第四章十三話 仇の最期
レオンが胸を叩く。
コタロウからコピーした身体能力強化。
さらに、ライトの能力による雷を全身に纏う。
「!」
強化された肉体が、さらに強化される。
踏み込んだ地面が砕け、破片が宙へ舞った。
「行くぞ!」
「……!」
レオンが超高速で迫る。
サブローは目を閉じたまま、その攻撃を受け、避け、流していく。
「やるな、貴様!」
レオンが笑う。
「以前も似たようなことを言った気がするぞ!」
「お前がどれだけ速かろうが!」
サブローが拳を弾き、蹴りをかわす。
「目の見えない俺は、気を辿って戦ってんだから意味がねえぞ!」
構える。
「シノノメ流武術!」
二人が激突した。
◇
「ルナー! ごめん、遅くなった!」
「ライト!」
観客席でルナが振り返る。
「遅い! どこ行って――」
「…………」
「うわっ! 何でそんなボロボロなの!?」
「今朝、サブローを止めようとしたら」
ライトが苦笑する。
「サブローにボコボコにされた」
「…………」
「今のアイツ、相当強いよ」
「そうなんだ……」
「で?」
「何?」
「戦況どうなの?」
「戦況?」
ルナはコロシアムへ目を向ける。
サブローとレオンの姿を、ほとんど捉えられない。
「あんな戦い」
ルナは胸を張る。
「私みたいな美少女の目が追いつけると思っているのかね?」
「まあ、ルナには無理だな。アレは」
ある程度の実力を持つ格闘家でさえ、二人の動きを目で追えずにいた。
◇
――おかしい。
サブローは戦いながら思う。
急所を狙ったはずの攻撃が、僅かにズレる。
まただ。
何だ、この違和感。
激突のたび、地面と壁に亀裂が走っていく。
「ぐっ……!」
サブローは少しずつ削られ、ついに片膝をついた。
「くそ……!」
レオンも無傷ではない。全身に傷を負い、激しく疲弊している。
それでも、立っていた。
「終わりだ」
レオンが最後の一撃を放つ態勢に入る。
「最後に、貴様が善戦した褒美だ」
「何だよ」
「我の三つ目の能力を教えてやろう」
「聞いてどうすんだよ」
「生き残ったら、貴様の仲間へ教えろ」
「……」
「そして次は」
レオンはサブローを見る。
「己の大切なものを守るために精進しろ」
「……何だってんだよ」
レオンが拳を握る。
「我は、いつでも貴様の挑戦を受けるつもりでいる」
「…………」
「我の三つ目の能力は――」
「……」
「世界の大半を支配している、あのお方――」
その瞬間。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「何だ!?」
巨大な揺れ。
八年前、ライトたちの故郷を襲ったものと同等――あるいは、それ以上。
「地震!?」
コロシアムが大きく揺れる。
「きゃああああ!」
「逃げろ!」
戦闘で傷んでいた壁や柱、観客席が次々と崩れ始めた。
「……!」
レオンが振り返る。
以前、自分がサインを書いた子ども。その手には、今もサインが握られていた。
頭上から、巨大な瓦礫が落ちてくる。
「くっ!」
レオンが地面を蹴った。
「間に合え!」
超高速で子どものもとへ迫り、その身体を抱えて安全な場所へ投げ出す。
直後。
轟音とともに、大量の瓦礫がレオンを飲み込んだ。
◇
「…………」
サブローは立ち尽くしていた。
「は……?」
揺れが収まる。
瓦礫の下から、レオンの身体が僅かに見えていた。
動かない。
「……」
サブローが近づく。
「おい」
「…………」
返事はない。
瓦礫の下から、血がゆっくりと広がっていく。
「…………」
レオンは死んだ。
「……何だよ」
サブローの目から涙が落ちた。
「何なんだよ……」
殺したかった。
ずっと。
何年も、仇を討つためだけに生きてきた。
そして仇は死んだ。
なのに。
「…………」
何も満たされない。
怒ればいいのか。
喜べばいいのか。
泣けばいいのか。
この感情をどこへ持っていけばいいのか、分からなかった。
サブローは、ただ震えていた。




