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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
四章、悲しい過去
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魔法具についての雑談


 天変地異のような光景が目まぐるしく巻き起こる地は草一本残らず大地が黒と紫と赤に変色してしまった。

 全体的に真っ黒でまるで黒パンのような大地で、赤い部分は溶岩でしょうか?話でしか聞いたことの無いドロドロとしたスライムのような液がグツグツ煮たっている。

 紫色は水晶のような結晶でして、それが黒い大地に疎らだったり、纏まったりと散らばっていて……この光景そのものが問題ですが問題はそこじゃなくて、それがただの結晶ではなくとんでもなく高密度の魔力を感じるという所ですね。

 普通の人が触れたらきっと毒でしょう、あの魔力量では。


 ただのグラウンドがまるでお伽噺に出てくる魔界のような光景へ変えたセリスとミィさんは仲良く戻ってきて、既に一時間が経ちました。


「旨い!やっぱりセリスの料理旨いな!」


「そう何度も誉められてもねぇ……」


 テーブルには大量の料理が並んでいてお酒まで開けています。

 周囲をメイド人形達が飛び回り料理を行い次々運んでくるけれどすぐに無くなる。

 私もちょびちょび食べてますけど、ミィさんのその小さな体のどこに料理が消えるのでしょう……


「……不思議かい?」


「え?……えぇ、不思議です」


「魔王の力は負担が大きいからね。あれだけ使ったんだからその分回復しようと体が求めてるんだよ。

 胃に入ったものが片っ端から魔力に変換されてるからいくらでも食べられる」


 まさか本当に私が不思議がっている事を言い当てるとは……流石セリス。


「なるほど……」


 本当に片っ端からって感じですもんね。

 肉料理が出た時なんて骨ごと食べてましたけど、ワービーストだからとかでなく足りない分を欲してるからという訳ですか。

 新しい品が出る度にセリスの料理を旨いと絶賛していてもうミィさんの「旨い!」は聞き飽きました。

 しかしそれはセリスの作る料理のレパートリーが多さを意味している訳で、正直この量は驚きです。

 冒険者として趣味の範囲としか聞かされていなかったので多少の工夫かと思っていましたがそんな量じゃありません。

 それもこんなに美味しいなんて。


「ふぅ、食ったぁ~……まだ食べられるけどそろそろ喋りたいからツマミ頼むぞ」


「図々しいねぇ……」


「応接室で料理始めたセリスに言われてもなぁ……」


「そこは図々しいのではなくセリスに常識が無いのでは?」


「あは!メリルの言う通りだ!お前もう少し常識学べよな!」


「うるさいよ」


 魔王に常識を説かれる……自分で言っておいてなんですが、セリスは別に常識が無いのではなく常識に価値があるか無いかで判断してるんですよねきっと………

 どういう事かと言うと、常識に従った方が面倒に巻き込まれないから従うだけで、面倒の割合が常識に従った方が多いと見ると物理的にメチャクチャにしてしまいますよ?常識を。


 それを基準に考えるとミィさんはセリス以上に常識を理解していて………いえ、それどころかどことなく普通な人のような感じがするんですよね今のところ。

 振る舞いや雰囲気、取っ付きやすさ等や遠慮のしかたや他人との距離の取り方等々細かな部分まで普通という印象が強いです。

 先程の戦闘を見た上でそう判断できる人はほんの一握りだと思いますけどね。


 料理が大量に作られる切っ掛けだって、クッキーを一口食べたミィさんが「セリスの作ったクッキーの方が旨いな……そうだ、この前約束したし料理作ってよ」と冗談を言ったら真に受けたセリスが料理始めていて、「いや、今作れって誰が言ったよ……まあ食べるけど………」と言う風に今に至ります。


 そんな経緯がありますが、私の中でミィさんの総合評価は比較的常識人です。

 確かに魔王の力と言い並外れた強さが先に目立ってしまいますが、心の持ち方や行動に移る経緯もどれをとっても人臭いです。

 少なくともセリスよりはずっと常識人ですよね。

 初めの頃のセリスは弱者の感性、人の感性を忘れてしまったのか理解できない事がありました。

 例えば去年遭難する前に訪れた村で話した事なのですが………



『あの……セリスって本当に前の世界で孤独に陥ってこちらに来たのですか?』


『そうだけどどうしたんだい?藪から棒に』


『いえ、さっきの食堂の店主と仲良さそうだったので……』


 ちょっとした温泉目的の2日滞在で一泊目だというのにとても親しげで、セリスと私二人して自慢のお肉を少し多めに売ってもらえるくらいには仲良さそうでした。


『別に仲良く無いけど?』


『へ?』


『いや、昨日メリルが忙しそうで何もなくてね。

 あまりに暇で適当に愛想良くしてたら向こうも愛想良くなっただけだよ?』


『……それを仲良くなると言うのでは?』


『損得勘定は魔法使いより商人寄りの考えだろう?』



 ……なんて事がありましたね。

 1日ではというのもあるかもしれませんが、それでも本当に心から親しげにしていた相手に対してこれって……なんて思いましたね。

 もちろん今のセリスなら理解できますよ?

 この後少しずつセリスに分かるように修正するのが大変でした。

 それに比べて大雑把だけれど仲間意識が強く、普通に暮らす分には常識が根付いている人だと思うんですよね、ミィさんって。


「ところでミィさん長居していて良いのですか?」


「ん~?……まぁセリスが寂しそうだしもう少し居てやるつもりだぞ?」


「メリルが居るから別に寂しくはないぞ?」


 ここセリスの悪い所です。

 少しつつかれると反射的につつき返してしまうんですよ。

 私に対してはしないんですけど、それでよくターニャを怒らせます。


「バァ~カ、セリスのブァ~カ。

 本心と反対の事ばっかで馬鹿じゃねーの?」


 ソファに寝転がるような体制でセリスを見上げ馬鹿と言い放つミィさんの雑すぎる故にストレートな言葉に反論の言葉が出ないのか私の方に視線が走ったので、私はミィさんに同意する意思を込めて強く頷きました。


「良いかい?このミィ姉さんは心の奥底に閉じ込もって泣いている子をほっとけるほど薄情じゃ無いんだぞ?

 それが気心知れた相手なら尚更だぞ」


「そうかい……それは………ありがとう…………………なんだい?」


「いやぁ……はは、セリスの口からその言葉が出るなんてね。

 お礼言えるようになったんだって……ねぇ?」


「礼くらい言うでしょうに失礼な」


 失礼なって、今度は私とターニャ二人してミィさんに同意するしかないので頷くしかないですよ。

 セリスが私以外に「ありがとう」なんて言う所、私の記憶が正しければ初めて見ました。


「そう怒るなよ。良い変化だって。

 どう?実際に丸くなってみて、悪い気はしないだろ?」


「まあね。………ところで私のことばかりだけどミィはどうなんだい?」


「私?いやいや~、セリスじゃないんだからさ~。

 学生生活、青春を謳歌している真っ最中でな、友達も沢山できて楽しいぞ?」


「あぁ、出席日数がどうのってそういうこと……」


「そういうこと。私は王国魔法大学に入ったんだよ」


 魔法大学と言えば数々の魔法具を生み出し年々生活を豊かにしてくれているという印象がありますね。

 それを聞いて私は少しだけ……ほんの少しだけ『良いなぁ……』と、心の中で思った事に驚いた。

 自分が思っていた以上に魔法の事を好きになっている自分がいる事に驚きを隠せません。


「元々は情報収集を目的として入ったんだよ。

 魔法大学関係者及び閲覧するに相応する身分の者でないと閲覧できない資料が読みたくて入学したんだけどさ、見つけられた情報はほぼ全て解決したし今は学生生活に力を入れてるんだ」


「この世界の魔法レベル的に学ぶことの方が少なそうだけどねぇ」


「いやいや、皆で何かを成し遂げるのは遣り甲斐あるし楽しいぞ?

 ほら、ヒューマンの移動速度って基本遅いだろ?

 だから気紛れでエアボード出したら改良と量産をする為に皆で考え合って………っと、そうだお礼言わないとな。

 セリスから貰ったエアボードのお陰で大学に貢献して教授の推薦で今年は出席日数免除扱いだ」


 しかも魔法具開発ですか。良いなぁ。

 私も最近セリスの影響で触ってみたらこれが楽しくて、まだまだセリスには届かないけれど市販で売られている一部の魔法具よりは良い物を作れる技量があると自負しています。

 だからこそ、『良いな』なんて思うのでしょう。


「貰ったじゃなくてパクったの間違いだろ?」


「細かいことは良いじゃん。まあそんな訳でありがとう。

 でも貢献したと言っても出席日数足りませんって格好悪いだろ?

 だから気にしてるんだけど今年はギリギリでねぇ……」


「あの、エアボードとは何ですか?」


「あぁ、それはね……」


 ……と言う風にとても充実した内容を聞く事ができました。

 周囲の事も忘れるくらい集中して話にのめり込み、私、セリス、ミィさんの3人で更なるエアボードの改良案を出し合いもしたのですが、それがもうとても楽しくて楽しくて………


 以前の私は魔法に強い関心が無くて、実家の魔法書を暇潰しで読んでなんとなくで覚えて簡単に使えてしまっただけ。

 でも、セリスと出会って魔法の奥深さを知って初めて魅力を知った。

 魔法はこんなにも素敵なものだって理解できた。

 魔法大学は興味あるし魅力を感じるけれど、それでも私は商売が好きだ。

 行商の旅は大変だったけれど遣り甲斐あったし、行商をしなければ見れない光景も沢山あって、何よりセリスに出会えた。


 どちらも楽しいなら、両方してしまえば良い。

 魔法商店を開こうとセリスが言い出した時は目から鱗としか言いようがありません。

 なんでそんな事に気付かなかったのだろう。

 魔法商店となれば必然客の出入りは他と比べて少ないでしょう。

 どれだけ安くとも魔法具は高級品です。

 冒険者の町であるレドランスではそう言った物の売れ行きは、他と比べてしまえば当然芳しくないでしょう。

 それでも私が作った魔法具の数々は安定して売れる自信がありますし、あえてその環境にする事で時間も作れるでしょう。

 そうすればセリスや皆ともっと…………


「あれ………もう6時?」


 時計の鳴る音が響きようやく今の時間を把握する。

 最後に時間を確認してから三時間も通してたんですね。

 というより間に二回鳴ったはずなのに聞こえていないって……


「本当だね、随分話し込んでしまったようだね」


「もうしょうがないなぁ~、今日は泊まってってあげるよ」


「帰っても良いんだよ?」


「お前ら人の家で何泊まる泊まらないって話してんだよ」


「あ、ターニャ」


「居たんだって反応だな」


「うっ……」


 ごめんなさいターニャ。その通りです。

 こんなにのめり込むの商談とかお金の計算してる時くらいだったのに、どれだけ魔法が好きになっているのでしょう。

 やっぱり私もドリーミーだったという事なのですかね?


「まあ良いけど。それより楽しかったか?」


「はい!それはとっても!

 本当はターニャのお父さん達が来たら止めようとしてたのですが……流石に遅くありませんか?」


「常識的に考えてセリスが怖いんだろ~」


「………ねえ、それ言われると私は何も言えなくなるんだけどどう言い返したら良いかなメリル?」


「完全に論破されたな」


「ま、まあその基準で行けばミィさんもですと言えば良いのでは?」


 浮かれた雰囲気だったセリスは一瞬にして不安に飲まれて私の顔を伺ってきて、それをターニャがつつき、私がフォローする。

 フォローしつつもセリスが可愛くて苦笑してしまいましたけど。


「メリルはあの戦闘を見ても余裕だな」


「驚きはしましたがセリスですよ?」


「まあなぁ、私とやる時どれだけ加減してくれてたか良くわかる。

 ついでに姉さんの様子からも私らがどれだけ常識が無くなったのかも」


「何の事かしら?私は別に普通よ?」


 震える事もなく普通の声色でしたが………確かに本当ですね。

 こんなに怯えた魔力………あれ?

 魔力が二……いや、五、八種類……?


「ソフィアさんの魔力が沢山?」


 普通の人は一種類……というより一色と表現した方が良いでしょうかね?

 こんな沢山がギュッと集まった感じにななりません。


「魔力が沢山も何も、だってティナだよね?

 なんでそんな見た目してるんだ?」


「「………………ッ!?」」


 と、軽い感じで放たれたミィさんの言葉に私とターニャは一瞬ポカンとしましたが、次には二人して変な声を出してしまいました。


「ティナ?それはいったい……」


「隠さなくたって分かるよ。

 お前から私が食べたティナと同じに匂いがするからな~。

 本当の事言わないならお前も食べちゃうぞ?

 母体さえ無事ならいくらでも食べられる便利な魂してるんだから一つくらい良いだろ?」


「…………はぁ、ミカエルに貸した若さを回収しに行った13代目が消滅したのは貴女が原因ですか。

 セリス並みの化け物がもう一体いるなんてふざけてるのかしら?」


 悪態をついたソフィアさんの声は今までの声とはまるで別人の声になっています。

 漂わせていた魔力も入れ替わり他の魔力が表へ出てきます。


「ちょと待て、ティナって皇女のネックレスにいるキメラ女の事だろ?まさかお前……」


「落ち着いて、そう言う事はできないようにしているから許可をとって同じ肉体の中に住まわせて貰っているだけだろうから」


「ええ。契約の内容は簡潔に言うと、お互いに不自由がない生活をできるようにする事。だから安心してほしいわ」


 そう言って笑顔を見せるけれど………

 ティナさんが漂わせているその魔力は蛇を前にしたカエルのような、猫を前にしたネズミのような、覚悟が固まって尚吹けば消えてしまいそうな程淡い……今まで感じた感情の魔力と似ていても全く異色で不思議な感じがしていました。


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