運命のつまづき(1)
・・・と雄々しく決意したあの日から・・・
あたしのお店通いは始まった。
放課後まっすぐここへ来て、お店のテーブルを拭き、床を磨く。
小さいけどカラフルなお花を飾って。
新聞紙使って窓を拭いて・・・
よし! 今日もピッカピカ! 完璧!
でも・・・
今日もお客さん、来ないなぁ・・・。
新聞紙片手に、窓の曇りをとるふりして小さな溜め息をついた。
たまに来てくれるお客さんは、柿崎さんのお友達ばかり。
常連さんってやつね。
でも同じ顔ぶればかりで新顔が増える気配が一向に無いの。
商売繁盛に、新規の客の開拓は絶対条件なのになぁ。
「七海ちゃん、いつもお手伝いありがとう」
ハッとして、声の方を向いた。柿崎さんが笑顔であたしを見てる。
「七海ちゃんのお掃除は、相変わらず完璧だね」
あぁ・・・柿崎さんこそ! 相変わらず今日も完璧な笑顔ですねっ!!
あたしの顔は赤くなって、一気に心臓がバクバク鳴り始める。
「ごめんね。バイト代も払えなくて・・・」
「そ、そんな! これはお礼のつもりなんですから!」
あたしは思い切りブンブン手と顔を横に振った。
お姉ちゃんがいつもお世話になってるお礼に・・・
っていうもっともらしい名目で、あたしはお店通いをしている。
目的が目的だから、当然バイト代なんて眼中に無い。
それに、ここに来れば毎日柿崎さんに触れ合えるし・・・。
ただ、いろんな意味での成果はまだ現れていないんだけど。
カチャンと奥のドアの開く音がした。
お姉ちゃんと大地が揃って中に入ってくる。
「大地君ありがとう。助かったわ」
「いえいえ。何でもオレに言いつけて下さいよ!」
大地ってばデレデレしちゃってまぁ。
しまりの無い顔しちゃって、みっともなぁ~い。
実は大地も、あれから毎日お店通いをしていた。
野菜を運び込んだり、調理の手伝いをしたり。なんだかんだとお姉ちゃんとの接触をもくろんでいる。
あたしが迷子にならないようにって付き添いの名目で。
すっげ―失礼な名目だとは思うけど。
まぁ、同士で戦友なわけだから。ここはひとつ目をつぶってやろう。
ただ、やっぱり大地も思ったほどは成果を上げられていないみたい。
お姉ちゃんの隣で幸せそうにニコニコしてるだけだ。
お姉ちゃんの大地への反応も、何の変化も見られないし。
「ふたり共、今日もありがとうね」
「もう暗いから気をつけて帰るんだよ」
「あ・・・はい。お疲れ様でした」
「大地、七海ちゃんを頼んだぞ」
「ああ、分かってる。心配すんな」
で、今日もここで終了。
学生さんを遅くまで手伝わせられないって、柿崎さんが言うもんで。
閉店まで柿崎さんと一緒にいられない。
いつも大地と一緒に、ここでサヨナラ、また明日。
そしてあたしは大地に送られ、帰宅する。
トビラを開けて外へ出て、あたしはうーんと背伸びをする。
そして深呼吸して胸の中の空気を全部吐き出した。
黒くてモヤモヤするものを、一気に放出する。
はあぁぁ~~・・・。
「お疲れさん」
大地が笑って言った。
あたしも笑顔で返事を返す。
「そちらこそお疲れ様」
柿崎さんと毎日一緒に居られるようになった。それが単純に、すごく嬉しい。
胸はときめいて熱くなって、足元がふわふわする。すごく幸せで・・・。
ただ苦しみに耐えるだけの毎日じゃなくなった。その部分は確かに楽になったと思う。
でもお姉ちゃんの笑顔を、まともに見られなくなった。
お姉ちゃんの姿を見るたびに思い知る。あたしは裏切っているって。
そんなの分かりきって始めた事だったけれど、やっぱり辛い。
柿崎さんのそばに居られる幸福感。
いつかこの人と結ばれるかもしれないっていう期待感。
大切な実の姉を裏切っている罪悪感。
様々な感情が入れ替わり立ち代わり、あたしの心臓をサンドバッグみたいに叩き付ける。
これは結構キツイなぁ・・・。




