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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
四章、悲しい過去
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勇者


「…………」


「…………ドリーミー?」


 カクンと首をかしげて聞いてくるミィさんと瓜二つな子。

 何でしょう……敵意は無いようですが、驚いているというより、初めて見た何かに興味があるもののどうしたら分からないと言った魔力を彼女から感じます。


「はい。私は半分ドリーミーです」


「はぇ~……初めて見た…………」


 そう言って近づいて……え……


「ちょっと……近い………」


 ん……セリス以上にグイグイ接近してくる人初めてです……って、匂いを嗅がれている?


「………良い匂い、果物?」


「え……ちょっと…………」


 初め私の羽に鼻を近づけてい匂いを嗅いでいた様子でしたが、次に髪を嗅ごうと私の体にのしかかりそうな勢いです。


「ちょ、ちょっと待ってお願い」


「……砂糖の匂い?」


 押し退けようとすると今度は私の手の匂いを嗅ぎ始める。

 砂糖の匂い?……あ、さっきキャラメルを掴んでましたからね。


「……あの、食べます?」


 キャラメルを収納魔法から出す。

 すると受け取らずキャラメルの匂いを嗅ぎに来たのでその隙に助けを求めて視線を向ける。


 ……ちょっとターニャ、そんなやれやれだねみたいにしないで良いから助けて。


「………あの、食べるなら口に入れません?」


「えぇ?」


 ………え?いやまさか………でもこの魔力の感じ…………


 えっと、この子は私が持ったままのキャラメルをチロチロと舌で舐め始めまして、私はその様子を見て今の発言をした訳なのですが何がおかしいか本当に分かってない。


「………あ~ん」


「…………???」


「……口を開けてください」


「ん?うん、良いよ~」


 口を開いてくれたのでキャラメルを口の中に入れる。


「んっ!甘い!美味しい!」


 尻尾をブンブンと振って……この子をミィさんだなんて間違っても呼べませんね。

 温厚なミィさんでもそんな間違いは怒りそう。


「あの、私の名前はメリルと言います。あなたは?」


「名前!?名前があるの!?」


 え……何でそんなに驚いているので………


「……もしかして名前が無いのですか?」


「私?私にはあるよ!私はミューズ!

 勇者を引き継ぐ二代目勇者は私なんだ!」


 尻尾を振りながら満面の笑みで答えるミューズ。

 ……この子相手なら言葉は崩した方が良いかもしれませんね。


「ねえ、ミューズは何でこんな所にいるの?」


「こんな所?

 う~ん…………良くわからないけどここは私の部屋の近くだよ?

 それで私はミューズで一番お姉ちゃんになるんだ。

 でもね、みんな出てきたのに話してくれないんだ、赤くなくて黒いし獣でね、話が通じないんだ」


 う~ん………???

 私もミューズの言っている事がほんわかとしか分からないなぁ……


「あとね、ネームレスは話せるけど話してくれないんだ。

 だからちゃんと話したの初めて」


「へ~、そうなんだ」


 けっきょくミューズが何を伝えたかったのか半分くらい分かりませんね。


 ここが自分の家だというのは分かります。

 ネームレス?名前が無い人?赤くなくて黒い獣?

 でもお姉ちゃんになるって事は……


「えっと、お姉ちゃんになるってことは弟なのかな?妹なのかな?」


「ん~ん。ミューズはみんな女だよ?」


 ミューズはみんな女???


 タ、ターニャ………って、ターニャに一瞬でも期待した私が馬鹿でした。

 そんなお手上げみたいなジェスチャー求めてませんって。



 ・



 スカーレットミーティアの中から勇者が生まれた。

 生まれたその時から保有魔力量はこの世の何よりも多く、10歳という若さで大人の戦士ですら敵でない程の力を見せ付けた。

 二十歳になる頃には強大なモンスターを薙ぎ倒し幾つも人類では活動不可能と思われていた土地を活動できる環境へと変えていった。

 正義感が強く、優しく、そして厳しい性格をしている勇者の存在は我々にとって憧れであり誇りであり、夜闇を照らす月明かりのように掛け替えのない存在であった…………


「これは………」


「………………」


「何……これ…………」


 並ぶ大量のカプセル。

 見てとれるその範囲全てに入っている存在………


「………なんだい?止めてもらいたいのかい?私は止めないよ?」


「逆だよ。てっきり止めるのかと思った」


「止める訳無いだろう?

 これはミィが決める事、私が持っている権利はその行く末を見届けるくらいしか無いんじゃないかい?」


「そっか………ありがとう」


 強張った表情だったミィが柔らかな笑みを見せる。


「ミィちゃん………」


「アーちゃん……ちゃんとそこで見届けて」


「ミィちゃん何言ってるの!駄目、だって……」


 確かアンナという名前だったね。

 そのミィの友達は、これから何をしようとしているのか察してか止めようとする。

 しかし……この場の異常さを理解してか言葉が出ないようだね。


「だって……?ここにあるのが仮初めの魔王の材料だよ」


「っ!?………そうかもしれないけど」


「アンナ、止めるんじゃないよ。これはミィが決めた事だ」


「でも…………ッ!?」


 私の魔法によりミィの友達を眠らせる事にした。

 これ以上ミィの覚悟が揺らぐような真似はさせてはならない。



 ・



 勇者の力は強すぎた。

 その強すぎる力は他の生物からしたら無視できるものでは無かった。

 我々を差別し奴隷のように同胞を扱っていた者から解放する等繰り返すうちに敵が増え戦争へと発展した。

 そして、勇者の目の前で勇者の親友が戦死した。


 その瞬間、戦争の場は殺戮の場へと変わった。


 勇者の強すぎる力は勇者自身にも扱いきれるものではなかった。

 勇者が普段使っている力はその力の全貌からしてみればほんの僅かでしか無かったのだ。

 暴走した勇者による蹂躙は5日間にも及んだ。


 勇者は正気に戻ることができたが、この事件を切っ掛けとして世界の大半が我々の敵となった。

 勇者という強大すぎる力を滅ぼすために、世界が団結してしまったのだ。



 ・



「ハッ……ハッ…………」


 息を乱すミィの全身は赤く染まっている。

 血を流すこと、血を浴びる事………それはスカーレットミーティアにとって生きる事への敬意。


 強さを認める事、生きる大切さを理解する事、命を奪う罪を受け入れる事………


 その敬意を込めるはずの行為だというのに、そのミィの後ろ姿が私には今にも消えて失くなりそうなほど儚く見えた。


「………それは?」


「あぁ、これ?これは昔竜王に切り落とされた私の右腕だよ……」


 カプセルの中にいた体が仮初めの魔王へと変化が始まっていた個体達と違い、その手に持っていたのは完璧な魔王の腕。


「こんなもの……無ければ良かったのにな……………」


「…………」


 違う……それは違うだろ……ミィ…………


「それが無ければ今のミィは無いよ。

 目を反らすな、誇れ、お前にはそれだけ思い、行動する同胞が、仲間がいた事を」


「ッ!?……セリス…………」


「私も同じだから…………」


 丁度去年辺り……今ミィが感じている思いを私もしたから分かる。

 誰かの為に自らの命を燃やす阿保。

 その阿呆に私は救われた。

 ミィの場合はそんな阿呆による敵討ち、死んでいった同胞へのレクイエムを奏でる為の準備なのだろう。


「………そうだね、受け入れるべきだ。

 それが私達……私の一族のルール…………」


 そう呟いたミィは自らの腕を切り落とす。


「ぐ……うぅ……が…………はぁ………はぁ………はぁ…………」


 切り落とした断面へと変わりとなる禍々しい魔王の腕を付け、具合を確かめるように動かす。


「………これからも私はこの力を背負い続ける。

 そして、こんな馬鹿な真似早く止めさせないとな。

 …………ただ、一人では不安だ。

 だから、見守ってくれないか?」


「当然。………この子達はどうしようか?」


「あぁ………すまないが光魔法で送ってやってくれないか?

 私は光魔法は使えないから」


「分かったよ。それと………」


 死体を消し飛ばし、ついでにミィの体を綺麗にする。


「せっかく同胞に会うんだ。身綺麗にしないとね」


「………ありがとうセリス、この借りはいつか必ず返す」


「そういうの最後に言うものじゃないのかい?」


「関係無い、何度だって言うよ。本当に、ありがとう。セリス………」


「そうかい……」



 ・



「お……おぉ………?」


 ミューズの案内で廊下を歩いていると突然ビィー、ビィーと音が響き渡る。


「なんだこれ?」


「私も知らない」


「え?ミューズも知らないの?」


「うん」


 即答ですか。それも本当に知らないよう……何故少し楽しそうなのでしょうか?


「あのミューズ?何か面白そうな事でも起こるの?」


「うん?……うん!今日なんか知らない事ばっかり!

 どれも面白いからきっと面白い事だよ!」


「あ~……なるほど………」


 案内の最中ミューズに外の話をしてとても楽しそうでしたからね。

 どうやらミューズはこの地下で生まれてずっと外に出た事が無く、それどころか外があるなんて事すら知らなかったそうです。


「何が起こっているか分かる方法ってあるかな?」


「う~ん……ネームレスなら知ってそうだけど………

 アイツ臭いし遊んでくれないし話もしてくれないから会いに行きたくない」


「そうなんだ。………どうしましょう?」


 とりあえず皆に聞いてみる事にする。

 正直ミューズを見付けた瞬間から何を目的にしているかよく分からないんですよね。

 ミューズみたいな子はどうやらこの地下には居ないみたいですし、仮初めの魔王に遭遇する度にミューズが爪で引き裂いてまして、仮に仮初めの魔王を量産するのが目的だったとしても矛盾しすぎです。


 そうそう、床や壁の至る所にある爪跡はミューズが仮初めの魔王を切り裂いた時にできた跡でした。


「けっきょくネームレスって奴をどうにかしないと仮初めの魔王は無くならないんじゃないのか?」


「仮初めの魔王?」


「ミューズがさっき倒した黒い奴だよ」


「ん?あれはミューズに成り損ねたミューズの妹だよ?」


 ミューズの発言に皆がミューズを見詰めて無言になる。

 その中で唯一レイル教授が「やっぱり……」と呟いた。


「…………は?どういう意味だ?」


「ミューズはね、先代勇者様であるミィ様の一部から生まれたんだ。

 私のフルネームはミューズ成功体01。

 だから私が一番のお姉ちゃんなんだ」


「は?……は?」


 ……ターニャのこれは分からないとかでなく完全に理解する事を拒んでいる感じですね。

 まあ無理もありません。


 この中で魔法に2番目に詳しいだろう私もこの発言には驚きましたし、正気とはとても思えません。あまりにも非人道的すぎる。正義の概念が欠落しています。


 確かにその者の細胞と魔力さえ十分に手に入れば理論上可能かもしれませんが勇者で……あの魔王でそれをするのか?と理解する事を拒みたくなる。


「ん………ん~……………」


 そんな混乱した様子のターニャにミューズが近付く。


「………どうしたんだ?」


「…………羽が無い?………………ヒューマン?」


「ん、そう……」


 ターニャが言い切る前にミューズの体がまるで驚いたネズミのような反応の仕方で背後へ物凄く飛ぶ。


「お、おのれヒューマン!!!

 お前達はそうやって卑怯な手で先代勇者様も騙したって読んだぞ!

 優しいふりして私を騙す気だったんだな!!!」


「は?いや、違う!騙してなんていない!」


「私はやっとやりたい事ができたんだ!

 外に出ていろんな物を見てみたい!

 こんな所で先代勇者みたいに消えたくない!

 私達を最後の最後まで根絶やしにしようとした最も残酷なヒューマンが私を惑わすな!邪魔をするなぁッ!!!」


「だから嘘じゃ無い!」


「問答無用ッ!!!」


 ガキンッ!


 強い衝撃と金属がぶつかり合うような音が響く。


「ぐっ……流石ミィの一撃は重いな………」


 ミカエルさんがターニャの前へ出てその大剣でミューズの爪を防いだ。


「お前も邪魔を………お前もヒューマンか!!!

 じゃあお前も!?お前も!?お前は……ワービーストだな!」


 とても興奮した様子でハリーさん、ネイティさん、レイル教授の順番で指を差す。


 その様子に私は疑問を覚える。

 興奮してはいるものの、その興奮は怒りとかでは無く………


「混乱しているだけ?」


「おいメリル!?」


 そう思った瞬間私は半場無意識に皆の前に出た。


 ターニャの怒鳴り声は当然戻れという意味。

 けれどここまで来たらする事は1つ。

 ミューズは悪い子じゃない。


「ミューズ、止めてください。

 本当に私達はミューズを騙してなんていません」


 両手を広げ、皆を庇うように体を盾にしてミューズの前に立つ。

 ミューズは恐怖し混乱しているだけ。

 その恐怖と混乱の中に私達への好意を感じた。

 信じたいけど、騙されてミィさんのように封印されてしまうのが怖い。

 そう感じて手を出してしまった。

 もう引き返せる精神状態じゃないのでしょう。


「うぅ……どうしてドリーミーがヒューマンを庇うの………?

 ドリーミーは私達の味方でしょ?」


 ドリーミーがミューズ達の味方?

 ミィさんもドリーミーの事を凄く詳しく知っていましたし関係があるのでしょうね……しかしそんな事は後。


「いいえ、私はミューズの味方でもありますがスカーレットミーティアの味方ではありません。

 そして、私はターニャとミューズの友達ですから両方守ります」


 真っ直ぐとミューズの目を見て言い切った。


「う……うぅ~……………」


 明らかに見てとれる動揺。


「お願い、ヒューマンとかでなく、私達を信じて」


 いける。内心自分でも卑怯だなと思いつつもそう思った。


 しかし慢心はしてはいけない。

 商法の基本中の基本を私は忘れてしまっていた。

 まあ、商談でも無かったので仕方ない気もしますが。


「うぅ~!もういい!退かないなら少し痛い目見るから!」

「え?」


 パンッ……


「…………セリス?」


 ギュッと閉じたまぶたを開く。

 目にはミューズの拳をセリスが指先1つで受け止めている姿が目に写った。


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