第2章 ツンデレな森の番人
少女の名はリリス。この「黄昏の森」を守るエルフの見張り役だった。
彼女もまた、仁を一目見た瞬間、胸の奥が妙にざわめいた。
粗野でもなく、卑屈でもなく、不思議な静かな空気を纏った彼。握りしめた手には見慣れぬ銀色の包丁。その真剣な眼差しに、なぜか頬が熱くなる――
「な、何よ! 変な格好して迷い込んで、不審者じゃないでしょうね!」
「いや、その…」
「別にあんたなんか助けてやる義理はないんだから! …だがこの森は危険だから、道案内してあげてもいいわよ! 感謝するのよね!」
ツンとそっぽを向きながらも、ちらちらとこちらを気にする姿。それがまた仁の心を鷲掴みにする!
「はぁ…ツンデレ属性…まさか現実に存在するとは…! だめだ、感情が漏れ出す!」
仁は無言で頷き、背中に括りつけていた道具箱を開けると、その場に生えていた不思議なキノコや香草、小川の魚を手早く調理し始めた。
研ぎ澄まされた包丁が風を切り、食材は見事な手つきで彩られ、やがて森中に香ばしく甘い香りが立ち込める。
「…こ、この匂いは?」
リリスが思わず近づく。仁が差し出した木皿には、キノコの旨煮、香草の焼き魚、花びらの酢の物が美しく盛り付けられていた。
恐る恐る口に運んだ瞬間、彼女の瞳が見開かれた。
「美味しい…! こんな滋味深く、体の奥から温まる味なんて初めて…!」
仁は内心ガッツポーズしながらも、無表情を装って頷く。だが耳だけは真っ赤に染まっていた。
リリスも心の中で叫んでいた。
(なんて繊細な技…そしてこの優しい味…きっと心根も誠実な人なんだわ…! でもこんなこと思ってるなんて知られたら…恥ずかしすぎる!)
こうして、言葉少ない仁と、素直になれないリリスの、すれ違いだらけの奇妙な旅が始まった。




