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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
四章、悲しい過去
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戦闘


 宝石を目にした瞬間、景色が変化し鉱山内部のような場所になった。

 この場所は地上まで大きな穴が広がっており、背後の空洞が無ければただの崖だとしか思えない。

 雲1つ無い天には赤い月が存在し、この場を若干赤く照らしている。


 普通なら有り得ない光景であるが転移の直前にメリルがダンジョンだと見破った。

 ダンジョンであればこの不可思議な空間もそれで理解できる。

 理解できると言ってもダンジョンとは人に理解できるものではなく、そう言うものだと受け入れるしか無いという事しか分からないけどな。


 セリスならもしかしたら知っているかもしれないが………


「ようこそ侵入者達よ」


 そう声を掛けたのはローブを着た痩せ細った男だ。

 気持ち悪い程にガリガリな体をしているが、その身体的特徴からスカーレットミーティアと一致している。


 分かってはいた。

 しかし、これで認めざるを得なくなった。


 実際にどれだけの事をしたか分からないが、少なくともセリスが聞いたというミィの過去を私達は教わっている。


 そもそも魔王は……いや、勇者はヒューマンに仲間を殺された事による感情の負担から力を抑えきれなくなり暴走。

 結果多くの敵と仲間を殺してしまった。

 勇者を暴走させておいて人類は手に終えないからと異世界へと飛ばし尻拭いをさせる形となった。


 その後、人類はいったいどれだけ彼等を追い詰め苦しめ続けたのだろうか。

 それは私達には想像もできないだろうが………


 少なくとも、今この瞬間。

 彼等の怨み、憎しみが確かな形として私達に襲い掛かってくるんだろうねぇ………

 いくら最強種とはいえこの面子なら大丈夫と思ってたけど、目にした瞬間に私の直感が警戒音鳴らしっぱなしだ。

 はぁ……ヤダヤダ…………


「ネームレス!ここどこ!?

 私こんな場所知らないんだけど!」


「いち……ミューズ、何故侵入者と共に行動している?」


「私はメリル様達と友達だもん!

 それよりさっきの変な音とここは何なの!?」


 ミューズがネームレスという奴と言い争っている。

 チャンスだな。


「ハリーとメリルは少し下がれ」


 指輪から剣を取り出そうと手を動かした瞬間、ミカエルの手が私の手の上に乗る。


「あの数……私の方が適任だろう。

 その間皆を守ってくれ」


「そうか……ならその時は頼む」


 あの数ってネームレスの背後の空洞の事だろうな。

 空洞に結界の蓋をされていて、その中を埋め尽くす程の仮初めの魔王が存在している。

 まあ、普通はそれだけで十分だろうがこっちにはミューズがいるし、何かしらの理由でミューズが戦わないとなった場合の事を言っているんだろう。


「ミューズ……何故侵入者を攻撃しない?」


「だから友達だって言ってるじゃん!

 それに、ドリーミーもいるしワービーストもいる!

 良い人もいれば悪い人もいる!メリル様達は良い人だから良いの!」


「ちっ……自我が強すぎる………だからコレは………………

 もう良い、なら用意しておいたこれ等を使おう」


 結界が消えた。

 激流のように仮初めの魔王が流れてくる。


「ブレイジングオーラッ!!!」


 その激流へ隕石が激突する。

 そう見えても何らおかしくない圧倒的威力。


 大きく跳躍したミカエルが崖を垂直の足場とし、自らを矢のように突撃させた。

 全身が炎の砲弾と化し激突した場所は爆炎を上げ仮初めの魔王が紙切れのように舞い上がる。


「王国の英雄………」


 誰かがそう呟いた。

 そして納得した。


 あぁ、確かにあれは吟遊詩人が歌う王国の英雄ミカエルをそのまま現実にしたような光景だ。

 炎を全身に纏い、まるで枝でも振り回すかのように巨大な剣を振り回し全てを凪ぎ払うその姿こそ英雄。


「とはいえ全ては無理みたいだよターニャ君」


「そうみたいですね」


 弓矢を取り出し構える。


 どうやら仮初めの魔王は吹っ飛ばされても燃えようとも剣が直撃しなければ致命傷にはならないようだ。

 吹っ飛ばされた結果、ミカエルより私達の方が近い仮初めの魔王は燃えながらこちらへ突っ込んできた。

 それでこそ私の元トラウマ。

 どう考えてもセリスにミィにミューズがおかしいんだよ!


「ネームレス!何してるの!止めて!」


「ヒューマンは敵だ。それに味方する者も例外無くな」


「止めないと私がお前をぶつぞ!」


「………痛い思いしたくないなら大人しくしているんだ」


「こっのわからずや!!!」


 ミューズが拳を放つ。


「ッ!!!」


 拳は地面から生えた白い柱に阻まれ、その時の衝撃でこの場の全てが震える。


「しまっ……」


 その影響で放とうと取り出した矢が手からこぼれ落ちる。


「メイルシュトローム!!!」


「なっ……メリル!?」


 私の目の前に渦の壁が発生する。

 それは天まで昇っていき、仮初めの魔王を津波のようだと表現したが、それとは違い本物の津波として地面へ迫り………消えた。


「はぁ……はぁ……もう……魔力切れ…………」


「いや、スゲーよメリル、本当に天才だったんだなお前………」


「本当、なんて才覚を持つ原石なんだろうね」


 メイルシュトロームが発動したのはほんの一瞬。

 だというのにセリスのメイルシュトロームをよく再現されており、巻き込まれた仮初めの魔王は水圧により一瞬にして潰れていた。


 それだけの事を小さな口で必死にマジックポーションを飲む二十歳にもなっていないドリーミーがやってのけた。

 一秒あったか無かったか、そんな一瞬だが、確かにメリルはセリスというはるかは高みへ指一本引っ掻けてみせた……………


「マテリアルウォール!」


 私のすぐ真横の壁が伸び、迫っていた仮初めの魔王を押し潰す。


「ターニャ君、凄かったのは認めるけど主力にボサッとされると困るね。マテリアルナイツ!!」


 一瞬で地面から七体の岩の騎士が生え私達を守るよう陣形を組む。


「すまな……ッ!?」

「ミューズ!?」


 メリー教授に謝罪したそのタイミングだ。

 ミューズがこちらへとふっ飛び壁へ叩き付けられた。


「う……ウヴーッ!!!ネームレスの癖にぃ!!!

 そんなの使って卑怯者!!!」


 メリルの回復魔法を受けながらそう吠える。

 その様子ならまだまだ戦えそうで胸を撫で下ろす。


「もう少しちゃんと仕付けるべきだったな」


 こちらを見下ろすネームレス。

 その玉座のように座る白い骨が動きだし、岩を砕きながら出てきたのは肉の無いドラゴン。

 それが7体も………


「な……なぁ…………?」


「自我が強くても暴れられると面倒だからと放置したのが失敗だったか………」


「それ………メリル様達にも向けるの…………?」


「にも?そもそも邪魔しなければ侵入者以外には向けん」


「させない………そんな事絶対にさせないッ!!!」


 ドクンッ! という音が1つ大きく響いた。


 瞬間、至るところに紫色の電気のようなものが走り、大地が紫の光を放つ。

 そして……ドラゴンへ向かうミューズの体が徐々に大きくなり、手足に紫で禍々しい籠手でもつけているようで、流れるような髪はまるで燃え上がっているかのように乱れ常に紫の稲妻を身に纏っている。


「ッ!!!」


 一体のドラゴンが捨て身の突進をしミューズの顔の向きが横へズレ……………


 世界を紫へと染める光が放たれた。


「あれが完全な魔王ブレス……」


 まるで他人事のように発せられたメリルの声が爆音の中で嫌に良く聞こえた。


 斜めに放たれた魔王ブレスは崖を地面をなぞるようにえぐり、消し飛ばした。

 そこは一瞬前まで確かに崖であったが今ではただの坂道のようになっている。


「不味いな……」


 確かに威力は素晴らしいがミューズの動きはあまりにも子供というか、素人丸出しでまともに攻撃を入れられるとは思えない。

 あの骨のドラゴンは魔王の対策しているのかあまりダメージが入っていない様子だし………


 ミカエルはあそこから動けないな……

 というよりミカエルが一番オーバーワークだ。

 頑張って持ちこ堪えてもらうしかない………なら、


「3人でどうにか数分持ち堪えられないか!?

 ミューズの援護に回りたい!」


「うん、ポーションあるから結界張ればできると思う」


「なら、行ってくる!」



 ・



 な……メイルシュトロームだと?

 くそ、あの炎を撒き散らす男が一番厄介だと思っていたがあのドリーミーも放置できん。


「邪魔だ!」


「ぐっきゃあ!」


 完全に不意を取った一撃だったが流石は勇者の細胞から作った試作品。

 今の一撃を腕で防ぐか……


 自我の強すぎる失敗作とは言え、その能力は間違い無く成功作であるだろうな。

 時が来たら治安の悪い場所へ放り込み、やがて感情に任せ暴走したと同時に複数箇所無差別に攻撃を仕掛ける為に取っておいている。


「う……ウヴーッ!!!ネームレスの癖にぃ!!!

 そんなの使って卑怯者!!!」


「………フ」


 ミューズの叫びに思わず笑いが漏れた。


 その言葉、我々が何度思わされた事か。


 劣等種のヒューマンが、我々にいったいどれだけの事を………


「……ッ!?」


 しかし今はそんな事考えている余裕は無さそうだ。

 能力だけは成功と常々思っていたが、これ程簡単に第2武装憑依までしてしまうとは。

 このまま侵入者を殺してしまっては第3、暴走形態に突入し私が殺されてもなんら不思議ではない。


 ならどうにか抑え込み、その上で奴等を生け捕りにすれば良い。


「まったく面倒だよ!ヘルフレイム!」

「プロミネンススラッシュ!」


 私の放ったヘルフレイムは失敗作に届く前に切り裂かれた。

 金髪をしたヒューマンの振るう技によって。


「ライトニングアロー!」

「ぐっ!」


 武器を変え即座に放たれた矢が私の手を貫き、ボーンドラゴンの骨と繋がされる。


「ミューズはドラゴンの動きをなんとか止めろ!

 私ならドラゴンをどうにかできる!」


「なっ!?」

「分かった!」


 その言葉が事実だとしたら奴はアンデッドへ有効な技を持っている。

 どうするか考える暇も与えられる事はなく2匹のボーンドラゴンがあっという間に捕まる。

 倒されないように対策しているだけで元々の身体能力の差は埋められない。


「クワトロスラッシュ!」


 一振りで4発の斬撃を放つ技……

 クワトロスラッシュを使える時点でその技量の高さには着目すべきだろうが………


「聖剣だと!?」


 聖なる光を帯びた剣であり、使い手に黄金の翼を付与している。

 あれはもう……ただの聖職者が付与した剣ではなく、神話に出てくるような神々の領域にある剣と考えるしかない。


 その剣に切り裂かれたボーンドラゴンは浄化の光により内部から光を放ち灰になり空へと舞った。


「ふざけるな………フザケルナァッ!!!」


 なんだアレは!

 聖剣を持つヒューマンを中心としスカーレットミーティア、ヘミングウェイ、ドリーミー、エルフ!

 これだけの種族が一致団結し私へ挑んでくる。

 これはまるで………


 認めない……誰が認めるか!!!


「エナジーバーストォッ!!!」


「ぐっ」


 私へ斬りかかろうとしてきた聖剣の持ち主を空へ吹き飛ばす。


 もういい……邪魔だ。

 今まで使えるからと放置しておいたがこんな不快な光景を見せられたんだ。


「死ね」


 魔方陣を展開し魔力を送り込んだ。


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