(7)
なんというか・・・もう・・・。
いや、分かるけどね。柿崎さんらしいよ。
通りすがりのドブに落ちた女の子を、背負って家まで送り届ける人だもの。
だからこそあたしは彼に恋したわけで。
あたしは柿崎さんの優しそうな笑顔を思い浮かべた。人の良さ丸出しの、あの笑顔を。
本当にお人好しを絵に描いたようだもんなぁ。
危険だわ。すごく。気をつけないと、あっという間に身ぐるみ剥がされそう・・・。
「先輩の亡くなった御両親の家だし。潰すわけにもいかねえよ」
「それはそーね・・・」
「ただ、悪条件なんだよ。立地条件も店構えも全部」
うん、確かにそう思う。
ごく普通の住宅街に、無造作に建ってるカンジだし。大きな通りに面してるわけでもないし。
人通りが少なすぎるんだよ、あそこ。
しかも・・・
あの外観じゃなあ。カフェだなんて気付かないよ誰も。
「外装まで手が回らなかったんだ。金が無くて」
大地が苦笑いして言った。
なるほどね。花梨ちゃんの説は大当たりだったわけだ。
最初から今に至るまで、経営難ってことね?
でも親友から預かった大切なお店。
なんとしてでも軌道に乗せたい。
「そして親友が帰国する暁には、胸を張って出迎えたいと」
「兄貴にだって男のプライドがあるのさ」
うむうむ、なるほど。よく分かった。
「一海さんが料理の面で協力してくれてんだけど、なかなかなぁ」
「お姉ちゃんが?」
ふんふん、なるほど。それもよく分かる。
お姉ちゃんの料理の味は絶品だ。身内贔屓を差し引いても、すっごくおいしい。
生真面目で、キッチリカッチリ手を抜かないあの性格が幸いしてるんだと思う。
「つまりお店を盛り上げる事ができれば・・・」
「かなりポイントが上がると思うぜ?」
よしっ!! 決まった!!
あたしがこの手で、あのカフェを盛り上げてみせる!
お姉ちゃんの料理が評判になってお店が繁盛したら、ますますあたしの入り込む隙間が無くなっちゃうもん。
それを指をくわえて黙って見ている手はない!
「あたしも今日からお店手伝う!」
「お前が?」
「柿崎さんと一緒の時間も増えるし、一石二鳥だもんね!」
「行くのか? お前が? 店に?」
「もちろんっ!」
「待て待て! また迷子になったらどうすんだ」
「大丈夫、心配ないって! 行く道は覚えてるから!」
「待て待て待て! 帰りはどうすんだ! 帰りは!」
慌てる大地の声は、あたしの耳には全然届かない。
あたしの頭の中は今後の計画設定で一杯だ。
よ――し! 頑張るぞ!!
絶対お店を繁盛させてみせる!!
柿崎さんの感謝度アップ、親密度アップ、そして・・・
愛情度急激アップだあ―――!!
うおおおぉぉ――――っ!!




