普通の化け物
「あの……大丈夫ですか?」
「……何の事でしょう?」
流石にティナさんが心配になり声をかけましたが本当に大丈夫なのでしょうか?
そんなに怯えることないだろうにと思うのですが……
表にはその様子を出すこと無く話を続ける。
「……で既に私のポケットマネーは国家予算レベルの金額はあるのだけれど、何をするにもまだまだ足りないわね。
いくらお金があっても家の上からセリスやそれが降ってきたら簡単に滅びるなんて虚しいと思わない?」
確かに……その気になれば一瞬で消し飛びそうですよね。
ミィさんはあの爆発に飲み込まれたのにほぼ無傷でしたけど……
「言っとくけど無傷じゃないぞ?」
ドキッ!として体が跳ねる。
まさか言い当てられるとはと振り向くと物凄くニヤニヤした顔で私を見ている。
まさかセリスだけじゃなくてミィさんも言い当てるなんて……
「あんなの10発も受ければ死ぬって」
あの爆発を10発も受けなきゃ死なないんだ……
逆にあんなのをそんなに受ける事になる状況って何事ですか?
「こっちの世界も化け物ばかりね……」
「言っとくがミィさんはこっちかもしれないがセリスはそっちだしお前も十分化け物だ」
「ターニャ中々度胸ありますね……」
心の中では冗談っぽくそう言う時もありますけど、私が口にしないと決めていた事をズバズバと………
「あら、私は残忍で可憐で半不滅な普通の化け物よ?
そんな普通の化け物がこれこそが真の化け物だって主張するような化け物と一緒にしないでくれないかしら?
この化け物の前では私も貴方達も等しく平等。
普通の化け物もちょっと強い人種も等しく頭を抑えてガタガタ震えながら嵐が過ぎ去るのを待つしかできないのよ?」
「まあ、今の私からしてみればティナってこんなに弱かったっけ?と疑問に持つくらいには力量が離れてるね」
「……こんなのが同じ大陸に居るのよ?
だからこそ金を使って可能な限り安全な場所を作る必要があるの。
その為に使う金額の前じゃ一国の国家予算なんて駄賃みたいに消えるわよ。
13代目の魂が消滅した瞬間からもう無茶はできないと確信したけどまたセリスか……」
本当に嫌そうですね。
なんか、体がターニャの姉のソフィアさんだからか、賭け事で大負けしたターニャの表情に似ている。
「ねえ、もうこれ以上お互い関わらないって事にできないかしら?
こちらから手出しら……いえ、それどころか私が貴方達を守るわ」
「姉さんの体使っていけしゃあしゃあと、裏があるんだろ」
「そうね、あるわよ。
そうしないと万が一にも厄介者がセリスをつついてこっちにまで飛び火したらたまったものじゃないもの。
セリスからしてみればその飛び火は火の粉かもしれないけど、私からしてみれば隕石の方がずっと可愛いわよ。
だからそう言う厄介者が組織単位で嫌がらせしそうならそのドリーミーの子……に限らないけど、いろいろと守ってあげるなんてどうかしら?
それと、この体の持ち主には栄光を約束しているわ。
だからターニャに関しても心配要らないしそもそも私が贅沢できないし……どう?」
あぁ……なるほど、それ少し分かります。
セリスの『ちょっと』はちょっとじゃない場合がありますもんね……
三人で旅始めた当初、食料の見積もりが甘くて何か取ってくると言い、何で熊型モンスター取ってくるんでしょう?
まあアレは好みも関係してて、セリスはクセのある臭いがするお肉が好きなんですよね、猪とか羊とか。
「確かにそれは助かるね……まあ、大人しくしてるというなら構わないよ」
「私も良いぞ~。
分かっていると思うけどミカエルは友達だから手を出すなよ?」
「ええ、私が知っている限りの貴方達の身内は手を出さないと確約するわ」
あ……どうでも良い事考えているうちに話が進んでいる。
………というより契約の話ですよねコレ?
まだ5分も経ってないのに、それに契約を重んじるセリスがこんなあやふやな契約を結ぶの???
「はぁ……人種を止めても人種の枠を越えることもできない者は大きすぎる夢を見ない方が良いと痛い程に学んだもの。
私達が数百……千年に届こうって時間積み上げ続けてきた事が18年とちょっとくらいしか生きてない化け物の前に全て崩壊したなんて……まるで悪夢よ………」
「悪女の夢だけにって?」
「ブフッ!アハハハハハハ!!!」
「え………」
セリスジョークにミィさんが爆笑し私は困惑する。
これで笑う人が居たんだ……
犬系ワービースト寄りの感性なのでしょうか?
それ以前にこんなマイナスな感情を漂わせている人を前にそんな事言える感性についていけない………
ここはちょっと分かり合えそうに無いです。
「もうこの話は良いわよ、化け物の狂人どもが……」
「ハハハ……はぁ~……セリスさんや、なんかティナさんがさっきから遠慮無いんだけど黙らせて良い?」
「うん、そうだね……」
これは……ストップ掛けましょう。
流石に可哀想ですし……何よりも今のティナさんは完全に開き直って全て話しているとしか思えません…………
「ちょ、ちょっと待ってください。
ティナさんは少し自棄になっているだけだと思います。
度が過ぎた発言かもしれませんがそれくらいしか抵抗できないという印象しか受け取れません。
せっかく好条件で進んでいるのですしここは多めに見てあげても良いのでは?」
「自棄?」
「……そうだね。自棄って感じの奴じゃないけど、現に魂の一つが自棄になって破滅の願いを使用した事もあるしね」
「あぁ~……なるほど。
まあティナ個体AとBじゃ若干異なるだろうしそうだろうね。
それじゃ協定って事でさっさと魔王との誓いを立てよう」
魔王の誓い?
あの……私がセリスに顔を向けたのは魔王の誓いについて聞きたかっただけでウインクされても困るんですが…………
「あ、その前にティナにはこれあげるよ」
「元は私の物なんだけど……」
ティナが皇女のネックレスを受けとると……
バチィッ!……と黒い電が電流走る。
そして、その手の甲に赤黒い模様が浮かんでいて、それが溶けるように消えてしまいました。
「はい、誓いを立てさせてもらったぞ。
ほいセリスも」
「ハイハイ」
パンッ。とお互いの手に触れると再びバチィッ!と、セリスにも模様が浮かんだ。
「さて……出席するの明日の昼からだから深夜にでも走れば間に合うからまだまだいれるけどさ、そもそもコレって何の集まりなんだ?」
化け物の集ま……いえ、そうでなく…………
「化け物の集ま…「ターニャァッ!!!」モガッ!」
さっきから何ですか!?
火に油どころか爆発する魔石放り込むような発言ばっかりして!
気持ちは分からなくもないですけどもう少し考えて!
ずっとギスギスしてるじゃないですか!!!
「わ、分かった、だから落ち着け、な?
そのヤバそうな羽しまってくれ」
ムッとした感じに振り向いたターニャが急にシュンとして訳分からない事を言い出した。羽って…………
「えっと…………羽?」
「いや、そっちじゃねーよ………そっちでもないしもう引っ込んだよ」
「むぅ……」
私の頭から垂れているこの羽に触れたけどこれじゃないって……これ意外に羽なんて無いのに何を?
「普通の子かと思ってたがその子もその子で大概だね。
ハーフであって純粋なドリーミーじゃ無いんだろ?」
「やっぱりアレは種族的な能力なのかい?」
「蠱惑の翼と呼ばれていて、本来は純粋なドリーミーの中でも限られた個体しか使えない能力だぞ。
確か……魔法か魔力かに深い理解力を持った個体でなければ発現しない能力だったと記憶してたけどハーフでも発現したということは条件が違うのかもね」
「あの、何の事を言ってるの分かりませんし蠱惑の翼って?」
「メリルは知らないのかい?」
「はい……」
これは本当に嘘偽り無く知らないです。
え?何?ターニャが「もう引っ込んだよ」と言っていましたが、もしかして肩とか背中辺りから生えたのでしょうか?
何でしょう……少し怖い。
「ちなみに蠱惑の翼は魔石や魂の格をすり抜け直接魂に干渉する事ができて、例え魔王であろうと防御不能だ。
ただ、名前の通り幻惑を見せて感情を溶け込ませる程度の力しか無いのと、それなりに近づいてないと効力が発揮されなかったりと難点が多い訳だが……まぁ今のセリス相手にはピッタシの力かもしれないなぁ。
使用中は蠱惑の翼を通して感情すらも共有できるんだぞ?」
「あぁ、あれは心地良かった」
「もう体験済みかよ……」
「2つの魂が1つになってしまうギリギリまで混じり合う事ができてさ、ドリーミーの最終奥義が魂の寄生って話は私が魔王になる前の頃なら有名だったしね」
感情すらも………?心地よかった………?セリスと混じり合う………?
「え……あの……なんかそれ…………エッチ………くない……ですか……?」
「「「………………」」」
三人とも無言で!私を置き去りに意志疎通しないでください!
三人が三人とも微笑ましいようなそんな感じの感情してそれが恥ずかしすぎます!
「あの……言いたいことがあるなら言ってください」
「ん……コホン、じゃあうん、それは取り方次第じゃないか?
まあ私はエロイと思うが」
「いやいや~確かにそういう取り方もできるけどセリスには必要だろ~?
だってコイツ、魂の輝きに対して形はボロボロのガタガタだったんだぞ?
それを無理に復旧していびつな形になっていたからな?
多少度が過ぎてもこれくらいのカウンセリングは必要だと思うし、現に綺麗な形に戻りつつある」
「ん?そうなのかい?」
「自分のは分かんないからなぁ~」
なるほど……セリスには私が必要だと何度か思った事がありますが、実際に言われると嬉しいですね。
「………で、結局何の集まりなんだ?」
「何って……何だろうね?」
ミィさんの疑問に皆何でここに来たか一瞬考えますが、肝心なターニャが分からないと即答ですか。
言われて気付きましたが、私達が呼ばれた理由の婚約云々はブラフだという憶測だけで何も分かってませんね。
ただ一つ、言えることと言えば。
「殴り込みでは?」
「メリル、話し合いであって殴り込みとは違うんだよ?」
「え?でも殴りましたよね?」
「争いっていうのは同じレベルでないと起こらない。
相手が格下だと決め付けて奴隷のように扱おうと唾吐いて鞭打とうとしてきたから殴ってやった。今回のはただそれだけだよ」
「なるほど……」
つまり初めから話し合いする気は0だった……
いや、でもそれはたぶんターニャのお兄さんだけの話であって………
あ~……いや、この考えはいけませんね。
ここまで行くと平和に生き過ぎた甘い考えです。
相手が剣を握り自分の命を取ろうとしているのにこちらは話し合いだけで納めようだなんて、初めから話し合いで解決するなら相手は剣を抜いていませんよ。
「それで、ティナに呼ばれたんだけど何か用なのかい?」
「私ではなくソフィアが用あるのよ。
ちょっと待って、今変わるわ…………」
ティナさんが目をつぶりぶつぶつと何かを呟く。
すると奥の方にあった魔力と言うべきでしょうか?とにかく表に出ている魔力が入れ替わる……というより最初に感じた風に戻りました。
つまり最初はソフィアさんで、今みたいにティナさんに変わって話していたと言うことですか。
これ、ドリーミーのように魔力感知高くないと分からないんじゃないでしょうか?
「………ふぅ、全く。
ターニャがここまで心を開いている方々なのですからティナもそんなに警戒しなければ良いでしょうに」
「……久しぶりって言うべきなのか?」
「あら?最初に挨拶したじゃない」
「分かんねーよ」
「ふふ、そうかもね。ところで……」
ドサドサ………と、収納魔法から出てきた本が机に積み上がる。
「はい、これが貴女の婚約者候補だけど誰が良いかしら?」
ソフィアさんは満面の笑みでそう告げ、ターニャは固まってしまいました。




