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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
四章、悲しい過去
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説得


 6月29日


 私達は昨日決めた通り朝早くレドランスを出ました。


 ターニャ実家が抱えている騎士も同行していて正直気まずいです。


 そのすぐ横でセリスとターニャが馬鹿みたいに騒いでるのがちょっと信じられません。

 図太すぎます、流石冒険者。


「だから今のイカサマだろ!?

 何で2回も連続でストレートフラッシュが出るんだよ!?」


「フフフフ、だからバレなきゃイカサマじゃ無いんだって。

 何されたか分からないようじゃまだまだだね。

 ほら、早く虫除けしておくれ」


「くっそ……」


 普段は交代交代でやっているのですが、距離が短いという理由で勝負で負けた方が魔法を使うというルールでやっています。


 こう言う勝負事は旅路でも頻繁に行うのですが、私が知る限りではセリスの無敗です。

 それでもターニャは挑むんですから本当に良くやりますよねぇ……


「ほ~らほ~ら、ターニャお嬢様の為に激マズ魔力ポーション用意して上げたんだからファイト」


「お嬢様って言うな魔神様よぉ」


「ハハハハハ、誉めてももっと不味い魔力ポーションしか出さないよ?」


 とまあ、そんな感じで進んでいき、何か語るべきような事態も無くあっという間に夜になりました。

 強いて言うなら途中、屑魔石の使い方を教えてもらい、さっそく応用してインクを必要としないペンを作ろうとして失敗したくらいですね。

 なぞると焦げ跡を残す仕組みにしたつもりなのですが、試してみると紙を燃やしてしまったので失敗です。

 もっと改良をしなくては。


「よし雑魚弟子よ、夜になったし模擬戦をしようじゃないか」


 夕飯を済ませ、完全な夜を迎えて頃にセリスが急にそんな事を言い出した。


「雑魚って言ってくれるねぇ……」


「ん~?自覚無かったのかい?」


 ……これ、流石に止めた方が良いですかね。


 そう思い立ち上がろうとしたらセリスに止まるよう手で制止されたました。

 つまり何か目的があって怒らせようとしてる訳ですかね?

 ここはセリスを信じて黙っておきましょう。


「クソ……それで、なんで夜にやるんだよ?」


「私は昨日ターニャを弟子と認めたからね。

 だから望む限りはちゃんと鍛えようと考えての夜だよ」


「へぇ~……ん?ちょっとまて、それじゃ今までのは何だったんだよ?」


「………暇潰し相手?」


「…………は?」


 ターニャが睨み付き魔力が渦巻く。

 ピリピリとした雰囲気が辺りに流れて騎士の中には剣に手を掛ける程に緊張している人もいますね。


 しかし肝心のセリスは猫のような笑みをしてて涼しげです。


 そう言う私も慣れで全然平気なんですけどね。


「冗談冗談、それよりも自分の視力だけに頼っているようじゃ三流にも届かない。

 己の経験から導き出される直感、閃きに身を委ねる事ができるようになるため視界の悪い夜な訳だけど何か質問はある?」


「いや……無いな」


「よ~し、それじゃ向こうでやろう」


 セリスとターニャはキャンプから離れ闇の中を進んで行く。


 いつも通りセリスが親指で銅貨を弾き地面に落ちたのが合図。

 ターニャは剣を抜き光の翼を伸ばし攻撃を仕掛けつつ接近した。


 姿勢を低くして接近していたターニャは突然跳躍しセリスを飛び越えると八方向から矢が飛んでくる。


 それを技による衝撃波で弾くと何かが突進してきて無理な体制で回避させられている。


「あれは……ミィさん人形?」


「さっすがメリル!正解だよ!

 さてターニャ、この夜闇の中でドールズファンタジアを相手にするには目だけを頼ってたらすぐにやられるよ?」


 パンッ。と手を合わせて音を鳴らすと複数の武器が出現し、草叢から姿を現した人形がそれを装備する。


「言っとくけどこの子達は大会で見せた腕の立つ護衛メイドなんかとは比べ物にならない強さだよ!」


 そこからの戦いは凄まじかった。


 魔王人形が手を上げると足元から赤黒く鋭い爪を持つ手が伸び、それで退路を断ったところで弓から放たれたのは魔力を集中させた極太で流れ星のような魔力弾。


 地面に叩き付けられたターニャに追撃で放ったミィさん人形の踵落としで地面に大きなクレーターが出来上がり回避はできたものの石の礫が命中して……


「誰を探しているんだい?」

「なっ!?」


 ゴッ!と凄い音がしターニャの体が地面に叩きつけられてバウンスし守りの魔法が消滅する。


 私も声を聞くまでセリスの姿を見失ってたんですけどなにしたのでしょう?

 それと、私が認識速度で処理できる範囲がコレであって、羽が感知している処理しきれなかった物を入れると益々何してるか分かりませんね。


 終わりましたけど大会の時よりも長く試合してましたね。


「二人ともお疲れさまです。

 お湯用意しましたけど浴びますか?」


 ここ最近私の魔力操作技術もとても上がっていてお湯を用意するくらい朝飯前です。


 二人は私にお礼を言って軽く体を洗い夕飯を済ませて皆で寝まてしまいました。

 これもセリスのお陰なんですが、魔法を使用する事で見張りが必要ない。なんて楽な旅なのでしょうね本当に。



 ・



 6月30日


 朝早く二人が模擬戦を行って、準備が済んでから移動になります。


 4時間程掛けてアルガイルの町へたどり着きました。

 町から数十分でターニャの実家が目に入ります。


「アルガイル領騎士団!ターニャ・ルキンシス様を無事お連れしました!」


 ザリュースさんが門へそう叫ぶと少しして開いていきます。


「良く戻ったザリュース!

 ターニャ、お前が元気そうで良かった」


 門を潜り、ただの馬車道としか思えない道を進んで二つ目の門を潜れば沢山の装飾がされた服を着た男性が迎えてくる。

 あの人がターニャのお父さんかな?同じ金髪だし。


「お久しぶりです」


 私は思わず振り向きそうになったのをセリスに止められる。


 今のは私が悪いかもしれませんけどターニャが敬語って……えぇ……?

 しかも今の一言だけで気品を感じさせ尚且つ一言一言がとても聞き取りやすい。


「それで、私はいったい誰とどのようにさせられるのでしょうか?」


「そこまでザリュースから聞いたのか?

 まあ良い、1度中に入ってから話すとしよう」


「いいえ、ここで用件を済ませてしまいましょう。

 別にその人と合う事は構いませんけど婚約を前提とはしません」


「は?勝手に飛び出した家出娘が何……」


 ターニャのお父さんの後ろにいた男の人、たぶん兄か弟でしょう。

 その人がターニャの肩を掴もうとしました。

 しかし、その手が肩に触れる前にターニャがわしづかみにしギリギリと音を立てる。


「なんの真似……ッ!」


 ターニャの握力は凄いですからねぇ。

 セリスに教えてもらいましたがターニャは最適化のピークを迎えた覚醒者で握力は人の形をした存在で比較するならオーガ並みだって聞かされました。


 しかしターニャ……家族みたいですけどその人の事毛嫌いしすぎじゃありません?すっごい不機嫌な魔力になってきているんですけど。


「まだそんなに力入れてないけどそんなに痛いですか?兄さん?」


 徐々に力を入れているのかミシミシと音が強まっていく。

 ターニャから簡単に家族との関係を教わっていまして、「相手が高圧的な行動に出て話も聞く気が無いなら黙らせる」……とは予め聞かされていましたがあまりにも痛そうで私は小さく悲鳴を漏らしそうになります。

 その私の前にセリスが入り込み見えないようにしてくれます。


「ターニャ!何をしている放せ!」


「おいおいお父さんや、そこはターニャに感謝するところだろう?」


 そこで魔法使いの格好へと瞬時に変わったセリスがマントを翻し舞台上の役者のように登場する。


 今まで私とセリスは騎士達と同じ格好をして紛れていました。

 これがセリスの提案した相手の腹の内を見る策だったのですが……こんなに早く登場する予定では無かった筈では?

 ターニャの様子が少しおかしいですし、もしかしたらターニャの為でしょうか?


 セリスの姿が変わったのを見て私は自分の服を見下ろす。

 事前に決めていた通り私の服も商談の時に使う魔法加工された高級な服になっているのに気が付き急いでセリスの後ろに付く。


「……これで良いんだろセリス?」


「甘いね、自分でやると言ったなら責任もって炎獄烈風波でもぶつけな」


「それ死んじまうだろ!?」


 ………あれ?何の話し?


「セリスセリス……私聞いてないです」


 セリスの服を摘まんで小声でそう言ったらセリスは自分の背中に手を回し指を1つ立てる。

 その指から魔力が出て形を作り文字になる。『言ってないからね』と……

 ちょっとセリス?


「弟子の尻拭いは師の勤めさ。

 ターニャが使うへなちょこな技なら後出しでも間に合うって」


「ハハハハハ、絶対いつか1勝するからな…………」


 ターニャは力を緩めると男の人は息を乱れを直しながら手を振りほどこうとしますができず、ターニャを睨み付ける。


「放せ!おい!お前なんかが……」


 大声でターニャに怒鳴り散らすとターニャは言われた通り手を放しますが、放すと言うよりも片手で真上に投げたと言うべき………え?何してるの?


「ちょっと……ターニャ………?」


「じゃ、お言葉に甘えよう」


 そして落ちてきた所で背中に炎獄烈風波を当てた。


 ターニャのお兄さんは吹き飛び屋敷の壁を突き破り止まる。


「うわ……ホントにやったよ……」

「ハアッ!?」「えっ!?」


 私とターニャの声が重なった。

 いや、だって、え?ちょっとまって?


「………プッ!ハハハハハ冗談冗談!

 いひっ、ちょっとわき腹痛……クフフフフ」


「お前!おまっ!!ふざけんなよ!!!

 ここでその冗談はあり得ない!!!」


「全然笑えませんよ!!!」


 笑いを堪えすぎてわき腹が痛くなったのか涙を浮かべるセリスを二人掛かりで怒鳴り散らしますが、セリスのどこまでも楽しそうで全く効果がありません。

 私の羽がさっき吹き飛ばされたお兄さんは大丈夫だと教えてくれますが、それとこれとは話が全然違う!

 真面目な雰囲気に戻ってから後で絶対に叱りますかね!


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