙ぐみながら、こくりと頷いた。
そのお巡りさんと一緒に、お姉ちゃんと柿崎さんが奥の部屋へ入って行った。
ふたり共、お巡りさんに怒られるのかな?
あたしのせいだ。完璧にあたしが悪い。
お店の営業に支障が出たらどうしよう。ごめんなさい。お姉ちゃん、柿崎さん・・・。
大地がガタガタとパイプ椅子を引っ張ってきた。
そしてあたしの隣に座る。
気まずくて、あたしは体を硬くした。
「お前・・・」
「・・・・・」
「なんだよその格好は」
「・・・・・」
「しかも、よりによってそのメイクはねえだろ? なんだそりゃ?」
「・・・・・」
「まるで40年前の和田ア〇子・・・」
「うるさいっ!!」
バチン!と思いっきり大地の腕を引っ叩いた。
なによその例えは! どっから和田ア〇子が出てくんのよ!
しかも40年前ってどーゆー事!?
優太郎が向かいの席に座って大ウケしてるのも腹が立つ!
「七海の彼氏か? うまいこと言うなあ!」
「彼氏じゃない! こんなバカ男!」
「おいおい、お前を心配して駆けつけてくれたんだぞ?」
「別に頼んでないもん!」
「ガキみたいな態度をとるなよ」
「ガキじゃ・・・!」
ないもん!って叫ぼうとして・・・
言えずに黙った。
そんなセリフ、さすがに恥ずかしくて言えたもんじゃなくて。




