(9)
「じゃあ、こう仮定してみろよ」
「どう仮定すんのよ」
どう仮定しようが、設定変更しようが変わらないじゃないの。
家族が苦しむ事には。
「相手が家族じゃなかったら?」
「え?」
「ライバルが赤の他人だったらどうだ?」
「ライバルが他人?」
「どうだ? お前、諦めたか?」
「まさかっ!!」
んなわけないじゃんっ!!
「相手が他人なら、徹底的に戦って柿崎さんを奪い取るもん!!」
「まあ、当然だな。でもその理由は?」
「柿崎さんの本当の運命の相手は、あたしだもん!!」
間違いない! 柿崎さんの運命の恋の相手は、このあたしだ!
十年も前にめぐり会い、想いを温めつづけて、劇的な再会を果たした・・・
この、あたしなんだ!
断じて、ちょっと会って付き合った女なんかじゃない!
そんなの、通りすがりの勘違いにすぎないもん!!
そんな勘違いのままになんて、しておけるわけがないっ。
あたしが本当の恋人になるべきだもん! それが本当の、正しいあるべき姿・・・。
あるべき・・・
本当の・・・正しい・・・
・・・・・。
「気がついたか?」
「あ・・・」
「本来、オレ達が恋人になるのが正しいんだ」
「・・・・・」
「相手が兄弟って事実だけで、『正しい事』はひっくり返るのか?」
あ・・・。えーっと・・・。
えーっと・・・。あれ?? なんか・・・。
なにかが・・・。
なんてゆーか。ムチャクチャな事、こいつ、言ってると思う。
思うんだけど・・・。
「あんたって・・・」
「なんだ?」
「なんかもうゴリ押しで、力技で、自分の陣地に引っ張ってきてる綱引きみたいな感じ」
「当たり前だ。綱引きってのはそういう競技だろ?」
そう、だけど・・・。
こいつのムチャクチャで自分勝手な理屈。
でも・・・なにかが、なんでだか、あたしの胸にストンと落ちるものがある。
胸がスッとするってゆーか・・・。
「間違いを正しい位置に直さないでいいのか? 本来の姿に直さなくていいのか?」
どんどん耳に入ってくる。
「間違ったままで、本当にあの二人は幸せか? いずれはどうあっても、間違いは正される時がきっと来るぞ」
胸に、ストンと・・・。
「間違ったままなのを見守る事が、本当に二人のためか?」
胸が・・・
「オレ達が、恋を叶えるべきなんだよ」
あたしはもう、なにも言えない。
なにも言わずにただ、こいつを見上げるだけ・・・。
「本当は、こんな事まで言うつもりはなかったんだけどなあ」
ちょっと困惑したみたいな表情で、頭を掻いてるこいつを。
「一海さんの妹と親しくなって、そのうちオレの応援してくれれば・・・程度の考えだったんだけどな」
「・・・・・」
なんだか、頭の中が混乱してて・・・。なにも考えられなくて返事もできない。
なにも言えなくて。ただボーっとしてしまうよ・・。
「おい」
「・・・・・・・」
「おいって」
「・・・・・・・・・」
「おい、『7』」
「な、7ってなによ!! 7って!!」
「お前、七海だろ? 一海さんの苗字を呼び捨てするのも、なんか抵抗あるからな」
「だからって7はないでしょ!!」
そのイントネーション、明らかに英数字の『7』じゃん!
人の名前をなんだと思ってんのっ、あんた!!
海が大好きだったお父さんが付けてくれた大事な名前なんだからね!!
人のこと失礼だとかよく言えるね!
「七海のななは、漢数字よっ!」
「じゃあ、七。オレの事は『大地』で呼び捨てでいいぜ」
「あっそ、わかった。『地面』ねっ」
「大地だ! だいちっ!!」
つ―――――んだっ! あんたなんか地面で充分だ!
あたしは横を向いて口を尖らせた。
「この出会いが、ただの偶然のわけないだろ。オレ達の出会いだって運命だ」
運命。
身動きがとれないほどに、あたしを苦しめる言葉。どうにもならない悲しみ。
また涙が、両目に盛り上がってくる。
「自分自身の恋を叶えるために、オレ達は出会ったんだよ」
盛り上がった涙が崩れて、頬を伝う。
「そうするべきだって天が言ってるんだ」
ポロポロと、次から次へ・・・。
「もうガマンして泣くな。隠れて一人で泣くな」
唇が震える。
泣き声、出そう・・・。
「間違った運命を正そうぜ。一緒に」
鼻をすすって、唇かみしめて・・・。あたしは泣きながら、こいつを見上げていた。
ただの悲しみとは違う、ただの苦しみとも違う。
それとは少しだけ違う。そんな涙の味がする。
少しだけ、少しだけ
心が楽になる涙・・・。
そんな、気がしていた・・・。




