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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
最終章、大きな決断と私達の一生
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白夜の黒三日月店の開店


 1月6日

 人が恐怖するのは死神の鎌が目前に迫っている事を本能的に理解しているからだという教えがある。

 これは私の暮らす周辺の国々ではメジャーな宗教、聖霊神様を称える聖霊教で無教徒にもわりと有名な教えであり、無教徒でも死神の存在を信じている人はわりと多いという私も印象がありますね。


 かく言う私も無教徒です。

 特定の宗教に属してしまうと行商の旅の最中に異教徒だからと泊めてもらえなくなってしまう事があるので行商人にとって無教徒で迷える子羊であり続ける方が都合良く、教会にとっても無教徒の方が都合が良い。

 無教徒と言う金の成る迷える子羊を受け入れる事ができるからだ。

 行商人も割り増しになろうとどこの教会でも泊まれるの利点を考えれば無教徒であることの方が合理的と言えます。

 お互いに利害が一致しているので商人であるからには無教徒が多く、冒険者なども同じ理由で無教徒が多いとされています。


 話が反れてしまいましたね。

 先に話した死神がどうのと言う話なのですが、これは見えない何かを言葉にする事で物理的な恐怖として無理やり結びつけている側面もあります。

 なんだかよくわからないうちに鎌で首を跳ねられて死ぬと。


 重要なのは『よくわからない』という所だと私は思っています。

 何故かってつい先日言葉にして教えて貰ったので偉そうに説明できる立場でもないのですが、『よくわからない』事に人は恐怖するのだそうでして、私も心当たりあります。


 水面に浮かんだ魚の影に恐怖する人がいるという話は旅の最中飽きてしまうほど聞いたお酒のつまみ程度の話です。

 あれは何故魚なんかに恐怖するのかという笑い話なのですが、けっきょくのところ魚に恐怖しているのではなく、何かわからないモノがそこにいるという事に恐怖しているのだと私は思っています。


 何が伝えたいかと言うと『人はわからない事に恐怖や戸惑いを覚えて足を止めてしまう』という事。


 つまりあの日、セリスに目標を見失い何を目指すべきかわからなくなった事で恐怖していると言葉で明確に指摘された私にとって店を開く事には最早何も怖い事は無いという事です。


 水面の魚に恐怖していた人が、釣り上げられたその影を作り出していた魚を美味しそうに食べている姿と同じように。


 では恐怖を失い希望に溢れ待ちきれなくなった人間がどんな行動をとってしまうかと言うと………


「流石に挙動不審すぎるよメリル?」

「うひゃっ!?………い、いつから見てました?」


 私は自分が行っていた事を思い出し顔を真っ赤にする。

 朝いつもより早く目を覚まし、洗面台で顔を洗までは良かった。

 日が登り始めた頃でまだ朝食を取るにも早すぎるという事で1階に下りて飾られた商品を一つ一つ手にとって確認する。

 この時点で既に不審と言われれば不審ですね。


 次にセリスからアドバイスを貰い冒険者を対象にして作った商品を手に取り実際に使うとしたら『こう使うのかな?』という動作を繰り返したりしていまして、正にそのタイミングで呆れたようでありつつ面白いモノを見たような感じで声をかけられた。

 感じる魔力的には面白いが6割、やれやれと呆れてるのが4割と言ったところでしょうね。


「メリルがベッドから出た時の床の軋む音でかな」


「え……ちょっとそれ怖いんですけど………」


「冗談。昔ならそれで起きただろうけどどうにも平和ボケしてね。メリルが同じ場所グルグル巡回してる所で目が覚めた」


「それもそれで……でも確かに怪しいですよね。うん……」


「かもね。もっと平和ボケしたいんだけどなかなか抜けなくて。

 それよりそろそろ朝食作ろうと思うのだけど手伝ってくれるかい?」


「もちろん」


「ありがとう。メリルは何か食べたいモノは?」


「そうですね……軽めの卵料理が食べたいです」


「なら小さめのオムレツでも作ろうかな」


 二人で料理を初め、出来上がる少し前頃にミューズとレーナが姿を見せる。

 レーナは早くから起きていたのでしょうけど、今日の洗濯当番がレーナだったのでセリスの案で4階に作った屋根の上の広いベランダで干していたのでしょう。

 私達の店は正面から見てたら4階建て、裏から見たら屋根に変な鉄の棒が付いた3階建てに見えるんですよね。

 その変な棒ですが落下防止の為に一応取り付けたモノです。



 ・



 午前9時。私達の店、白夜の黒三日月店の営業が開始する時間。

 正面の出入り口の札をオープンに変えます。

 しかし人の来る気配が無い。


「まあ……知っていましたけどね………」


 開いて30分は経っただろう頃に私は机に突っ伏した。

 外から聞こえてくる活気に対して無人のお店ですよ。

 魔法商店なので当然と言われれば当然なんですけど。


「いじけないいじけない」


「セリスは自分の工房営業中でしょ……」


 オープン表示にしても最初から持ち場に行かず先日町を巡った時に購入していた小説に目を通していたセリスが頭から垂れた私の羽を指で擦りながら慰めてくれるんですけど、これ絶対セリスが触りたいだけですよね?

 別に良いんですけど。


「メリル様~。外見て来て良い?」


「良いよ~。ついでにこれ使って遊んできな」


 私の変わりにセリスが答えてくれて商品棚から一本羽ペンを取り出し魔法を解除して渡しています。


「それ私の商品……まあ良いですけど」


「ありがとうメリル様!」


「行ってらっしゃい」


「行ってきまーす!」


 制服を着たまま元気良く店を出ていくミューズを見送りセリスの思惑を考えてみますが、まあ一言で言ってしまえば宣伝でしょうね。

 細かな思惑を考え始めればキリがありませんけど。


 ミューズに渡したのはマジックマーカー。

 見た目は少し変わった羽ペンに白夜の黒三日月魔法商店のシンボルであるコウモリの羽のようにギザギザした黒い三日月が印されているモノです。


 このマジックマーカーは持ち手の部分を外し捨て値の魔石を入れる事で使用でき、ピンク色の光を放つ魔力をインクのように残す事ができるというモノです。

 マーカーとして使えるのは勿論、魔力の線を簡単に引く事ができるので大規模な魔法を比較的簡単に用意できるという利点や他にも色々応用が利きます。

 ただピンク色の光は強いモノで目立つので罠として使用するにも知性の高い生き物は警戒されてしまうというのと、書いた線の持続時間は魔力に比例し長くても5時間、短いと1時間も経たず消えてしまう問題が存在します。

 まあ何にしても……


「ミューズはマジックマーカーを落書きにしか使わないでしょうね」


「だから良いんだよ」


 冒険者向けの商品が子供の遊び道具として売られる訳ですね。

 まあマジックマーカーは長持ちする高級ボールよりは安いですから、親としては簡単に買ってあげられるでしょうし自分でも使う機会があるでしょうね。


 ちなみにピンク1色だけでなく赤、青、紫と目立つ色のみですが色違いが存在します。

 これはマジックマーカーを犯罪に使われないようにする為に目立つ色しか用意しないようにしたんですよね。

 解析されれば作られなくもないですが、できるものならしてみてくださいって話です。

 セリスに「私じゃ作れない」と言わせた私自慢の一品ですよ?

 安価なのは難しいのが1ヶ所だけで私の魔繊手(ませんしゅ)なら簡単であり、原価を考えればぼったくり価格です。

 まあそこは技術費という事で。

 そしてもし仮に私のマジックマーカーを改造できるような、そんな優秀な技術を持つ者がいるなら魔法ギルドの研究員等のもっと有意義な職に付けるはずですからねぇ。


「っ!いらっしゃいませ!」


 ミューズが出て行ってから少しして2回目のカランカランという扉に付けた鐘が鳴る音とレーナの「いらっしゃいませ」の声を聞き期待のあまり姿も見えないのに声をかけてしまっいました。


 外にも同じものがあるのですが、入り口の分かれ道の所にも大きく店の説明とルールの書かれた注意書きが貼ってあります。

 ただ、仕事初めでお客様が慣れてないだろう間はレーナとミューズに説明してもらう予定になっています。

 もちろん説明をするのは手があけられる時だけですけど。


「……って、あれ?この魔力………」


「この気配は大工のミカエルだね。この店建ててくれた」


 そういえばセリスがカメラを原価で売るって契約をしていましたね。

 原価かぁ………


「初めての高額目玉商品が原価かぁ……」


 しかも私じゃなくてセリスの。

 売れるのは良いことなんですけど。良いことなんですけど!


「気持ちはわかるけど客商売だよ~」


「十分わかっています。2日にお礼言ったばかりですが改めてお礼も言っておきましょう!なんならマジックマーカーとかも一本オマケという名目で紹介してあわよくば複数本買ってもらいましょう」


「そのいきだよ」


 本当にセリスは原価でカメラを売り、マジックマーカーをオマケに付けたら20本もまとめて買ってくれましたがその後お客は誰も来ませんでしたね。

 11時半に1度閉め、午後2時から再開して午後5時までが営業時間です。

 初日からこんな感じで後半は私もカウンターで魔法具作ってました。



 ・



 1月7日

 予想していたとはいえ実際に予想通りの結果で気持ちだけ躓き、ガッカリが大きくなるので期待し過ぎないと決めた私はセリスが読んでいた小説を読ませてもらう事にしました。


 意外な事にセリスが読んでいたのは若者に流行りの恋物語でした。

 種族を越えた恋愛というその内容は国が種族同士の壁を取っ払おうとしている事が透けて見えるような気がします。

 数百年前から法的には禁止では無かったのですが、種族に関する内容を書くこと自体を取り締まっていたと言う話は有名ですからね。

 それを考えると国が本腰を入れてきていて今が本当に時代の変わり目なんだと強く実感できます。


 お客は4人来て1人は私の羽を見て軽い拒絶反応を見せていましたが、マジックマーカーの赤を買って帰っていきました。

 まあ、便利ですからねマジックマーカー。

 すぐ用の無くなるちょっとしたメモに使い紙の使い回しとかに本当に便利です。

 供給が追い付き安価になってきたとは言え、紙はまだまだ平民には高価です。



 ・



 1月8日

 なんと今日は沢山の人が来ましたよ!


 冷やかしに!


 来た人の8割以上の目当が大会優勝者のセリスに合う事で特に何も買わないという人が多かった訳です。

 しかし逆に言うならちゃんと買い物をしてくれた人も居た訳です。

 中でも……


「ねえ、聞きたいんだけど良い?」


「はい!?何でしょう?」


 セリスの方に予想以上の人が入りそちらの処理に手を回している最中にマントを羽織った軽装の猫系のワービーストの女性が声をかけてきたのでそちらに回ります。


「この札?っていう物の使い方の説明で魔力を馴染ませるっていうのがそもそも分からないのに誰でも使えるって表記どうなの?」


「あ、いえ、それは破くだけで使えますよ?」


「魔力を馴染ませてでしょ?」


 なるほど、魔力を馴染ませるのに何かしらの方法が必要と思っている訳ですか。

 これは書いてある取り扱い方法をもっと簡略させる必要がありますね。


「はい。ただ肌身離さず一時間程持っているだけで誰でも馴染ませる事ができまして、馴染ませると札の色が変わるのでそれを目印にしてもらえれば良いです。

 追記しますと札の色は個人差がありまして、馴染ませた本人が破かなければ魔法は発動しませんので注意してください」


「そうなんだ。まあ少し高めだけど試しに買ってみようかな。

 レビテーションが使えるのは魅力的だし」


「それでしたらサンプルとして何枚か用意してるので試しに使用してみますか?」


「馴染ませないと使えないんでしょ?」


「それは消耗品のわりには高価すぎるので買った後に盗まれても盗んだ人には使えないように細工した結果です。

 サンプル品は誰でも使える代わりに半分も効力が続きません」


「なるほど」


 その後実際に試してもらい、ちゃんと値段に合うと評価してもらい複数種類で13枚というかなりの量をまとめて買ってくださいました。

 私の作ったモノを真剣に興味持ってくれて、これだけのお金を払っても良いと決断してくれた事が素直に嬉しくて本当にこの仕事を初めて良かったと思えた。

 ほんの少し出だしに遅れた気はしますが確かに進んだ。

 そう感じるのに十分な出来事でした。


 そうそう。

 この日は散々注意書がされていて口頭でも注意している筈なのですが、込み合いを利用して商品を持ち出そうとした人が失神し兵に連行されるという事が二回もありました。

 態々二回も往復してもらった兵の人達には申し訳ありませんが、ちゃんと魔法具が作動すると確認できたので良い1日でした。


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