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運命と本心(1)


「・・・・・で?」


その日の帰り道。

部活を終えた花梨ちゃんと一緒に帰りながら、さっきの出来事を説明してた。

「で? 七海ちゃんはどうするつもりなの?」


語尾に怒りマークがビシバシくっついてる感じで、花梨ちゃんが聞いてくる。

どうするって聞かれても・・・。


「まさかその、地面とかいうヤツの言う事を真に受けるつもりなの?」

「いや、地面じゃなくて、大地なんだけど・・・」

「似たようなもんじゃないの」

「全然違うよ花梨ちゃん」

って、あたしが言うのもなんだけど。


「とにかく、うさんくさい。その男」

花梨ちゃんは容赦なく大地の事を貶し始めた。


「そいつの言ってる事って、口が上手いから一見筋が通ってるようだけどムチャクチャ自己中じゃん」

「うん、そうだよね」

「自分さえ良ければ、人を傷つけても良いって事でしょ?」

「だよね」

「そういう手合いが将来、DV男になってストーカーに成り果てるのよ」

「そ、そう?」

「でなきゃ詐欺師かカルト教団の教祖よ」

「・・・それまたスゴイね」

「七海ちゃん、君子危うきに近寄らず、だよ。関わっちゃダメ」

「・・・・・」


ばしっと言い切られて、あたしは黙り込んだ。

返事をしないあたしを花梨ちゃんが不審がる。


「ちょっと七海ちゃんどうしちゃったの?」

「・・・・・」

「まさかもう洗脳されちゃったの?」

「いや、別に洗脳なんて・・・」

「そいつの言う通り、一海さんの事を傷付けるつもりじゃないでしょうね?」

「そんな事しないよっ!」


あたしは即座に否定した。

しない! そんな事しないよ! お姉ちゃんの事を傷つけるなんて事、したくない!


「そんな事できるくらいなら、初めから苦しまないもん!」

「よね? 七海ちゃん達姉妹の絆ってハンパなく強いもんね」

「うん、そうだよ」


あたしはお姉ちゃんの事が大好きだし。だから裏切る事なんてしたくない。

花梨ちゃんがうんうん頷きながら同意する。


「あの二人がさ、仮に別れた後でアプローチするんなら、まぁ話しは別だけど」

「・・・・・」

「幸せラブラブな時に横からちょっかい出すのは、ただの略奪行為だよ」

「うん」

「野蛮な犯罪行為だよ。理性ある文化人はそんな事しちゃダメよ」

「うん。分かってる」


分かってるよ。

赤の他人ならまだしも、あたし達は大切な家族なんだ。大切な大切なかけがえの無い家族。

よりによってお姉ちゃんの心を傷付けるなんてできない。

自分の恋と引き換えに、幸せを奪うような行為なんてできない。

そんな事はしてはいけない事なんだ。


・・・・・ただ・・・・・


ただ。

ただね。

ただ、少しだけ気持ちが楽になったんだ。大地の話を聞いてたら。


どこにもやり場の無い感情の出口が見つかったような気がしたの。

辛くて苦しくて、でも絶対に我慢しなくちゃならない。

そんな逃げ場の無い悲しみから、ちょっとだけ救われた気がしたの。

「我慢しなくていい」って言われて。

ちょっとだけホッとしたの。


それだけだよ。ただ、それだけ・・・。

それ以上の事は、何も無いし何もするつもりもないから。


「花梨ちゃん」

「なに?」

「あたし、これから柿崎さんのカフェに寄る」

「?」

「お姉ちゃんを迎えに行くよ。そんで二人一緒に帰る」

「・・・うん。そうね」


花梨ちゃんがそう言って、あたしの肩をバンバン叩いた。そしてあたしの頭をクシャクシャ撫でる。

「えらいよ、七海ちゃん」


・・・えへへ。


カフェに行こう。そして柿崎さんに笑顔で挨拶しよう。妹の立場で。

そしてお姉ちゃんと一緒に帰ろう。

久しぶりに、手なんか繋いじゃったりしてさ。


そうだ、そうしよう。それがいい。


ツキンツキンと胸が痛む。

その痛みに気付かないフリしながら、あたしは花梨ちゃんに手を振ってカフェに向かった。

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