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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
四章、悲しい過去
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騎士


「お嬢様、流石に冗談が過ぎるのでは?」


 ザリュース団長が向けられた剣を軽く退けながらそう言った。

 その様子からは呆れを感じるばかりで動揺は感じられません。

 同時に負ける気なんて少しも無い様子ですね。


 もしかして決勝戦の様子を知らないのでしょうか?

 それとも見た上で勝算がある?


「何が?無理矢理って言うなら私も押し通るしかないだろ?」


「……お嬢様。失礼ながら言わせて貰いますが、ほんの少し珍しい魔法武器を持っているだけで勝てると本気で思っておられるのですか?」


 ほんの少しですか……剣を持っただけで羽が出現し飛行が可能になり防御にも使えて全ての技に追加効果として光属性を付与してしまう国宝にも負けず劣らずの聖剣がほんの少しですか………

 ほらやだ、セリスが物凄くニヤニヤしているじゃないですか、嫌な予感しかしませんよ。


「あぁ、なるほどね。

 それなら心配要らないよ。これを使った方が楽なのは確かだが見映えを気にしただけだからね。あんたら相手じゃ大天使の剣を使うに価しないだろうからさ」


「その言い回しは私の真似かい?」


「うっさい、私のは師匠の受け売りだと受け止めとけ」


 セリスは少し驚いた表情をし、「ふ~ん」と素っ気ない態度でありながら魔力からは嬉しいという気配が駄々漏れになっています。


「それじゃ師として私から1つ……悪の心得その11ぃ!」


「…………」


「……何黙ってんの?

 ほらターニャも、悪の心得その11ぃ!!」


「え、悪の心得その11ぃ!」

「悪の心得その11ぃ!」


「「……………」」


 二人とも無言でこっち見ないでよ!ただ少し便乗してみただけじゃないですか!や、やだ!そんな優しげな手付きで撫でないで!


「振られてんの」


「振ってません」


 確かに恥ずかしくて手を退けましたけど……もう良いです。

 好きなだけ撫でられてあげますよもう…………


「悪の心得その11、話を聞く気の無い相手を殴って黙らせるのは悪い手じゃない」


 満足したのかキリッとした表情でそう言った。

 ぐぬぬ……後で覚えていてくださいよ………


「え……は?」


「ノリが悪いなぁ……」


 トン、と軽い動作で跳躍し、私と机を軽く飛び越えたセリスがザリュース団長とターニャの間に入ると両手を上げクロスさせるように振り下ろした。


「ファイッ!!!」


「さっきから貴女方は何で「炎獄烈風派ッ!!!」」


 ザリュース団長がセリスを見た瞬間ターニャは姿勢を低くし、放たれた矢のようにザリュース団長の横に居た騎士の一人へ攻撃を仕掛けた。


 攻撃により回転しながら吹っ飛び床に叩きつけられ、パリン……と守りの魔法が無くなる時の音が騎士からしました。


「おやおや、ターニャより格下の癖に試合中余所見なんて随分余裕だね」


「な……なっ!?」


「あれぇ?思ったより吹っ飛ばなかったな……

 う~ん……もっとこうかな?」


「初めてにしては上出来だよ、40点」


「お、高得点じゃん!」


「余裕で不合格だよ」


「チッ、分かってるよ。

 ほら、次は攻撃譲ってやるから全力で来な!」


 指をチョイチョイと動かし挑発するのに対しザリュース団長は一歩引く。

 今の威力に驚いているようですね。

 セリスが教えてくれる技ってどれも強力ですからそれも仕方ないですが……貴方さっきの余裕は決勝戦見た上での余裕じゃなかったんですね……

 慢心していると思いがけないところで転ばされるという経験が初めてなのでしょうかね?


「本当に……宜しいのですね?」


「何を今更、これが本当に実戦なら今のでソイツは死んでるぞ?

 騎士でも無責任な上司を持つと大変だなぁ~」


「本当に知りませんよ!抜剣っ!!!

 どういう訳か分からんが守りの魔法は既に付与されている!かかれ!」


「それで良いんだよ!」


 この瞬間戦いは激化します。

 騎士は最低でも常に二人同時に攻撃を仕掛ける。

 しかし髪を掠る程度で当たりません。

 ターニャも意図的にスレスレで避け、蹴りや掴み等のカウンターを的確に当てていてどちらが優勢か素人な私でも一目で分かります。


「ほらほら騎士様方頑張れー!!!

 騎士様方に掛けてるんだからさ~」


「良いぞターニャ!!!」


 不利を感じて弱腰になりつつある騎士様達とは対照的に私の後ろや横に要る外野は物凄い盛り上がりようです。

 まだ武道大会の熱が覚めきっていないのかと思うほどに。


「……頑張れターニャ!」


 とかいう私もそんな熱に当てられて応援する。


「おう!絶対勝つ……と言うか負ける方が難しいからなぁ~」


 私の応援にターニャは手を振って答えてくれるだけの余裕まであり、それを隙だと思ったのか、一人の騎士が無理矢理突っ込み突きを出すとターニャは見もしないで回避し、突きは別の騎士に当たってしまいました。


 当ててしまった事に動揺した瞬間をターニャに顎を蹴りあげられパリン、と音を響かせる。


「はいはい、後はザリュース様だけだね。

 それにしてもどういう訓練したらこんなに弱い騎士ができるんだ?」


「……確かに、部下は弱いかも知れないが私はそうは行かんぞ!

 ソニックエッジッ!!!」


 一瞬で距離を積めて剣を振るい、ターニャは剣で防ぐも弾き飛ばされ……


「あっ……」


「素晴らしい、お手本のような流れだ。

 100点満点あげよう」


 ターニャは剣が弾かれると同時にザリュースさんの腕に手を添えて顔面に頭突き、流れるように膝撃ちを喰らわせ、倒れたザリュースさんに馬乗りになり両腕を足で押さえてナイフを首に当てた。


「その弱い騎士にアンタも漏れなかったみたいだね、ザリュース様?」


「ば……馬鹿な……」


「はい勝者ターニャ!」


「ッシャア!!!」


 セリスの宣言にターニャは立ち上がりガッツポーズをすると歓声が響く。


「ターニャの動きが良かったのもあるけどもうちょっと根性見せてほしかったねえ……

 あ、今配るからちょっとまって」


 そう言いセリスは人形を出現させて賭けの結果をせっせと運ばせる。


「……かわいい」


「でしょ?この子達は下から2番目の大きさで可愛いんだよ」


 セリスの周囲には30センチ程の人形が複数浮かんでいて、その人形達は空を飛び持っている袋を冒険者へと配っていきます。


「ちなみにこれがメリルちゃん人形ね」


 机の上に着地してペコリと優雅にカーテシーをする私そっくりな人形。


「いつ作ったんですかそれ……」


「天空城でメリルが寝込んでた時にね」


 あぁ、なるほど。

 それにしても良くできている……って現実逃避もいい加減にして騎士様達をどうにかしないと、気絶してる人もいますし……


「私の人形はあんのか?」


「これがターニャちゃん人形だよ」


 えっ、ターニャの人形?それは興味ある。


「おお~……うん、可愛いな!」


「こうして見るとターニャって武器で凄いゴテゴテしてましたね」


「マジックボックスが無かったら今頃もっとヤバイんだけどなぁ。

 お、あれはミィちゃん人形だろ!」


 真横をふよふよ移動していた人形の一体を……

 ちょっと……そんなわしづかみって。


「残念それは魔王人形だよ。こっちがミィちゃん人形」


「ほとんど変わんねーじゃん!」


 ミィちゃん人形と魔王人形の違いはドス黒い赤混じりの鎧を身に纏っているかいないかの違いしかありませんしね……って、そうじゃなくて、


「ところで……この状況どうします?」


 配り終えた所で店内を見渡せばターニャにコテンパンにされた騎士様達は様々な要因で動けていません。


「そうだね~……ターニャの実家は何処にあるんだい?」


「私の実家はアルガイルだよ」


「思った以上に近いですね。ここから2日も掛かりませんよ」


 アルガイルはレドランスから1日と少しで付く距離です。

 それを聞いたセリスがクックックックと笑い出す。

 絶対にろくなこと考えてませんね。


「絶対にろくなこと考えてませんね」


「フフ、そんなこと無いよ?

 私はただ手っ取り早く確実に解決しようと思い至ってね、フフフ、このセリス・アルバーンに良い考えがあるぞ!

 ハーッハッハッハッハッハ!!!」


 もの凄く嫌な予感しかしません。


「さ……さっきのは間違いだ!もう一度戦え!」


 セリスが高笑いする中、ようやくいろいろと復帰したザリュース団長がターニャに指を指し大声でそう言う。

 お嬢様とか呼んでたのに、叩きのめされて本音が出てしまっていますね。

 格好悪いと言いたいですが、騎士様で出世するには血筋が重要とかなんとか前に聞いたことありまして、それが事実なら生まれた順番で家を継げず騎士になったプライドだけ高いお貴族様ならこういう行動もあり得るのでしょうか?


 というか……私の予感が当たったみたいですね。

 この人が怒っているのは自分がコケにされたからですよ。

 確かに、自分自身の意思を持ち続ける事は大切で絶対に譲れない物があるのも普通で、その為に仕事をする訳で………

 ザリュースさんは騎士団長まで任される程責任の重い地位にまで上り詰めている。

 だというのに上司がこれ………先程も思いましたが絵に描いたようなお貴族様ですね。

 上に取り繕うのは得意でも、それ意外に対しては自分が優先されるのでしょう。


 セリスや私も自分の都合を優先する事があるかもしれないけれど、仕事をしてる時まで全て自分中心で考える訳ありません。

 私なら例え平民の子供相手でも普通の客と同じ振る舞いをします。

 セリスならどんな舞台でも、どんな相手でも華やかに優雅に魔法を使って魅せるでしょう。

 提供する相手の事を考えながら。それがプロだから。


「おっと、ターニャ先輩と戦う前にこのHランク冒険者である私と戦ってもらおうか!

 Hランク冒険者に負けるようじゃDランク冒険者に勝つなんて天の上の雲を掴むような話だぞフハハハハハハハハ!!!」


「ふざけるな!邪魔するなら貴様から切り捨ててやる!」


 ほら、やっぱりセリスは他人を楽しませるのが好きだ。

 たぶん今回の出来事で嫌な思いをした冒険者もいるだろうから賭けを開いて、新たに余興を作れるようなら自ら動く。

 ザリュースさんが……いえ、ザリュースが剣を持ちセリスに近付いていくのを見て周囲の冒険者は笑いを堪えるのに必死なようです。

 当然です、騎士達を簡単に倒したターニャをセリスは毎日赤子のように負かしているのですから。


 ……よし!私も悪乗りしましょう!


「セリスの意地悪!」


「鬼!悪魔!セリス!」


「失礼な、私はどこにでもいる魔法使いで悪党だよ。

 弱った獲物はとことん叩きのめす。

 それでこそ悪党冥利に尽きるんじゃないのかい?」


 それからザリュースさん達は本当に可哀想でした。

 セリスはターニャと違って頑張れば届きそうな実力を演じつつ玩具のように派手なパフォーマンスで騎士をいたぶり続け……


「うわあああああ!!!」


「ヒールゥッ!!!」


 ヒールと言う名の今日一番の威力の右ストレートが決まる。


 心が折れて敵前逃亡しようとした騎士に目にも止まらぬ早さで接近し、ドグォンッ!!!と音がなる程の勢いで右ストレートをぶちかまされる。

 3回ほどバウンスして壁に激突した騎士はヒールの効果で傷が癒えて外傷は見当たらない凄い。


「ほらほらほらほらどうしたの?

 Hランク冒険者に背を向けるなんて流石騎士様ご立派ですね、私にはとても真似できませ~ん」


「貴様!Hランク冒険者なんて嘘だろ!?

 ランクを偽るのは立派な犯罪だ!!!」


「これで満足かい?ん~」


 サッと取り出したライセンスにはデカデカとHの表示がされてます。

 しかも罪状の所に『雪掻きをサボった』とだけ書かれたHランク冒険者ライセンスの持ち主は王国、帝国含めてもたぶん歴史上セリスが初めてだと思います。

 本当に雪掻きをサボったとしか書かれてないです。


「で、Hランクの私にここまで無様な醜態を去らしている騎士様方は何のご用でDランクのターニャ先輩に合いに来たか、そろそろ丁寧に分かりやすく教えてくれないかな~?」


「知ってたけど完全に尋問だな」


「素手で殴っているだけだし喧嘩の範囲だろう?

 尋問であるのも認めるけど、普通その気があるなら拷問という手段を使うからまだまだ優しいよ、ね?ザリュースくん?」


 あれ?セリスの雰囲気が……変化したのかな?

 …………うん、確実に変わっています。

 眼の色が変化している。

 実際の色は変わっていないけど、眼の部分の魔力的な色が変化しています。旅の道中ちょろっと話してくれた魔法使いの固有能力である魔眼ですかね?


「さて、そろそろ飽きてきたし理由を聞くのは最後にするよ。

 ザリュース、種族魔法使いとして問おう。

 貴様は何が目的でここへ来たか洗いざらい吐け。

 これが最後のチャンスであり慈悲である」


 セリスとしてでなく魔法使いとしてですか……これは断ってはいけません。

 魔法使いにとって契約は絶対であり契約を甘んじる者は魔法使いではないとまでセリスが断言していた。

 契約をする過程を省き契約を成立させる手段は複数存在し、魔眼は正にそれです。

 そしてセリスは魔法使いとしてプライドに賭けて慈悲を与えると言ったということはそれは……


「断る……」


 はぁ……セリスが楽しそうで何よりです。

 セリスの意地悪。


「そっかそっか、それじゃメリル、ターニャ。

 明日にでもアルガイルに向かおうか」


 セリスが満面の笑みでそう言う。

 正にザリュースのその言葉を待っていましたと言わんばかりに。

 その後のセリスがこれからすると説明してくれた内容は法律に触れないギリギリを過ぎ去るくらい非人道的と思うような内容でした。

 ですがターニャもノリノリな様子でする事が決まってしまいました。

 ターニャには沢山借りがありますからね……もう好きにしてください……


ザリュース団長→ザリュースさん→ザリュース。

メリルの中でザリュースの評価が下がっていっている様子。

今後さん付けだったり色々。

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