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その数時間後・・・

あたしはカフェから近い駅前に立っていた。


コスプレ衣装をバッチリ着込んだ状態で。


大地と別れた後、あたしはレンタルショップに駆け込んだ。

以前パーティーした時、グッズを借りたお店。

その時いろんな貸衣装があるのを感心しながら見ていた記憶がある。

その当時よりもさらに豊富な種類が用意されていて、あたしは感動した。


巫女さんの衣装、ピエロの衣装。お姫様の衣装、魔法使いの衣装。

全身タイツも・・・うぅ~~ん、すごい!!


さてと、どれがいいかな?


メイド服も捨てがたいけど、これ着るとなぁ。メイドカフェとカン違いする早とちり男が出てきそうだし。

やっぱり、あたしにはこれが一番かな?


レンタルの手配を済ませて、次は100均へ。

ファンデ、口紅、チーク、アイライン、付けまつ毛。

適当に片っ端からカゴに放り込む。家に帰れば自分のがあるけど、今はそんな時間無いから。


必要な物を揃えたあたしは、荷物を両腕で抱えて駅に走った。そしてトイレに飛び込む。

大急ぎで着替えて、かなり濃い目のメイクを手早く済ます。

荷物をロッカーに突っ込んで、チラシを持ち、駅前に立った。


ウサギさんコスプレ。

フワモコの真っ白な超ミニワンピが可愛い。

お尻の丸シッポ、垂れ耳も真っ白で、手袋もふ~わふわ。

そして太もも丈の白ニーソックス。


どうだ!

堂々たる白ウサギコスプレ娘の誕生だあっ!!


「カフェ どりーむでぇす! よろしくお願いしまあす!」


ちょっと緊張しながら、大きな声で道行く人にチラシを配る。

もちろん、すっっごく恥ずかしいのよ!

こんな田舎じゃコスプレ自体が珍しい。

ジロジロ見られて恥ずかしいけど、愛の力を信じて頑張らなきゃ!


辺りはもう薄暗いし、濃い目のメイクだし。

あたしはいつもの桜井 七海じゃない! 今日のあたしはnew七海なのよっ!

・・・って、なんとか自分を奮い立たせてチラシを配り続ける。


近所で地味にチラシを配布してるだけじゃダメよ。できるだけ強烈なインパクトが必要なの。

あ、何だろう? え? あれって何? みたいなインパクトが。


そう、注目!

注目が大切なのよ宣伝には!


人を惹き付けて店に足を運ばせるんだ。一度来ちゃえばこっちのもんよ。

お姉ちゃんの料理はおいしい! 柿崎さんはイケメンで人格も最高!

リピーター間違いなしだ!

我ながら良く考え付いたもんだわ。ふっふっふ・・・。


もちろん、こんな衣装は大地には着られない。クマやパンダの着ぐるみなら着られるかもだけど。

着ないだろうし。絶対。

お姉ちゃんにも絶対に無理。こんな衣装、見ただけで熱出して吐きそう。


そう、これができるのはあたしだけ。

あたしにしかできない、特別な仕事なんだ!!


そう思うとすごく楽しい気分になる。あたしにしかできない応援の仕方。

これが実を結んで、お店が繁盛すれば・・・。

柿崎さんはきっとあたしに感心する。

そして、あたしという女性を改めて見直すキッカケになる。


頑張らなきゃ!! これは最高のチャンスなんだ!!


「カフェ どりーむです! よろしく・・・」

「・・・七海?」

「お願い・・・え??」

「お前、七海だろ? 七海だよな?」

「・・・・・・・」


話しかけてきた相手を見て、息が止まった。

一瞬で頭の中が危険信号で埋め尽くされる。

頭から発信された危険信号のせいで、全身が汗ばんだ。


別に、相手は酔っ払いのおっちゃんではない。危なげなヤンキー君でもない。

どちらかというと、その対極に位置する者。

市民の生活を守る正義の味方だ。


「お、おまわりさん・・・?」


制服姿の交番のおまわりさんが、あたしの目の前で怖い顔して突っ立っていた。


警官の制服ってすっごい威圧感。

権力の象徴だ。

声をかけられただけで、その威力に一般市民のあたしはビビッてしまった。

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