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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
五章、少しの緊張と長い休日
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池に落ちた間接的原因


 朝食はセリスさんの宣言通りイナゴの佃煮と豆のスープでけっこう豪華。

 イナゴは串焼きにしておやつとして食べる事も多いけど焼くよりは油で揚げたいし、揚げるよりは佃煮の方が良い。


 まあ、お肉には敵わないけど。


「あ…………イナゴで思い出したけど今年はもう来たの?」


 皆で囲んで食事をしているとお姉ちゃんが最後の一口を運んでいた手を止めて聞いてきた。

 イナゴが食卓に並んでるんだから気になって当然だよね。


「ううん、まだだよ」


「そう、まだなのね」


 まだなんだよね。どうせなら終わってからが良かったって思ってるんでしょ。気持ちは分かる。


「何の話だい?」


「イナゴの大量発生だよ」


 気になる事なんてそれしかないよね。

 いくら魔法具で守られているとはいってもアレはね……


「それは……どの程度の規模なんだい?」


「その年によってだけど太陽が隠れちゃうくらいには沢山来るね。

 私ね、この時期実家じゃイナゴが主食だった訳で生きたまま樽に突っ込んで都会に売りに行こうとしたんだよね。

 けど都会じゃイナゴは食べないんだって初めて知ってね~……」


「え?そうなの?」


 貴重なたんぱく質だっていうのに勿体無い。


「そうなんだよね。

 それで持ってても仕方ないし解き放てば一種のテロになっちゃうから重石付けて川に沈めちゃってさあ」


「メリルも意外と凄いことしてるね」


「そう?セリスに比べたらマシでしょ?」


「それは当然。何故ならメリルの奇行じゃまだまだ浅い。

 足の届くところまでしか行ってないのに自分は海を知ったと公言するのと同じくらいに浅いよ」


「ふ~ん……ま、そんな事より暗雲が立ち込めた時はどうしてくれるのかしら?」


 暗雲?一昨日までは3日くらい雨が続いたけど昨日今日は凄く天気が良くて暑すぎるくらいなんだけど……


「それはもちろん貴女の魔法の剣となり私は悪魔の暗雲を断ち切ってみせましょう」


 セリスさんが立ち上がりお姉ちゃんに手を差し向けてそう言う。

 その手を取りお姉ちゃんも立ち上がる。

 えっと……何?なんか始まった。


「けれど貴女は気紛れで気分屋、本当に守ってくれるかどうか。

 それにこの世界を照す光を遮る程の大きすぎる悪魔の暗雲。

 その全てから守り抜けると言うの?」


 セリスさんの横を過ぎ、縁側の方へ足を進め、祈り、空を見上げ、不安そうな表情で振り返る。

 その表情がこれから起こるだろう厄災がどれだけ問題なのかを物語っている。


「その為に私の魔法があるのです。この刃は全ての暗雲を切り裂く為に、この魔法は貴女を守る為にあるのです」


 と言って………セリスさんがお姉ちゃんの手にキスをして「この魔法は貴女を守る為に」って…………


「ぷっ……ふふふ、ゴメン。

 さ……流石にそれは強く魔法を掛けすぎだってばも~」


 お姉ちゃんが笑いながらセリスさんを冗談じみた感じに叩いて、セリスさんもおかしいのかクスクスと笑う。


 二人とも綺麗だから思いっきり見とれちゃった。

 というかお姉ちゃんの迫真の不安顔が違和感無さすぎて吸い込まれそうになったんだけど。


「メリル……劇とか出るの?」


 二人の世界に口を入れたのはお母さんで、私の思った事を代弁しているからうんうんと頷いておく。

 だって今の出来映えはもっと小道具とか用意してやればお金取れると思う。


「そういう訳じゃ無いんだけどこういうやり取りが楽しくてね。時々セリスの気紛れでやるんだけどすっかり慣れちゃったなぁ……」


「メリルは真面目だし一生懸命やる姿が可愛いよね」


「そう……ありがとう」


 友達だって紹介されたけど、もっと親密な関係でセリスさんの事が大好きなんだなって凄く伝わってくる。

 お姉ちゃんはパートナーって表現してたけど、たぶんこういうのが親友とかそういう感じなんだとなって思った。



 ・



 朝食を終えて洗い物をしたり外に出る支度をしている間、セリスさんにはお父さんの質問に付き合ってもらって一時間。

 8時くらいに家を出る事になった。


 お父さんとお母さんは仕事でいつもの洞窟に潜りに行って、私達はこの村唯一の商店に行くことになった。


 少し歩いて分かった事だけどミューズちゃんは見た目よりずっと子供だって事。

 さっきから走って虫を追い掛けたり、何かを見付けて麦畑の方に行って何かしら持ってきたりする。

 ただその反射神経と足の速さが異常ってくらい。


 そんな訳でミューズちゃんは好き勝手させときながら軽く付き合ってあげつつ私達三人は雑談をしながら歩く。

 まあお姉ちゃんは浮いてるから歩いてないんだけど。


「え?池に落ちたって大丈夫だったの?」


「そうなんだよね。山の中だから教授じゃなくて手羽先を連れてったんだけど可愛そうな事しちゃったよ、ごめんね手羽先」


 謝りながら処理したネズミの肉をピンセットで渡せば食べてくれる。

 ネズミは閉じ込めて餌として増やせば食費が安く済む。

 当然だけど増えるペースより食べるペースの方が早いから定期的に数を捕まえに行くけどね。


「うわっ!」


 驚いた反応をした瞬間、空中の何かをキャッチする。

 さっきも見たけどミューズちゃんの反射神経って常人の領域を遥かに越えているよね……


「どうしたの?」


「たぶんイナゴなのが居た!黄色いの!生きてるやつ!」


 態々持ってきてイナゴを見せてくる。

 あれだけ素早く捕獲されたのにイナゴは無傷だよ。


「そうだね、駆除しよっか」


「食べないの?」


「食べる時捕まえれば良いし生きてたら麦食べられちゃうから。

 ………あ、あと一応言うけど間違っても火を通さないで食べないでよね。寄生虫がいるかもしれないから」


「ひぃっ!」


 寄生虫と聞いて反射的に投げたんだろうけど、威力が違う。

 地面に激突したイナゴがパァンッ!と音でも鳴らすかのような勢いで跡形もなく消し飛んだ。

 魔力が籠ってたとはいえどんな威力してるの。


「寄生虫で何かあったの?」


「既にお亡くなりしてたセミを「聞きたくない!あっちで話して!」


 あっちで話してと言いながら耳を塞いで慌てて離れるミューズちゃん………なにこの子、凄くかわいい。


「セミをミューズが拾ったんだけど、そのセミのお腹から蜂の子を小さくしたみたいな寄生虫がポロポロっとミューズの服の裾から」

「ごめんお姉ちゃん、それ以上聞きたくないや」


 うん、それは気持ち悪い。田舎の人でも嫌なのに、都会っ子がそんな目に合ったら普通にトラウマになると思う。

 虫と言えば解体するのは良いけど、ウジが溜まったりしてるの見るのは流石の私も正直かなり辛いし。


「話戻すけど、アシュリーは何で山で狩りをしてた訳?

 いつもは向こうやあっちの広いところで教授をこう……シュッと、ガッ!っと感じに捕まえてるじゃん」


「そうなんだけど今そこに鳥が居ないんだよ」


「何かあったの?」


「3日前……じゃなくてもう4日前だね。

 都会の方に続く山の方から狼系のモンスターが群で来たんだよ。

 教授と手羽先はもちろん、村の戦える人達で団結してなんとか撃退したんだけど」


 あの時は大変だったなぁ。

 お父さんもお母さんも戦ってたけど、とくにエックハルトのじっちゃんが強いのは知ってたけどまさかあそこまで強いなんて思ってなかった。本気で戦う姿を見るのは初めてだったよ。


 お父さんとお母さんは調査の為に魔法の知識を蓄えているから強い魔法が使えて、エックハルトのじっちゃんは自称元Aランク冒険者の剣士なんて胡散臭かったけど実際凄かった。140歳のヒューマンのお爺ちゃんとは思えなかったよアレは。


 ……あれ?140歳って事はもしかしてお姉ちゃんと同じで覚醒した人種って事?

 正直寿命が伸びるとか、人知を越えるとか半信半疑だったけど思った以上に身近にいたよ種の限界を越えた覚醒者。


「ふ~ん……そっか、そうなんだ。ねえセリス?」


「え?………わ、私は悪くないと思うな~」


「ふ~ん、へぇ~、そうなのかな~?」


「……………………ごめん、否定できないかも」


「どうしたの?」


 なんかお姉ちゃんがウザイ。

 というかセリスさんとの距離感凄く近いね。

 フヨフヨとセリスさんの側で右から左へ移動しながらジトーっと見るお姉ちゃんが可愛いけどウザイ。


「狼がいきなり来たのはセリスのせいじゃないかな~って思ってね。

 セリスを荷馬車に乗せてからスライムとアースドラゴンを除いてモンスターはもちろん獣すら見なくなったからね」


「偶然じゃないかなぁ~」


「数ヶ月続くだけならそれで良かったけどほぼ1年はあり得ないって。

 遠くの林の影から鹿がこっちを見てるって事もないからね~。

 それにアースドラゴンだけど、やたら混乱している様子だったんだけど、あれってもしかして追い詰められた最後の足掻きだったんじゃないのかなぁ?」


 それってつまり……ん?


「いやいやちょっと待って、それじゃなんで手羽先は平気なの?」


「それは手羽先なら人の魔力に慣れてるから。

 ね~、手羽先」


 お姉ちゃんが手羽先を撫でる。

 昔からだけどお姉ちゃんって少し意地悪だよね。

 手羽先は羽を撫でられるのは好きじゃないって分かっていながら頭から背中へと流れて羽のギリギリを攻めてる。

 手羽先も目を細めたり嫌そうにしたり忙しい。


「もうお姉ちゃん!あんまり意地悪しないでよ!」


「ごめんごめん、手羽先が相変わらず可愛いくてつい……

 まあそれは置いといて、これからは都会から実家に戻る時にゲート使わないと災害が発生して迷惑かけるみたいだね」


「そうだね。私もそんな事になるなんて思わなかったよ」


「セリスはもうちょっと自分のおかしさを自覚した方がいいよ」


「ごめんね。平和すぎてどうも抜け落ちちゃってね~」


 お姉ちゃん……何でセリスさんの事ばっかり言うんだろ?

 自分も十分規格外だって自覚した方が良いと思うし、覚醒なんてしてる人の方が世の中少ないと思うよ?

 義務教育の頃以外に村から出たことない私でも分かるのに。


 ………と、またミューズちゃんが戻ってきた。


「メリル様!見てこれ!凄くかわいい!」


 お、グラストード。10㎝くらいかな?


「この子持って帰って良い?」


 尻尾ぶんぶん振って左右に体も若干揺れている。

 カエルよりミューズちゃんの方がずっと可愛いけどグラストードか………

 どうせならイナゴ食べるカエルの方が良かった。

 グラストードは基本草しか食べない。


「私は別に良いと思うけど?」


「私も反対はしないかな。ただあんまり触ってると可哀想だよ」


 実際つままれているカエルは放せとジタバタしてるけど完全に無意味。

 ミューズちゃんによってお腹のお肉が引っ張られて可哀想。


「それならバケツがあるよ」


 ………ンッ!?今の収納魔法じゃなくて錬金術じゃない!?


「ありがとう!」


 お姉ちゃんもそうだけどミューズちゃんの反応も当然と思っていて普通じゃない自覚が無いのかな?

 あれ?もしかしてこの場で一番の常識人って私?

 そんな馬鹿な…………


「その前に、はいピース」


「ピースピース!」


 両手の人差し指、中指指を立たせてポーズを取る。

 その体勢の意味は分からないけど可愛い。


「カエルは?」


「カエルって?」


「その子」


「この子カエルって言うんだ。ピース」


 この後聞いた事なのだけれど、こうやって旅の間に沢山写真というモノを撮っているそうで帰ったら見せてくれると言ってくれて少し楽しみ。


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