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柿崎さんの事を秘密にされたあたしが、スネていると完全に思い込んでいる。


お姉ちゃんがそう思い込むのは訳がある。

別に思い込みが強いからってことじゃないんだ。

・・・いや、実際に思い込みの強い性格ではあるんだけど。確かに。


あたし達にはお父さんがいない。あたしが小さい頃、事故で亡くなった。


お母さんは、病気がちのお姉ちゃんとあたしの幼い二人の子どもを遺された。

家計を支えるためにフルタイムでずっと働きっぱなし。

親戚のおばちゃんとか、近所の人とか、ちょくちょく面倒見てはくれたけれど・・・。


やっぱり姉妹二人で肩を寄せ合って生きてきた感が強い。

すごくすごく強い。


普通の家庭の姉妹よりも、あたし達はずーっと仲良しだと思う。

なにが『普通の家庭』なのかは、よく分かんないとこだけど。

それにあたしには花梨ちゃんとか他にも友達がいたけれど・・・

お姉ちゃんは、こんなだから・・・。


だからあたしには大抵の事をなんでも話してくれた。

あたしも大抵の事をお姉ちゃんに打ち明けてる。

あたし達の間に秘密なんて無い。本当に仲良しの姉妹だったんだ。


でもあたしは王子様のことに関してだけは、あえて話題にしなかった。


体が弱くて引きこもってばかりのお姉ちゃん。

当然のように、自分の恋愛も結婚も諦めきっていた。

そのお姉ちゃんに自分の恋バナや夢を浮かれ気分で聞かせるなんて。

残酷な行為みたいに感じて、できなかったから・・・。


そんな事が頭を巡っているあたしの気持ちに気付かず、お姉ちゃんは話し続ける。


「あたしもね、まさか自分にこ・・・恋人が、できるなんて思ってもいなかったし」


『恋人』

言いにくそうに言われたその単語が、胸に突き刺さる。


「拓海と出会って、胸がドキドキしてる自分に気がついて。そんな自分が不思議で、でも止まらなくて」


やめて・・・。


「そしたら拓海があたしの事『好きだ』って言ってくれたの。とても嬉しかった」


やめて。


「一度は断ったの。体が弱いから迷惑をかけるって。でも彼、僕は諦めないって」


やめてっ。

お姉ちゃんが一所懸命に伝えようとしてくれているのは、わかる。

でもそれが辛いのっ。


柿崎さんがお姉ちゃんに囁いた、愛の言葉を言わないで!

二人がいかに強く結ばれているかを、あたしに聞かせないで!


分かったから。

お姉ちゃんは恋の勝利者。あたしはミジメなカン違い娘。

それは充分に分かったから・・・。

だからもうお願いだから・・・。


「本当は怖かった。今でも迷惑をかけそうで怖い。でも思い出したの」

話し続けるお姉ちゃん。

あたしの手をそっと握って言った。


「七海の『きっと大丈夫』って言葉」


・・・・・。

あたしは初めてお姉ちゃんの目をまともに見た。


「七海、いつもあたしに言ってくれたね。大丈夫って」


おねえ、ちゃん・・・。



『七海、一海の事をお願いね。一海にはあんたしかいないんだから』


毎朝、仕事に向かうお母さんにいつも言われていた言葉。

そうだ。

あたしがずっとお姉ちゃんを守ってきた。


お父さんは死んでしまった。お母さんは仕事で家にいない。

親戚のおばちゃんも、いつもいるわけじゃない。

お姉ちゃんが頼れるのは、このあたしだけ。

あたしがお姉ちゃんを守るんだ!


そう強く決心して、小さい頃から精一杯、お姉ちゃんを守ってきたあたし。

そのあたしが、いつも言ってた言葉がある。お姉ちゃんを励ますための言葉。


『大丈夫だよ、お姉ちゃん。きっと大丈夫だから!』


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