自己紹介
蝉の鳴き声が喧しい縁側。
そこにアシュリーちゃんを座らせて髪を乾かしながら整える。
出会った頃のメリルと似てほんの少しだけ固い感じの髪質をしている。
初めは「そこまでさせられない」と遠慮していたが、最後までやらせて欲しいと言えば任せてくれた。
「なるほどねぇ……熱くなりすぎて池に落ちてしまったと………」
「そうのんだしね、狩りは慣れてたのサこしたきやつぐすのんて情けね……」
今のアシュリーちゃんの言葉は……
「そうなんだよね、狩りは慣れてたのにこんな失敗するなんて情けない……」だろうね。うん、覚えてきた。
「どごで何故そしたきや慣れていね場所サ行ったんだい?」
……こんな感じなか。
「え……セリスさん上手コすぎね?発音も……」
「前向ぐ」
「ごめんまれ」
勢い良く此方を振り向くアシュリーちゃん。
櫛も使っている最中にそんな振り向いたら髪が引っ張られて痛い思いしてしまうだろうに。
私でなかったら絶対やらかしていた所だよ。
「おきや、違和感無ぐ話せてるかの?」
たぶん私という言葉がおきやで合っていると思う。
アシュリーちゃん1度しか「おきや」を使ってないから少し自信が無い。
「強いて言うだばセリスさんみての美人さんが使ってるのが変がも」
「だば良がた」
しかし……アシュリーちゃんが予想以上に可愛い………
人見知りという話は本当だったけれど少し心を許してくれるとリラックスしてる姿を見せてくれる。
今も髪を手入れされるのが嬉しいのか、鼻歌でも歌いそうなくらい落ち着いている。
さて、ここからどんな髪型にすれば良いかな。
メリルと違ってアシュリーちゃんの髪は肩くらいまでしか伸びてないし、暑いからポニーテールにでもしようかね。
「……ん」
「どうしたの?」
………と、メリル達が帰って来たようだ。
いきなり手を止め櫛を置いた事を不思議に思ったようだけど、私が返事を返すよりも答えが来るから言う暇が無いね。
「お帰りなさい」
「ただいま~………って、随分早く打ち解けたね」
「最初物陰に隠れたりしちゃって小動物みたいで可愛くてねぇ~」
む……まさかの無反応………というよりアシュリーちゃんメリルに釘付けだねぇ。ま、見た目だけならメリルの変化は別人で通るからね。
「もう方言覚えたの?」
「一から言語を覚えるのと比べたら楽勝だね」
「それは……そうでしょうけど………」
「あ……あの………お姉ちゃんなの?」
おや、リラックスできてたのに固くなってしまったね。
若干私の影に隠れようとしている姿が可愛らしい。
それにしても……噂の方言で喋るメリルの方が可愛いね。
普段と違ってどことなく力強さを感じ、これはこれで魅力的だよ。
「それ以外何に見えるの?まったくこの子は……」
「え……だって髪の毛ふわふわだし綺麗だし……服が高そう………それに……羽…………どうしたの?」
ふふん、メリルのカールは元々は私の自信作でね、目の付け所が良い。
覚醒の果てにそのカールが自前になっているけれど、それだけメリル自身もカールが気に入ってくれたと考えたら鼻が高い。
どういう原理か分からないけど空中浮遊しているメリルの姿に合わせて髪がフワッフワだ。
前のメリルも可愛いかったけど一段と可愛いだろう!
「覚醒したんだけど………そうだよね、またその説明からしなくちゃいけないよね…………」
この様子だと散々質問攻めされたって感じだろうね。
私も細かな説明まではしてなかったのが裏目に出てしまったかもしれない。少し悪いことをしてしまったかもね。
・
メリルの家族が揃った訳だが、座るのが彫りごたつで良かった。
ここまでニャッバーンと文化が同じだと椅子とか無いだろうから、正座させられると警戒していたけれど座れて本当に良かった。
あの体勢自体は問題無いが、あの体勢の時に向かいの相手に首を切り落とされると覚悟した、走馬灯を見た経験が過去にあって、それ以来どうも苦手なんだよねぇ……
「……ん?猫も飼ってるのかい?」
「猫?……あ、久し振りだね~。まだうちに通ってたのこの子はも~」
縁側が開けたままになっていて、そこから堂々と家に入り込む猫をゴロンと転がったメリルが撫でる。
その様子を見てミューズも触りたそうにしていて微笑ましいね。
「その子……別に飼ってる訳じゃなくてどこの家にも入り込むんです」
「それ、勝手に何か食べられたりするんじゃないのかい?」
「別にお肉以外ならそんなに困らないからね~」
なるほど、確かにこの土地は田舎ではあるが恵まれている。
餓える心配が無く恵まれているのに人口があまりにも少ない。
きっと生きていくには何ら問題無いのだろうけど、金が集まらないとかそう言った理由で若いのは都会に出ているんだろうねぇ。
「ほら、今は忙しいからお帰り」
ん……また一段と魔法の使い方上手くなったね。
メリルの魔力を帯びた言葉により意味を理解した猫は一鳴きして外へ出ていった。
魔力操作精度はもう私じゃ敵わないかもしれないね。
「さて、自己紹介しないとね。まずコレがお父さんのチェスター」
メリルのお父さんであるチェスターさんは銀髪で身長が一番低い。
純粋なドリーミーはきっとこれくらいの身長なのだろうね。
ドワーフよりは大きいがそれでも小さい。
そして私の予想より若々しい。
ヒューマンより寿命が長いのだろう。
しかし髪が長い……そこは研究者らしい人といった印象を受けるが身長の小ささも相まって背後だけ見たら女性と間違える人も要るんじゃないだろうか?
きっと髪を切る時間をも惜しいんだろうね。
「お母さんのジニーと妹のアシュリー」
お母さんのジニーさんは身長が一番高く、整った容貌をしているけどメリル同じくソバカスのある金髪のヒューマンだね。
メリルは母の影響で数字に強いと言っていたが、貴族とまでは行かなくともそれなりに整った容貌で数字に強いねぇ……………と、いけない。
いくら平和な世界でも綺麗事だけな訳がないと分かっていても変に勘ぐっていらん事態を引き起こすなんてしなくて良いだろう。
少なくとも20年以上平和に暮らしているんだし必要無い。
アシュリーちゃんは金髪で身長が高くてソバカスが出会った頃のメリルよりずっと薄いね。
髪の毛は短めで父親譲りの髪質なのか軽めにトリートメントとか施したのに髪が少しだけ跳ねてるのが可愛い。
外見以外の特徴としては周囲の認識可能な範囲の狭さからヒューマンとしての遺伝の方が濃いのが伺えるね。
たぶん意識しないとメリルみたいに目で見えない範囲まで把握できないんだと思う。
「これが私の家族。それで、私のパートナーで種族魔法使い……」
「セリス・アルバーンです。メリルには本当にお世話になっています」
「やはり種族魔法使いか」
そんな気はしてたけどやっぱり気付かれていたみたいだね。
仮に今のメリルが他の魔法使いに出会ったら一目で気付ける程度だからね。純粋なドリーミーならその可能性は十分あった。
「言いたい事もあるだろうけど先に紹介を済ませてしようよ。
その子はミューズ。
スカーレットミーティアのクローンでおおよそ2歳」
「えっ……そこまで話すのですか?」
「話すというか……見せようかと思っていたんだけど駄目かい?」
「探索の時に写真でも撮ったのですか?」
「そうじゃなくて……そうだね。見せた方が早いし少し手伝ってくれるかい?」
私が手を出すと「仕方ないですね」なんて言いながらも意図を察して手を重ねてくれた。
覚醒前にも伝えたけど、こういう冷めたような言い方をするわりになんやかんや付き合ってくれる所が本当に可愛い。
「……なんですかこれ?」
手を繋いだまま机に付け、魔法を発動させる。
手の上に長方形の光の幕が張られて映像が映る。
「アカシックレコードから派生した魔法で記憶を映像として見せる魔法だよ。
私だと発動して数分しか持続させられないんだけど、私より魔力制御の上手いメリルに協力してもらって、メリルの努力次第で何時間でも持続できるんじゃないかな」
「確かに凄いですけど……これ地味に大変だね………」
「全てを見せる必要はないからね。
ミューズとかの事もあるけど何よりさ、お父さん達にメリルがどれだけ頑張ってきたか見せてあげようよ」
「え……ちょっと恥ずかしいんだけど…………そうですね、分かりました。見せましょう」
たぶん……今メリルは私の過去を、想いを覗いたんだと思う。
私としては、自分が親だと認めている相手が生きているなら、生きている内に見てもらったりした方が良いと思う。
親と認めている彼等に私は……何もしてあげられなかったから…………
「さて、どの程度見せるか、どこまで話して良いかはメリルに任せるよ」
「ちょ……ちょっとそんな一変に送らないでください」
大丈夫。メリルにならこの倍の情報量を処理できる。
というより、してみせたよメリルは。
メリル………メリルは自分がどれだけ凄いか、ほんの少しは自覚した方が良い。
・
「つ……疲れた………」
「お疲れ様」
セリスから絶え間なく流れ込んでくる魔法の術式と記憶情報を即座に処理して見せたくない部分はバッサリと消してを続けてを繰り返して一通り終わりました。
……って、ミューズ寝ちゃってるじゃん。
まあ……初めは商談の所が主だったし退屈だったよね、ごめんね。
それよりよ………
「あの、セリス?」
「なんだい?」
「その、私は自覚なかったけれど遭難した時の風邪、アレはもしかしてかなり危なかった?」
「危なかったじゃなくて死んでもおかしくない容態だったよ。
私はああいう容態から死んだ人を沢山見てきたからねぇ」
うへぇ……あの時は自分の認識の甘さに後悔してましたがそんなモノじゃ足りないくらい危険な状態に陥っていたのかぁ………
画面で見て信じられないくらい青ざめた自分の顔を見て死ぬんじゃないかって思ったけど、死んでもおかしくなかったのですね。
「そっかぁ……ありがとうセリス。大好き」
親の前で言うのも恥ずかしいですがコレは感謝してもしきれません。
「自分の容態を自覚してなかったのかい?」
「私からしてみればセリスの方が見てられなかったから。不安で今にも消えてしまいそうなそんな雰囲気をしてたよ?」
「それはメリルが予想以上に弱すぎるからで……さて、それよりも遅くなってしまいましたけどお夕飯作ったから持ってきても良いですか?」
「え……」
お母さんの方を見て敬語を使うセリスには驚いたけど、それ以上に言われて気が付いた事の方に驚いた。
外を見れば既に夜を迎えていて何も見えません。
どうやら今気が付いたのは私だけでなく、お母さん達もそうみたいです。
「作ってくれたのなら助かるのだけど……いつの間に?」
「記憶と魔力はメリルに押し付けて私はこうやって人形を使って料理をさせていましたから。
食材も私の方で用意させてもらいました」
な……どうりであんなに負担が掛かった訳ですか!
こっちの処理で精一杯で人形を操作してるなんて全く気が……というより部屋が明るいのもセリスの魔法じゃないですか!?
本当に全部私に押し付けてましたよ!
「ちょっとセリス、後で文句の1つも言わせてもらいますからね」
「メリルならできると信じてたんだけどなぁ~」
「そう言われても誤魔化されませんからね」
「う~ん……お手柔らかにね」
料理が並べられていく中で私とセリスは何時も通りに話し合い。
お母さん達を置いてけぼりにしてしまいましたが仲の良さを見せて安心させるという目的は十分すぎる程達成できました。
他にも説明する事はありましたがそれはまた後日という事で落ち着きました。




