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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
三章、闘技大会
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閑話、魔王と少しの恋ばなと炎上


 5月5日


 王国に存在する魔法大学。

 殆どの雪は溶けきっているが、雪掻きで集めて押し固めてしまった雪はまだ微妙に溶けきっていない今日この頃。

 女子寮の住み慣れてきて、同居人であるアーちゃんお得意の炒め物が目の前に運ばれ「いただきます」と二人揃って食事を取る。

 そんな中で……


「ねえミィちゃん、やっぱりミカエルさん居なくて寂しい?」


 何の脈略も無く急にそう切り出してきた。

 ミカエルが帝国の闘技大会へ出場すると出て行ってしまってから戦う相手が居なくなり不完全燃焼なのは確かだけど、そんなに表情に出てたかな?


 何かを競い会うという行為は私の一族にとってコミュニケーションと何ら変わらず、日常生活で行う挨拶と同じな認識な訳だから話し相手が減ったのと何も変わらない。

 口数少ないけどミカエルはよく私と遊んでくれる。

 寂しくない訳がないでしょ?


「そりゃ~寂しいよ。あんなしっぽブンブン振ってすり寄ってくる可愛いワンコがいきなり数週間居なくなるんだよ?」


「ワンコって……随分大きな犬だね」


「でしょ~。体格差考えてじゃれてもらいたいよ。

 それでさ、キラキラした瞳でさ、剣を杖みたいにしてハッハッて息継ぎしてる姿がワンコっぽくない?」


「あれはどう見ても戦場帰りの戦士のようなんだけど……

 キラキラっていうかギラギラ?」


「そう?可愛いと思うんだけどな~」


 というかアーちゃん戦場なんて見たことないんじゃないの?

 そんな歳行ってないでしょうに。

 かくいう私も500年以上前の戦場しか見たこと無いからミカエルが暴れていたっていう戦場がどれほど進歩した技術を使われていたかなんて分からないけどさ。


「それじゃ聞こうかずっと悩んでいたけど聞いても良い?」


「何を聞きたいか分からないが良いぞ~」


「ミカエルさんとどこまで付き合ってるの?」


「………はぁ?」


 私とミカエルが?

 付き合うって恋人とかそう言った意味合いで間違いないとして私とミカエルがねぇ………


「いや……付き合っては無いんだが………」


 付き合ってはいないな。

 だが……ん~…………


「嫌では無いぞ」


「嫌じゃないんだ!」


「アーちゃん楽しそうだねぇ……」


 アーちゃんも年頃の女の子だし盛ってるのかな?

 私は革命に命張ってたか除外するとして、セリスがアーちゃんくらいの時にそんな様子は………ごめんセリス、セリスもそんな余裕無かっただけだったね。


「そうだね……嫌では無いぞ、本当に。

 でも今が楽しすぎるからなぁ。

 仮に付き合うとしたら多少関係が変わるだろうけど、この生活に変化は無いでしょ?

 大学を出る事になるまではこの環境を維持しておきたいんだ。

 それくらい今の環境が居心地が良くってさぁ~」


「あ~……ミィちゃんかなり学生生活謳歌しているもんね」


「まあな~。あ、このオムレツ美味しい」


「でしょ?疲れるからここまでのは普段作らないんだけどキャベツがいい感じだよね」


「うん。というかアーちゃんが作る炒め物でハズレ無いよね。

 大学出たら飲食店でも出してみたら?」


「いやいやまだ早すぎるって、今年入ったばかりでしょ」


 そうかな~?私からしてみたら4年なんてあっという間なんだけど?

 まあ、今は退屈で楽しい時間が一杯だから言うほど早く感じてないけど。今の私は幸せすぎて変になりそう。

 セリスも……幸せだと感じられているかな?


「そういえばだけどさ」


「何?」


「ミカエルと付き合う云々の前にアーちゃん私を家……というか寮で一緒に住まないかって誘ってくれたじゃん」


「うん?……まぁ、そうだね?それが?」


「私の一族って同性でも結婚ができてね、複数人なら無効なんだけど、実は誰か一人を泊めようと誘うってなったらそれは求婚してきたのと同じなんだぞ」


「……え?」


 あら可愛い。

 カァ~って頬赤らめて若いなぁ。

 うん、オムレツ美味しい。

 トロリとしていてシャキシャキとした食感を殺していなくて更にピリッとくる辛さで次から次へと口に進む。

 ちなみに私は楽しみは最後までとっておく派だからオムレツが最後だよ。


「えっと……そんなつもりじゃ………」


「ミカエルも可愛いけどアーちゃんも可愛いなぁ」


「み、ミィちゃんも可愛いよ?ちっちゃくってふわふわで」


「お、目の付け所が良い。私の尻尾は最高級だからな。

 この自慢の尻尾と同じ毛並みのものを探すとなったら例えこの大陸を端から端まで探しても見つけるのは至難だぞ」


「うん、凄い凄い。ごちそうさまでした」


 む、なら私も残りは豪快に一口で。

 美味しい。


「ごちそうさまでした。洗い物やるね」


 料理作ってもらう変わりに洗い物は私の役目だからな。しっかりやるぞ。


「よろしく。それで今日午前中はお互い暇だけどどうする?

 どっか二人で出かける?」


 そう言えば昨日そんな話してなあなあになって決まらなかったなぁ~。

 どうするべきか………そうだ。


「今からでも走って行けば闘技大会見れそうな気がするけど、どう?」


「え?ここから会場まで10日は掛かる……えっと、もしかして帝国と王国間違えてない?」


 ん?10日ってそんな訳が………


「あ、そっか。普通のヒューマンは足は遅かったんだったね。

 私の足なら午後までには付くだろうし……って、そもそもアーちゃんが午後あるからダメじゃん。何か無いかなぁ~」


 まあ私としてはこの退屈な時間も楽しいから、このまま過ごすのも良いと思うんだけど。

 私が今何を楽しんでいるかと言われればこの退屈そのもので、あの地獄を知った後では今の悩みがどれだけ贅沢なものか染々してくるぞ?


「いやいや、ミィちゃんが足速いの知ってるけどそれは流石に……」


「信じるも信じないも自由だが嘘じゃないぞ?」


「またまた~」


「むぅ……ま、良いけど」


 しかしだとしたら覚醒の訪れてないヒューマンって本当に不便だなぁ。

 覚醒してれば3日は無理でも5日くらいあればレドランスまで着きそうな気がするんだけど…………あ、ならアレ使えるかも。


「そうだ、アーちゃんえっと……ちょっと待って、今名前先端まで出てる……………思い出したエアボードだ!

 アーちゃんエアボード使ってみない?」


「エアボード?」


「そうそう、遠い異国で無法な危ない奴らが作った魔法具でさ、見た目は空飛ぶ板でさ、それに乗ってスイーって移動できて使いこなせれば便利だぞ。

 無改造の全速力でも馬の全速力より速いし、最高にクール?なスピードキングに改造されたエアボードは私の全速力を超えてくれたし」


「何か色々言いたいことあるけどミィちゃんの全速力よりって馬より速いんだ、流石狼のワービースト」


「あれ?私が馬より速いのは信じるの?」


「うん、実家の近所に住んでる鳥形ワービーストのディアナちゃんって子はお城より高い場所まで飛んじゃうしね」


「なるほど、だから馬より速いくらいなら信じられると……よし、洗い終わったぞ!

 さっそく外……って、その前にアーちゃんズボンに履き替えないと。パンツ見えちゃう」


「パンツ……そうなんだ?よく分からないけど着替えてくるわね」


「このプロテクターも付けて」


 という感じにアーちゃんに着替えてもらって寮を出たところでエアボードを取り出す。


「それじゃエアボードがどういうものか実際に知ってもらう為にも私と一緒に乗ってもらうぞ」


「……このちっちゃな板に?」


 ちっちゃな……私の身長より少し大きいくらいはあるんだけど……


「まあエアボードには1人乗り用しか無いからな」


 セリスから別れた時に手持ちの道具半分くらい勝手に持ってきちゃったけど何も言ってこないって事は好きにしろって事だろうしこのエアボードも私のだよ!


「だ、大丈夫なの?」


「大丈夫大丈夫、私の種族程バランス感覚に優れたワービーストなんて猫系くらいなものだから、転倒とかするわけないって」


 黒いカラーリングに赤いラインの入ったアクセルとブレーキで後は重心を変えればそちらへ曲がる。


「とりあえず闘技学会の方に行こうか。

 あそこなら広いし練習できる。ほら乗って。」


「わっ!」


 空気中の魔力を手で押し上げるようにしてアーちゃんの体を浮かべ、握った手を引き寄せて転ばないよう抱き締める。


「………今なにしたの?」


「ふふ~ん内緒~。

 それより転ぶ事はありえないけど落ちないよう捕まって……」


「……どうしたの?」


「ううん、なんでもない」


 ……なんか、背後からアーちゃんに抱き付かれている訳だけど身長差のせいで覆い被されてる感じになってる。

 はたから見たら……いや、まあ気にしない気にしない。


「行っくぞ~」


 アクセルを踏みゆっくりと加速していく。


「わ……はや………」


「そろそろトップスピードかな。まあこれ無改造だしこんなもんかな」


 なるべく道の真ん中を走るようにして曲がり角では大回りするようにして曲がる。

 うん、もっのすごく遅い。

 足で走ったほうが数十倍速いんじゃないんじゃないかな?


「あ、おはようございまーす」


 呪い系統を専攻にしているレイル教授とすれ違う。

 私と同じワービーストの人でレイル教授は猫系だ。


「よっと」


 無事到着。


「………まさかミィちゃんにお姫様だっこされるなんて」


「ん?アーちゃんは軽いから平気だよ?」


 まあ私から言わせてもらえば大抵のものは軽いんだけど。

 なんせ魔王の完全形態は片手で山を抉るからな、器もそれなりに強くなければ話しにならない。

 今の体じゃ完全形態になったら消滅する調整にしてるからある意味安全だし。


「そういう意味じゃなくて……」


「そういう意味じゃなくて?」


「………ビジュアル的に」


「私はワービーストだぞ?」


「そうだけどそうじゃないよ」


 ???よく分からないな。

 そんなのエアボード乗ったビジュアル的に今更じゃん?

 もしかしてするのは良いけどされるのは嫌なの?

 ……アーちゃんの性格からしてそれは無いか。


「そうなんだ?まあそれは置いといて始めよっか!

 とりあえず無改造は20台あるけどどの色が欲しい?」


「え?何でそんなにあるの?」


「私の友達のセリスってのが無法には無法だってひっぺがしたからかなぁ……」


 むぅ……アーちゃんはよく顔に出るなぁ。

 そんな「それ大丈夫なの?」って顔されても私だってそう思うだけだよ。

 セリスがやった事だし私に責任は無いぞ。


「ま、まあ選んでおいてよ。私先輩達呼んでくるから」


「あ、うん。行ってらっしゃい」


「行ってきまーす!」



 ・



 6月20日


「出力平常、安全性問題……無し…………」


「…………~~~ッ!!!」


「「「「「バンザアァアァァァイッ!!!」」」」」


 皆で書類を放り投げる勢いでお互いの努力を称え会う。

 これが武技学会と呪い系統専攻合同の結晶!!!

 いやぁ~長かったな!


 何があったかといわれれば……何だろう?

 皆変なスイッチが入ったとしか言えないかな?

 初めはただ皆エアボードに乗って楽しんでたんだよ、3日くらいな。


 それで3日も練習すればエアボードなんて簡単なモノだいたい誰でも扱えるようになって、私が軽いテクニックというか、この20台の元々の持ち主達がやってた危険な乗り方の真似事をしてな。

 見映えは良いんだよねアレ。

 それを皆に見せたところから始まった。

 意外な事にアーちゃんが一番食い付き良くて沢山質問攻めされて、その流れから呪い系統の付与魔法を使って改造したら物凄く早くなると口にしたら……どう表現したら良いんだ?

 そうだな……森で焚き火を消して場所を移動したら消し後から熱で引火してそこから山火事になる感じか?


 呪い系統を専攻にしているレイル教授は帝国の闘技大会で裏方をやる事になってるから居ないが、変わりに教えてくれてた助手のフィオナちゃんとゴドヴィン講師も巻き込み呪い系統専攻総出と武技学会メンバーで分析、改良、実験その他諸々。

 この国に無い技術だけどサンプルが20台もあるのだから量産も可能ではとかそれはもう頑張った。


 レイル教授も6月4日には戻ってきて「私が居ない間にこんな楽しそうな事してズルイ!!!」と駄々こねるのは流石猫系ワービーストの中では最強種とされるヘミングウェイ。

 今年で90歳でも1000年生きる種族なんだしまだまだ子供なんだろうな。


 それで、レイル教授が現れてからは一気に加速した。

 皆のアイデアやらの最終調整をレイル教授が行いつつ、たまにエアボードで爆走するレイル教授の姿があったりしてね。


 そんな努力の結果、安全性を格段に上げ、風圧など操縦の負担を減らし、基本魔力コストはそのままに最高速度を三倍にする事を可能とした。


「まだよ!!!」


 皆が喜ぶ中声を上げたのはレイル教授で当然目線がそっちに集まる。


「今回の武技学会の人達はエアボードを頻繁に使用し安全性と使い心地のまとめや改良点の発見に勤めなさい!

 そもそもこのエアボード1人乗りなのも変なのよ!

 これこんな板じゃなくて初めから空気抵抗を減らす船のような形にしてみたりすればもっと速くなるかも!

 それに大きくすれば物を運ぶ事にだって使える!

 やる事は一杯あるわよ!暫く引きこもるわよフィオナ!」


「は、はい!」


 それから本当にフィオナちゃんと一緒にレイル教授は引きこもりようやく落ち着くことができたけれど、負担が減っただけで相変わらず目を回してしまうくらい忙しい。



 ・



 6月28日


 なんて事があってからもう8日。

 私は元々呪い系統を専攻に学んでいるから問題無いけどアーちゃんも心配になるくらい入り浸っている。

 私はエアボードの暴走族を見たことあるからね、改造のアイデアも出せるからレイル教授と一緒になって色々弄りまくっている。

 そういえばレイル教授も私も既に15日間は寝てない。

 いや、私は寝れないんだがレイル教授は一応睡眠取るだろうに、流石ヘミングウェイ。

 あとアーちゃん、没頭しすぎてるのは分かるけど途中でパタリと寝ないでよ、返事が無いと怖いってアレ。


 そしてレイル教授に振り回される呪い系統専攻の学生達。

 いや~……ほんの少し軽い気持ちで持ち出したエアボード1つでここまで炎上するなんて誰が思う?

 それでも私は悪くないよ。


「よっこいしょ!」


 ふぅ、引き込もっていただけあってゴミの量が凄い凄い。

 アーちゃんとフィオナちゃんが料理してくれるけど出たゴミはアイテムボックスに溜め込んでたからなぁ~。

 ゴミを持ってく場所は決まってて、大学敷地内を出ないといけないのは面倒だって本当。

 さて、おやつでも買って戻ろ。


「ミィ」


「あ、ミカエル」


 帰り際私に声を掛けてきたのは久しぶりに合うミカエルだった。

 全くコイツは、レイル教授と同じ時期に帰って来れたろうに、良い顔しちゃって何かあったな?


「おかえり、ミカエル」


「ただいま、ミィ」


 ま、何よりも言うべき言葉はこれだね。

 おかえりなさい、ミカエル。


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