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そして今・・・

あたしは自分の部屋で宿題をしている。


お姉ちゃんと顔を合わせたくなくて、家に帰るなり部屋に引っ込んだ。


お姉ちゃんはまだ帰ってきてないみたい。

このまま帰ってこないで欲しい。その事だけを、帰ってからずっと考えて願ってる。

だって・・・

あたしの胸の中には、ひとつの感情がむくむくと頭をもたげているから。


その感情は時間が経つにつれて、どんどん大きくなっていく。

暗くて、ドロっとして・・・。

そんなものがどんどん、どんどん・・・


『お姉ちゃんはズルい』


出会って一年?

一年ぽっち?

なによそれ。


十年・・・十年だよ?

あたしは・・・あたしは十年間も想い続けてきたのに!


そんな軽くて薄っぺらなものに、あたしは負けた?

あたしの想いが、運命の恋だって信じてた想いが、負けたの?


そんなの納得できない!

お姉ちゃんの一年より、あたしの十年の方が重いに決まってる!

お姉ちゃんの気持ちなんかよりもあたしの十年の想いのほうが、よっぽど・・・

よっぽど重いに決まってるじゃないの!

なのに・・・


なのにどうして!? どうしてよ!?


「七海入っていい?」


とんとんって、ドアをノックする音が聞こえた。

お姉ちゃんの声・・・。

来ちゃった。


入らないでよ。会いたくなんてない。


「・・・うん。どうぞ」


でも一生会わないわけにもいかない。それにこの部屋はお姉ちゃんの部屋でもある。

ひとつの部屋を厚手のカーテンで仕切って、それぞれが使ってるから。

お姉ちゃんを締め出す権利は無いし・・・。


お姉ちゃんがドアを開けて入ってきた。

あたしは振り向かずに、机の上に視線を落としたままでいる。


「あら、言われる前に宿題してるの? えらいわね」

「・・・・・」

「いつもは何度も言われてから、しぶしぶ始めるのに」

「・・・・・」

「今日は本当にえらいわね」

「・・・・・」

「ねえ、七海」


お姉ちゃんが後ろからあたしの顔を覗き込んできた。

顔と顔がくっつきそうなくらい接近する。あたしは、つい無意識に体を固くして避けた。


「やっぱり怒ってる?」

なんだか困ったような笑顔で、お姉ちゃんがそう言った。


「・・・・・」

「ごめんね、何も言ってなくて」

「・・・・・」

「秘密にしてたわけじゃないの。ただ言いにくくて」

「・・・・・」

「ほんとにごめんね」


・・・・・。

あたしは、何も言わずに沈黙したまま。

お姉ちゃんはますます困った顔をした。


「・・・・・」

「・・・・・」


二人の間に沈黙が流れる。重苦しくて嫌な空気。

苦痛・・・。


「べつに・・・」

耐えかねて、あたしはようやく口を開いた。


「え?」

「べつに、怒ってるわけじゃ・・・」


怒ってるわけじゃ、ない。

黙っていたのも、二人が付き合っていたのも、本来あたしが怒れる筋合いの問題じゃない。

あたしにそんな権利は無い。そんなのは分かってる。

あたしの今のこの気持ちは、そういうんじゃなくて。


ただ、何を言えばいいのかが分かんない。

どんな態度をとればいいのかが分かんない。

どう整理をつければいいかが分かんない。


何もなかったかのように、自然に笑って接すればいいんだとは思う。

そんなの頭では分かってる。でも、笑って話をすませるには・・・

それにはあまりにも・・・


この十年間は・・・


「いいの、無理しないで。七海が怒ってるのはわかる」

お姉ちゃんが、少し俯いて言った。


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