0章一話 呪われた世界の幸せな家族
この世界では、生まれた瞬間に、誰もが神から一つの呪いを与えられる。
その代わりに、一つの能力を授かる。
人は皆、呪われて生きる。
それが、この世界の常識だった。
そんな世界の片隅に、かつて巨大な火山の噴火によって生まれたヴォルケニア島があった。
島の一角には、パッション村という小さな村がある。
今日も朝から、村の広場には暑苦しい声が響き渡っていた。
「ライトおおおお! そんなことじゃ、大切なものができたときに何も守れないぞおおおお!」
「メモリーお兄ちゃんのトレーニングは、村の大人でもついていけないんだから無理だよお……」
「そんなことはない! ライトには気合いと根性が足りん!」
兄は両腕を大きく広げ、弟へ満面の笑みを向けた。
「でも、ライトがどうしてもというなら……お兄ちゃんがライトのすべてを守ってやるぞおおおお!」
「なんか、すごく生理的に嫌なので頑張ります……」
「遠慮するなああああ!」
兄の名は、メモリー・ザック・バーナル。十六歳。
弟のライト・ザック・バーナルとは六歳離れているが、二人はいつも一緒にいる仲の良い兄弟だった。
そのやり取りを眺めていた父のガレス・ザック・バーナルが、メモリーへ声をかける。
「メモリー。そんなこと言ってるけどなあ、ライトと同じ歳の頃のお前は、今のライトより筋肉がなかったぞ」
メモリーは目を見開き、慌てて両腕の筋肉を隠した。
「あれは筋肉たちが反抗期を迎えていた時期だから、仕方なかったんだ!」
「いや、メモリー。父さんは責めてるわけじゃないんだ。何を伝えたいかっていうとな……」
ガレスは神妙な顔で頭を掻いた後、突然、白い歯を見せて笑った。
「お前らはこれから父さんと一緒に、筋トレとヴォルケニア式武術の特訓をする! ガレスブートキャンプの開催だああああああ!」
両腕を広げ、兄弟を捕まえようと駆け出す。
「うわあああああ! 筋肉が迫ってくるううう!」
メモリーとライトは悲鳴を上げながら逃げ回った。
母のセレナ・ザック・バーナルは、その光景を見ながら腹を抱えて笑っていた。
「夕飯までには帰ってくるんだよー!」
ガレスは足を止め、セレナへ向かってサイドチェストのポーズを取った。
「今夜はメモリーとライトの筋肉に響くメニューで頼む!」
「はいはい、分かってるよー!」
セレナは三人へ手を振る。
「メモリー、ライト! 夜ご飯は好きなものをたくさん用意しておくから、死ぬんじゃないよー!」
「母さん、それは父さんの特訓に死人が出ると思ってるってことかあああ!」
メモリーの叫び声を背に、セレナは楽しそうに家へ戻っていった。
そこへ、広場を通りかかった村人が呆れた顔で声をかける。
「また朝から叫んでるのか、ガレス。うるさいぞ」
「すまん! だが、健康は人生の盾だからな! お前も一緒にどうだ!」
「だから、そういうところが煙たいんだよ……」
村人は苦笑し、その場を去っていった。
ガレスは、善意や心配を押しつけがましく受け取られてしまう呪いを背負っていた。それでも、自分の善意を曲げることはなかった。
「さあ、気を取り直して続きだあああ!」
「気を取り直す必要あったの、父さんだけだぞおおお!」
再び、広場に暑苦しい声が響き渡った。
メモリーとライトは、セレナが作る夕飯を楽しみにしながら、その日のガレスブートキャンプを乗り切った。
ザック・バーナル一家は、そんな平和な日々を送っていた。
しかし、その日常は何の前触れもなく終わりを迎える。
ある日の昼過ぎ。
メモリーとライトがいつものように広場で鍛錬をしていると、頭上の空が少しずつ赤く染まり始めた。
ライトは手を止め、空を見上げる。
「メモリーお兄ちゃん……空が急に赤くなってきたよ。何か、嫌な予感がする……」
メモリーも異変に気づいていた。
だが、不安そうに自分を見上げるライトを、これ以上怖がらせたくはなかった。
いつものような大声を出し、無理やり笑う。
「ライトおおおお! これは早めの夕暮れだあああ! 気にするなああああ!」
「そんなわけないじゃん……」
あまりに強引な答えに、ライトは少しだけ笑った。
メモリーは一度息を吐くと、真剣な表情で弟の肩を掴んだ。
「もし何かあっても、お兄ちゃんが絶対にライトを守ってやる。だから、安心しろ」
「……ありがとう」
ライトが笑った次の瞬間だった。
地面が、うなり声を上げた。




