(3)
「そうそう。あんよはじょうず~♪」
「お前、酔っ払ってんのか??」
「酔ってない。機嫌良いだけっ」
「・・・なんで?」
「内緒~~♪」
「わけわかんねー・・・・・」
うふ。そう、内緒だよ。まだ今はね。
まだ・・・・・
まだ、お姉ちゃんに恋してる大地には、言わない。
そう。大地は今だにお姉ちゃんを想ってる。
式の間も披露宴の間も、熱い想いの篭もった目でお姉ちゃんを見ていた。
その目の熱さは今もまったく変わらない。
だからあたしの恋は叶わないと思っていた。
大地の想いの強さを前にして、完全に諦めていた。
彼の運命の相手は、お姉ちゃんだから。入り込む隙なんてどこにもないって思ってた。
でもね・・・
あたしの運命の相手は、あんたなのよ大地。
これは、かなり強力で強烈な事実だわ。
こっちの運命の恋は、まだまだ始まったばかり。運命の勢いがね、こっちに向いてキタのよ!
「勝負を投げ出すのは、まだ早いって事!」
「・・・???」
顔中?マークだらけの大地に、あたしは微笑みかける。なんだか体中に力が漲ってくる。
踊り出しちゃいそうなくらい軽やかな気分!
思わずクルリとその場で回る。
そうだよね、気持ちで負けてちゃだめだよね!
大地の強い気持ちも良く分かってる。
でも・・・
『全ての恋は特別。それ以上、それ以下の恋なんて存在しない』んだよね?
『恋は早い者勝ちじゃない』んだよね?
それに・・・
『この出会いが、ただの偶然のわけない。オレ達の出会いだって運命だ』
そうなんでしょ? 大地。
そう。運命だよ。恋を叶える為の運命の出会いだ。
運命・・・・・。
それは本当に手強い相手。
明日なにが起こるか、まるで予測がつかない。
信じられないような出来事を用意してるし。信じてた事柄さえも、あっさりと引っくり返してくれる。
実に実にやっかいな相手。
でもね
あたしは怖気づかないよ。
逃げ出さない。立ち向かう。
あのお母さんの娘だもの。あのお姉ちゃんの妹だもの。
勝ちを狙って飛び込んでいく!
そして情け容赦ない運命ってヤツから、大地を奪ってみせる!!
この、かけがえのない大切な存在を!
強い決意を込めて大地を見た。大地の横顔を。
どこか寂しげな憂いを感じる横顔。
お姉ちゃんへの想いを、持て余している。心密かに苦しんでいるんだ。
・・・待ってて大地。
もうすぐあたしが、その苦しい運命から救い出してみせるから。
「ねえ、大地」
「・・・なんだ?」
どうか待っててね。
「ううん、なんでもないっ」
「・・・・・変なやつ」
あたしは嬉しさと戦意の高まる胸を、静かに手で押さえる。
そして大地に極上の笑顔を向けた。
あたしの笑顔を見て・・・つられて大地も笑顔になる。
「ほんとに変なやつ」
うん、やっぱり笑顔がいいや。
そうやって心の中で決意を固めるんだ。
いつか・・・いつか必ず。
たとえ明日は、自分の無力に歯軋りしても。その次の日を見据えて生きていく。
そして進んで行くんだよ。あたし達は。
運命によって、あたしの心は奪われてしまった。
だから、このまま黙っちゃいない。
奪われたままじゃ済まさないよ。
さあ、見てなさい!
たった今から無制限一本勝負だ!!
「お前、なんかやたらと威勢良いな」
あたしの漲るエネルギーを感じ取ったのか、大地がそんな事を言った。
「そーよー。元気満々だよ!」
「たくましいな」
「女は強いからね!」
「うらやましいよ」
「大丈夫だよ、大地!」
「・・・え?」
「大丈夫だからね!」
「・・・・・」
かつて・・・お姉ちゃんに向けていた言葉。お姉ちゃんを勇気付けた魔法の言葉。
『大丈夫だよ』
その言葉を今、大地に捧げる。そして自分自身にも。
きっと大丈夫。そう信じて見えない明日を歩いていく。
大地はあたしを食い入るようにジッと見て・・・
そして嬉しそうに、ふわりと優しく笑った。
「やっぱりお前はスゲエよ、七海」
その言葉に、あたしは全開の笑顔で応えた。
あたしの隣で揺れる、真っ黒い髪。
少し日焼けした肌。
真っ直ぐで正直な視線。
キュッと結ばれた唇。
柔らかくあたしを見つめてくれる瞳。
その全てが、かけがえなく愛しい。とても諦める事などできない。
だから戦う。そして勝つ。
運命の荒波を乗り越えて、絶対あなたを奪ってみせる。
「じゃあ行くか。一緒に」
「うん行こう。一緒に」
あたし達は肩を並べて
何が起こるかも分からない明日へと歩き出した。
完結
お陰様で本日完結となりました。
最後までお付き合い下さり、ありがとうございます。
少しでもお楽しみいただけたら幸いです。




