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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
四章、悲しい過去
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セリス


 何でセリスがこんな所に?


 仮にセリスがこのタイミングで到着したとしたなら他の人達も来ているはずなのに誰も来ない。


 それに………セリスから……いえ、この人から感じる気配、本当にセリス?

 確かにセリスも自信に満ち溢れたような魔力を漂わせている。

 けれど、この人のそれはセリスより遥かに…………


「私の財を傷物にしようとはな……良い度胸だ」


「だ……誰!そんな力を持っているのに何処に隠れてた!」


「これから死ぬ奴に教えて何の意味がある?」


 寒気がした。直接向けられた訳でないのにゾクリと震える程の得体の知れない何かを強く感じてしまう。


「な……カフッ」


「安心しろ、痛みという罰は与えるが最後には死という慈悲を与えてやる」


 距離を取ろうと背後に飛んだはずのミューズが一歩も動かないセリスの手に吸い込まれ首を鷲掴みにされる。

 そして………


「ガッ!」


 壁に叩き付け、めり込む。

 壁の先は地中だったから壁が崩れるなんて事は無かったけれど、廊下全体が揺れる程の強い衝撃が走った。


「アアアアアアアアアッ!!!」


 必死な叫び。そうとしか捕らえられない叫びを上げるミューズから手を放した。

 解放されたミューズの体は禍々しく……そしてミィさんのと比べてあまりにも不恰好な紫色をした防具を身に纏っていた。


「許さない!やっぱりヒューマンは敵ッ!!!」


「阿呆が。財を奪う、傷付けるモノを殺すのは当然だ。

 貴様はここで死ぬ、無駄な抵抗を止めれば苦しまずに……」

「ゴフッ」


 あまりの速さにミューズの姿が消えたように見え、次の瞬間に見えたのはセリスの蹴りが鎧を砕き腹に入った瞬間。

 その蹴りの衝撃でミューズは天井へぶつかり、丁度私達の中心へと落下した。


「人の忠告は素直に聞き入れるべきだぞ?」


「うぐ……う……うぅ…………」


「…………」


 冷たい……冷たすぎる眼だ………


 まるで、商品を眺めながらこれから何をどう料理しようか、日常的に考える事を機械的に実行しているような何の感情も無い、敵意も、愛情も、情けも、悲しみも………


 何の色も感じさせない理不尽な力がミューズへと足音を鳴らしながらゆっくりと迫る。


「ミューズ!」


 コツ……コツ……と、よく響く歩く音を耳にしてようやく状況を呑み込めた私は、痛みで立つ事もできないミューズへと駆け寄り回復魔法を使用する。


 その最中、私は背中から凍り付くような錯覚に襲われる。


 その手が、密度の高い魔力が集中している指先が私へ向いているのが分かる。


 ターニャもミカエルさんも皆動かない……いいえ、動けない。

 特にミカエルさんの状態は異常だ。

 剣の持ち手を握りなんとか意識を保っていて、呼吸がまともにできておらず滝のように汗をかいている。


 動けるのは……私だけ…………


「………何故庇う必要があるんだい?」


 回復魔法を使っていた手を止め、振り向いて全身を使ってミューズを庇う。先程、みんなにした時と同じように。


「それが生きていた所でメリルにとって何の利益にもならないはずだろ?」


「利益とか関係ありません。ミューズは話せば分かってくれます」


 私の声は震えていたと思う。

 それでもセリスの目を見て真っ直ぐと伝える事ができた。


「うっ………」


 セリスが私の額を少し痛いと感じる程度の力で突いた。

 もう何度体験したか分からない、見ていたのに気が付いたらされていた。


 私が思わず額を抑え、セリスが私の頭を撫でる。


 そして翼を通して理解した。

 今までずっと感じていた疑問、不可解な事を。


「覇王……」


 目の前の………いつもよりずっと乱暴な手付きで私を撫でるセリス。

 彼女こそが覇王だ。


 セリスの中にセリスと覇王。

 1つの体に同一だけど別々の人格が存在していたんだと理解した。


「……久しぶりですね、覇王セリス」


「そう……分かるのか」


「やっぱり……」


 旅をしている間も、たまにセリスが別人に思える時があった。

 それは勘違いなんかじゃなく本当に別の人格だった。


 人工的に魂を作り人形等に宿すという魔法が存在する。

 たぶん……自分自身の精神を守るために覇王セリスを創った。


 セリスが精神を破綻させずにいられたのは覇王セリスが生まれたから。

 覇王セリスもセリスと同じく私に好意を向けてくれている事は分かる。

 けれどそれは友情とかじゃない。


 覇王セリスの好意は宝石や金銀財宝、そんな物に向けるような感情。

 その感情に気がついてから、セリスの中にもう1つ精神が存在しているという事に気が付くまで時間は要らなかった。


「お礼を言いそびれていましたね………

 守ってくれてありがとうございます、セリス」


「覇王とは呼ばないのか?」


「だって……貴方もセリスだから………」


 セリスと覇王が私へ向ける感情は異なる。

 けれど、覇王とセリスの私への扱い方は重なる事が多々ある。

 セリスは感情に対して私への扱い方が分からずお気に入りの人形を愛でるかのような扱い方をしてしまう。

 それは最近でも油断すると出てしまう。

 視界に入ったお気に入りの人形を無理矢理引っ張って抱き締めるのと似たように、気が付いた時にはセリスの膝の上へと、私の意思なんて関係無く乗せられてしまっている事がある。


「………貴方がセリスの中に生まれて守ってくれなければきっとセリスは壊れていました」


 必要だから覇王が生まれた。

 けれど覇王の本質的部分はセリスが持っていたもので、それは今でも変わっていない。


「…………そうか、その翼は私の存在意義まで見通すか」


「見通してはいませんよ」


「どうだか……」


 その言い方、私の考えが当たっていると考えて良さそうですね。

 覇王はセリスの防衛本能が生んだもう一人のセリス。

 それもただ普通に創ったのではなく、少しずつ削れていったセリスの魂を集めて形にした存在こそが覇王。


「そこまで理解しているなら話は早い。

 私にとってセリスが壊れてしまう事はこの上無く困る事である訳だから危険は避けなければならない。

 だというのに、危険を冒してまで守る価値があるとメリルは言うのか?」


「あります!」


 即答されたのが意外だったのかセリスのポーカーフェイスが一瞬だけ崩れたのが私にも見てとれた。


「私は少しですがミューズを知ってしまいました。

 ミューズが優しくて、好奇心大勢で、まるで子供のようで………

 確かに打たれそうになりましたが、敵意なんてありませんでしたし……とにかく私はミューズの事を気に入ってしまいました。

 そんなミューズをセリス、他でもない貴方が、傷付けるだけでなく殺そうとしている。

 もしセリスがミューズを殺してしまえば私は今のセリスとの関係を保てる自信が無くなる。

 今でもどれだけ強大な力を持っていようがセリスなら大丈夫………なんて思っているのに、それが揺らいでしまいます。

 そうなれば、私は無意識にセリスを拒絶してしまうかもしれないから……………」


 言いたい事は全部言った。


 痛いほどの静寂が訪れて一秒、二秒と過ぎるがあまりにもその数秒が長く感じる。


 やがて、セリスがため息をつきながら向けていた手を下ろす事で終わりを迎えた。


「なるほど……それは充分すぎる理由だ。

 全く……だから私は後悔するよと言ったんだ……………

 まぁ……そんなメリルだから私も気に入ったのだろうが………」


 セリスから霧のような魔力が発生し、徐々に体が薄れていく。


「セリス?………ふふ、何で気づかなかったんだろう…………」


 私がセリスの名を呼んだ時、カラン……とセリスのいた場所に杖が落ちる。

 その杖は間違い無くセリスから借りた杖で、今の出来事に必死過ぎて無くなっていた事にすら気が付いていなかった事に苦笑してしまいました。


「ごめんミューズ、今治すから」


「………助かったの?」


 体に触れ回復魔法を再開するとミューズが震えながら聞いてくる。

 よっぽど怖かったのか、下半身の方が濡れていて大きくは無いけれど小さいとは言えない水溜まりができてしまっています。


「大丈夫、私が守るから……」


「……ヒューマンの味方なのに?」


「ヒューマンには悪い人と良い人がいて、ドリーミーも同じ。

 少なくとも私達はミューズの敵じゃないよ。

 それに、敵なら気付かれる前に襲ってたでしょ?」


「あ……そっか……そうだよね………………う……うぅぁあぁあぁぁ~」


 我慢の限界だったのか、ミューズが私のスカートを強く握りしめて泣き出してしまいました。


「怖かったよね、痛かったよね、もう大丈夫だよ」


 回復魔法はミューズが泣き出す少し前に終わったので泣き止むまでミューズに抱き付きよしよしと頭を撫でる。

 服が汚れてしまいますが……まあ仕方ありません。



 ・



「お待たせしました」


「良いってことよ」


 適当な個室へ行き私とミューズで着替えを済ませる。

 その間見張りをしてくれたターニャ達にお礼を言ってミューズの方へ向く。


「ほら、ミューズ」


「うん……さっきはごめんなさい!」


 ミューズは下手くそながら必死に深く頭を下げる。

 着替えの最中、ミューズはまた泣いてしまいました。

 その理由はターニャ達に酷い事をしてしまったから許してもらえないかもしれないというものでした。


 ミューズの中では自分の攻撃が完全に入った事になっているらしく、さっきの自分みたいに痛い思いさせてしまったのが気掛かりなそうです。


「あぁ、それも気にするなって、なあ?」


 ターニャの言葉に皆頷く。

 どちらかと言えば皆ミューズへの同情の方が強い様子です。

 まあ、直接向けられた訳でもないのにあのプレッシャーですもの。

 直接向けられたミューズの恐怖は本当に計り知れません。


「ありがとうみんな……メリル様………」


 …………ん?


「メリル様って何で様付け?」


「え?メリル様はメリル様だよ。

 偉くて強くて尊敬できる人に様付けするのは当然だからメリル様」


「いや、私別に強くないよ?メリルって呼んでくれないかな?」


「嫌!メリル様が良い!」


 えぇ……そんな断言する事無いでしょうに………

 嫌と言いながらも抱き付いてくるのでとりあえず撫でておきましょう。

 ん……頭をすりすりと見た目相応の行動をしてきました。

 可愛らしいけど……何度だって言いますが間違ってもミューズをミィさんとは呼べませんねこれ。


「………確かに、あの殺気の激流に抗い立ち向かったメリルは充分過ぎる程強い。

 あれだけで心が折れかけた私よりもずっとな………」


 とか考えていたらミカエルさんが深刻な表情でそんな事を言い出す。

 私だって相手がセリスじゃなければできませんよあんな事。


「それは私も思った。

 何故あれだけの力を前に立ち向かえるんだってな」


「え?ターニャまで?」


「実は僕もそう思う」

「同じく」


 え……えぇ?

 ネイティさんは……顔見たら頷かれてしまいました。


「むぅ……もういいです、好きなように呼んでください」


「メリル様~」

「メリル様!」


「殴りますよ?」


「わりぃわりぃ」


 ミューズはともかくターニャは完全に悪ノリでした。

 セリスのやり過ぎのせいで悪い雰囲気になっていたので、ガチガチになっているのと比べれば100倍マシですけど。


「さて、この後どうするかな?」


「そういえばミューズに連れられていた途中でしたね。

 ですがさっきの音は凄く気になりますし。

 ビィー、ビィーって鳴ってた」


「確かに」


「ならネームレスに会いに行こう。

 たぶん知ってると思う、こっちだよ」


 ミューズがそう言うとたたたと軽い足取りで走る。

 けれどその速度は私の全力を遥かに越えている。


「ミューズストップ!速すぎる!」


「あ、ごめんなさい」


 謝りながらも嬉しそうに尻尾を振るミューズ。

 感情が高ぶっているのか、道案内の最中楽しいとか、嬉しいという感情が止まることが無く、何かアクションを起こす度に先走る感じになってしまう。

 その度に謝るミューズはやはり嬉しそうで、なんというか私が思っているより数段ミューズは子供なのかもしれません。


「そういえば聞き忘れていましたけどミューズって何歳なんですか?」


「1歳と8ヶ月だよ」


「!?……へ、へぇ~……そうなんだ………」


 そんな感じに話し合いながら私達は足を進める。


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