(2)
「ねぇ、大地」
「ん?」
「分かってたけど、大変だねぇ・・・」
花梨ちゃんの忠告が頭をかすめる。ほんと、花梨ちゃんはいつも正しい。
あの日あの時から、あたしと花梨ちゃんは宣言通り絶交状態に突入した。
ひと言も口を利いていない。
冷静な表情で、文庫本を読んでいる花梨ちゃんを見ると胸が痛んだ。
寂しいなぁ・・・。
キツイなぁ・・・。
はあぁぁ~~・・・。
また大きな深呼吸をして胸の息を吐き出す。
大地が慰めるように話しかけてきた。
「それでも今は目標に向かって進んでるだろ?」
「うん・・・」
「行き場が無くて泣くばかりだった頃に比べりゃ、絶対マシだ」
大地がキッパリ言い切った。
そうやって言い切ってもらえると、なんだか気持ちが楽になる。
うん、そう思って前に進むしかないよね。分かってて決めた事なんだから。
「たださぁ・・・」
「なんだよ?」
「予想外の罪悪感も生まれてきちゃってさぁ」
「予想外の罪悪感?」
うん。
柿崎さんとお姉ちゃんがさぁ、心底から感謝してくれるのよ。もう、本っっ当に!
このカフェのために親身になってくれてありがとう!!って。
あたしって、損得を考えずに人に尽くす清らかな少女だと思われちゃってる。
お姉ちゃんの『さすがあたしの自慢の妹』も、また炸裂しちゃって。
その現実とのギャップがねぇ・・・。損得無しどころか我欲の塊じゃん。あたしって。
柿崎さんとお姉ちゃんの関係をブチ壊そうとしてるってのに。
その当の本人たちからさ、面と向かってさ・・・
「感謝されるたびに、こう、胸がウズウズと・・・」
「お前もたいがいメンドくせぇ性格だな」
「めんどくさいって言い方は無いでしょ!?」
人の苦悩の思いを、簡単に片付けないでよね!
そりゃ覚悟してた辛さではあるけどさ! でも一般的に、苦悩するのが普通でしょ!?
あんたが普通じゃないだけよ!
「やらないで苦しむか、やって苦しむかの違いだろ?」
「・・・・・」
「なら、やって苦しむ方が100倍マシだ」
またキッパリ言い切られて、あたしは黙り込む。
そして自分の気持ちがまた少し、楽になっているのに気がつく。
大地と話してると、どんどん心が軽くなる。
だからあたしは、いつもケンカ越しに八つ当たりしてしまう。
またキッパリと言い切って欲しくて。
笑い飛ばして欲しくて。
辛さを軽くして欲しくて。
「やってる事は、間違いなく良い事だ。店の繁盛に繋がってるんだからな」
「・・・・・」
「潰れるより繁盛した方が良いに決まってるだろ?」
「うん・・・」
「明るい方向へ向いてんだよ。そう信じて頑張れ」
「うん」
あたしは頷いて笑った。
大地も明るい笑顔で笑う。
また、心が少し軽くなる。ホントだ。気持ちが明るくなってきたよ。
通りのお店で、大地がたこ焼きを買ってくれた。バス停のベンチに座り、並んでたこ焼きを食べる。
「あ・・・熱! はふぅ~~!」
「んめぇ! 熱々トロトロ!」
「ねぇ大地、またチラシ作ってさ、一緒にご近所に配って歩こうよ」
「おう。地道な作業が実を結ぶんだよな」
「今度はどんなデザインにしよっかなぁ」
「新メニューの開発も急がないと」
「忙しいねぇ」
話してるうちになんだか楽しくなってきた。
本当に、純粋にお店の為に頑張ってるような・・・。そんな気持ちになれる気がする。
ただの錯覚だけど、でも、気持ちは少しでも楽になる。
ありがとね、大地。
やっぱりあんたは同士で戦友だよ。
あんたと話してると救われる。すごくすごく気持ちが楽になって、明るい方向を向けるんだ。
最後のひとつのたこ焼きを奪い合いながら、あたし達は大騒ぎして笑う。
明るくて楽しい時間を過ごしながら、あたしは心の中で大地に深く感謝していた。




