運命に立ちはだかる壁(1)
「・・・・・で?」
怒りマークが・・・。
語尾に、怒りマークがビシッバシと2個も3個もくっついてる・・・。
「あ、あの、花梨ちゃん・・・」
「で? それからどうしたの?」
「大地が自転車の後ろに乗っけて家まで送ってくれた・・・」
「そんな事聞いてるんじゃない!」
例の物置小屋の秘密の場所。
次の朝あたしは、花梨ちゃんに会うなりここへ引っ張ってきた。
昨日の事を説明するために。
花梨ちゃんには秘密にしておけない。どっかで絶対にバレるに決まってるもの。
へその緒よりも固い関係に、隠し事は不可能。今までだって秘密を隠し通せたためしが無いし。
内緒にしててバレた後が怖いの。花梨ちゃんって。
自分から暴露しちゃった方が何倍もマシ。
「一晩寝て頭を冷やして、ちゃんと思い直したんでしょうね?って聞いてるの!」
うわあぁぁ~~・・・。怒ってる。すごく。
腕組みして、指をトントンさせて、小首を傾げる。
これは警戒モードのポーズだ。このポーズになったら、結構ヤバイ。
『あたし、もうすぐ一線越えますよ? いいんですかぁ?』
って警告の状態なんだ。
花梨ちゃんがここまで怒るのも無理ない。
あたしとは、生まれた時からの付き合い。て事はつまり・・・
お姉ちゃんとも、それぐらいに付き合いが長いわけで。
花梨ちゃんにとっても、自分の姉みたいなもんなんだ。
「七海ちゃん、何言ってるか自分で分かってる?」
「分かってる」
「一海さんの恋人を奪うって言ってるんだよ?」
「奪うってんじゃなくて・・・」
奪いたいっていう希望的観測というか。
奪うかも?っていう予測の範疇というか。
「決してその、確定してるわけじゃなくてさ」
「ゴチャゴチャ言い訳がましいこと言わないで。罪悪感を軽くしたいだけでしょ?」
「は、はい。仰る通りです・・・」
容赦ないんだ。ほんとに。
花梨ちゃんには、ごまかしは一切通用しない。いつもあたしの本音を完全に見抜いてしまう。
どっかで精神世界が繋がってんじゃないかと思うくらい。
「罪悪感を感じるくらいなら、やめなよ」
「でも・・・」
「今ならまだ引き返せるんだから」
「・・・・・」
「ほんとは七海ちゃん、あたしに止めて欲しいんでしょ?」
止めて欲しい、というか・・・。
確かに、打ち明ける事で気を楽にしたかった。
自分の罪を告白する事で、ちょっとでも救われたかったのかもしれない。
懺悔ってやつかな。
「はっきり言うよ。やめなさい」
「花梨ちゃん・・・」
「気がとがめるんなら、それは、しない方が良いって事なんだよ」
「・・・・・」
「そんな事したら、あたし七海ちゃんのこと許さないからね」
「別にお前に許してもらう義理はねえよ」
突然後ろから声が聞こえた。
あたしも花梨ちゃんも驚いてそっちを振り向く。
いつの間にか大地が、すぐそこに立っていた。
やだ! 全然気付かなかった! いつからそこにいたのよ、あんた!
「大地!」
「七海、うまく丸め込まれてんじゃねえよ」
「ちょっと! 誰が丸め込んでるって!?」
花梨ちゃんが大地に噛み付くような勢いで怒鳴った。
「ちょうど良かった! あんたが地面ってやつね!?」
「大地だ、だいち」
「あんたこそ七海ちゃんを罪の道に引きずり込まないでよ!」
ジャリジャリと石を踏みつけて、花梨ちゃんが大地に近づいていく。
「あんたの口がうまくても、あたしは騙されないよ!」
「別に騙すつもりはねえよ。そもそもお前は関係ねえし」
「ある! あたし達は親友だもの!」
「お前の言う親友ってのは、相手の意思を無視して命令する相手の事か?」
花梨ちゃんは一瞬絶句した。
そして背の高い大地をギリリと睨み上げる。体格のいい男子相手でも、一切ひるまない。
ひるむようなタマじゃないんだ。花梨ちゃんは。




