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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
三章、闘技大会
52/119

決勝戦


『さあ!お待ちかねの決勝戦!

 まずは様々な武器を使いこなす武装女王ターニャ・ルキンシスの入場だああああああ!!!』


 大会中好成績が確定した者には運営関係者により二つ名が付けられるのだが、今の私には大それた名だと思いつつも入場口を進んでいく。


 出た先で私は今までで一番の歓声を浴びながらリングへ足を進める。


『今まで数々の武器と魔法による変則的な……おや、ターニャ選手最終戦で武装を変え……どころか何も装備していない?』


『いや、あれはマジックボックスだ。

 たぶん最終戦まで温存していた切り札だろうな。

 他にもネックレスなんかも魔法具みたいだが全てがとんでもない代物くらいしか分からん』


『なるほどなるほど!

 これは期待させてくれそうです!』


 実況の言葉に更に会場はヒートアップする。


 今私が装備している数々の魔法具はセリスに貰った物だ。


 ミカエルに勝利した後、私の前に拍手をしながらセリスが現れ……



 ・



「優勝おめでとうターニャ」


 そしてこの一言だ。


「お前とまだ戦ってないだろ?

 まさか……棄権でもするのか?」


「それこそまさか。

 私のシャレをつまらないとか言ったり無視する癖してとんでもなくつまらない冗談言ってくれるね」


「事実だ受け入れろ」


「ちょっとターニャ?」


「……まあいいさ、今年の優勝は私に決まってるから準優勝が実質優勝だろう?」


「え……セリス?」


「…………」


 私とセリスの暴言の応酬にメリルはとても驚き何か言うべきか悩んでいる姿を見せている。


 セリスに言われたところで怒りなんて沸かなかった。

 確かに負けるだろうね。

 それは分かっているが、必ず一矢報いる。


 過去に一度だけだ、奇跡的とも言えるだろう。

 私自身ただ雪でスリップして偶然セリスに一撃入っただけである。


 それでも一撃入れたという事実が存在する。

 ならば、それはセリスは届きうる存在だと意味して……


 パンッ!と音が響く。


 セリスが手を合わせて音を出し、見ているこちらの方がビクリとしてしまう程にメリルの体が跳ねた。

 メリルの様子にセリスすらも驚き「ごめんね」と必死にメリルに謝罪している姿はいつも通りで一気に気が抜けた。


 その気が抜けた瞬間、「さて……」とセリスが口を開くと気を引き締められるほどの寒気がした。


「あんまり時間無いし早めに用件を済ませるよ。

 ターニャの優勝祝いに天空城にある私の宝物庫に案内して好きな装備をあげようと思ってね。

 あげられないのもあるけど、ちゃんと分けておいたからその中から取ってきな。

 天使Aなんかも待機させてるから武器の効力なんかを聞くと良い。

 どれもコレクションでなんとなく集めた物でね、私は使ってないから遠慮無く受け取ってくれると嬉しいんだけど、どうだい?」


「……分かった、貰っておこう」


「えっ!?良いのですか!?」


 メリルがまた驚いている。

 まあ、私の性格を良く知っているからそう思うのも無理はないだろうなぁ……


 だが、


「良いも何も……その余裕寂々な面に叩き込むにはそれくらいしてもまだ届かない気がするからな」


「フフフフ……それじゃこれは預けるから」


 そして、手渡された銀の鍵を使い私は天空城で装備を整えたのだ。



 ・



『対するは複数の人形を操り大魔法を繰り出すだけでなく、驚異的な速度で稲妻のように敵を殴り飛ばした華麗なる魔神セリス・アルバーン!!!』


 実況の声と共に入場口から氷が走る。

 リングへの階段を登りきった位置で一際大きな氷の柱となり、それが砕け散り冷気の風が周囲に発生する。


 発生した冷気が異様な動きで一ヶ所へ集まり、それはまるで虫の繭のような、竜巻を球状へ変化させたものへとなり、弾け飛ぶ。


 弾けとんだ冷気はキラキラと輝き、中から現れたセリスの姿を美しく照らしている。


 くっ……この派手好きめ!

 お前元々目立つのそんな好きじゃないだろうが!

 どんな逆境でも静かに勝利できてこそ常勝であるとか言ってたのお前だろ!


 しかし、それでもその姿は対峙している私ですら見とれそうになるほどで、実際会場はセリスのあまりにも華麗な登場に魅了され、1秒、2秒と遅れてから爆発したかのように歓声が巻き起きた。


「ずいぶん派手な登場だな、セリス師匠」


「ん、懐かしいね。

 ターニャが私をそう呼ぶのは指導始めた最初の頃だけだったよね」


「今回は私が勝つ」


「できないよ、これは決定事項だから」


「それでも0じゃ無いだろ?」


「皆無だよ。ターニャが負けるのは必然で絶対。

 何故なら……私が覇王だからだ」


 そう言いながら向けてきた笑みは今まで見てきたセリスの表情とは全くの別物。

 最早別人なのではと思うほど残虐な表情に私は無意識に一歩引いていた。


「……ここじゃお前は覇王じゃなくて魔神だろ?」


 背筋が凍えるような気配の中で立ち向かうと、スッ……と重い感じが無くなる。

 そして目の前のセリスはいつも通りの綺麗すぎる表情に戻っている。


「ふふ、確かにそうだ、この大会で私に付いた名は魔神だったね、武装女王様?」


「そんな大それた名で呼ぶの止めろ」


 と、少々穏やかじゃない雰囲気で雑談をしていると「コホン」と審判が咳払いをした。

 1度黙れってことね、分かったよ。


「お互い、準備は宜しいですね?」


「あぁ、その前にターニャ。最初にターニャに魔法を使うけどそれは避けないでくれよ?」


「は?何を……」


 私が断るような雰囲気を出せば一瞬だが、まるで興味を失ったモノを見るような眼を向けられたような、そんな気がした。


「……分かった、その魔法受けるとしよう。それで良いんだろ?」


「そうそう、それで良いんだよ。

 それじゃ合図出してもらえるかい?」


「え……はい」


 審判の困惑は理解できる。

 だが、私とセリスにはそれだけ歴然とした差がある。

 ならば初手でセリスが使う魔法は……


『始めえええええ!』


 セリスがバッと手を出すと光が放たれる。

 それも1つや2つではない。

 11に及ぶ光を私は避けもせず受け入れた。


「……分かってはいたけど、セリスからしたら私はそんなに弱いってのか?」


 やはり強化魔法か……


 自分の体を見下ろすと蒸気のように淡い光が漏れだしており、ブレイブフォースにも負けず劣らずの力が溢れてくるのを感じて思わずそう口から漏れた。


「弱すぎてあくびが出てしまいそうなくらいにね」


 そう言いニコニコと優しげな笑みを浮かべるセリスを絶対ぶん殴ると思い手に力を入れて睨み付ける。


 だが、その行為は手に異様な程の汗が溢れている事を自覚させられるだけだった。


 私は目を見開き行動に移せない。


 目の前には、天にすら届きそうなオーラ……

 たぶん……魔力だろう。

 セリスに掛けられた強化魔法で見ることが出来ている保有魔力量に呆然とする。


 これ程か……これ程強大な力をいったいどうやって……


「足場が脆すぎるんだ」


 呟いた言葉を聞きゾクリと背筋が震える。

 僅かに下を向くセリスの全身から巨大なオーラとは別に、徐々に徐々にと紺色をした淡く揺れるオーラのようなモノが見えてくる。


「メリルはね、私の全てをちゃんと見た上で認めてくれるって言ってくれたんだ。それも心の底からね。

 その言葉が私にとってどれだけ嬉しかったかターニャに理解できるかい?

 私はね、ここまでメリルと仲良くなって、その最後の最後で私の力が怖くなって拒絶されたらと考えるのがこの世で一番恐ろしいと思っていた程だったんだよ。

 メリルは不思議といつも私が欲しいと思っている言葉を言い当ててしまうが、これ程覚悟の籠った強い意思を感じられて、それがいったい、私にとってどれだけ…………」


 セリスが自分の体を抱き締める。

 見てとれる程に体が震えていて、それがどれだけ怖かったか、どれだけ嬉しかったか………

 それは私にはとても想像できないが、セリスにはそれだけの価値があるのだろう。


『強すぎる力は受け入れられる事は無い』


 以前旅の間にセリスが口にした言葉だ。

 あぁ、その通りだよ。

 予めセリスの事を良く知らなければ目の前のコレを受け入れる事も立ち向かう事もできないだろう。


 メリルが前に言った、「もしセリスが神と名乗ったなら私は信じられますよ?」というあの言葉。今なら全面的に同意できるよクソッ!


「…………だから私も、怖がる事無くメリルに全てを受け入れてもらいたいと思っている。

 けれどね、足場が脆すぎるんだよ。

 私がほんの少し力を込めて地を蹴ろうとすると簡単に崩れ去って助走を付ける合間すらくれない。

 だから……簡単に壊れてくれないでよ、ターニャ?」


 口が裂けてしまいそうな笑みを向けられると同時に巨大な津波のようなオーラが私を飲み込んだ。

 生存本能とでも言うのだろうか、波に飲まれた私は考えより先に体を動かされた。


 弓を構える姿勢を取ると同時に指に着けたマジックボックスと呼ばれる指輪が光り、私の手に弓と矢が出現し5発同時に放った。

 この動作を終えた所でようやく正気に戻った。


 だがもう遅すぎる。


 矢は目の前に出現した氷の鏡に命中する……

 いや、氷の中を通りすぎると表現した方が良い。

 その鏡のような氷に入った矢は、鏡の中の私へ向かって行くのと同じように、私へと向かって鏡の中の私が放った矢が飛んでくる。


 驚きはしたがそんな出鱈目に放った矢など避けるのは簡単であるしどうでも良い。

 問題は動き出してしまった事。

 あのオーラに呑まれて本能的に近づくことを拒み弓を放ったが……ここは何が何でも、一歩でも多く近付くべきだった。

 しかしどれだけ考えても動き出したからには遅い。


「ライトニングアロー!」


 鏡がお互いの視覚を遮っているのを利用しライトニングを纏った矢を放つ。


 矢は鏡の横スレスレをカーブし、その直後溶けだした氷の先から見えた光景は、セリスに矢が直撃し貫通した光景だ。


 一瞬唖然としたが、セリスはパラパラパラと音を立てながら白紙の紙へと変化していき、本来は混乱させる事を狙っただろうその不気味な光景が逆に私の気を引き締める結果となった。


 だからこそ、散らばる紙が一瞬停止し突風にでも吹かれたように飛び、竜巻のように私を囲む動きをし始めた事にも慌てず構えられた。


 紙吹雪の中、なんとなく嫌な予感がした方向へ剣を振るう。

 剣を振れば軌道をなぞるように金色に輝く聖なる光が走り、確かな手応えと共に何かを切り裂いた。

 すると紙の竜巻は崩壊する。


「これくらい見破ってくれないと話にならないからね。

 それにしても大天使の剣を選ぶなんてお目が高い。

 知ってるかもしれないけどそれ1つで対空戦が可能だよ。

 しかし羽を出してる間は攻撃時の力が多少落ちるから気を付けるんだね」


 パラパラと舞い散る紙吹雪の中、どこまでも余裕そうな表情でセリスは説明をしてくる……けど!


 ガキンッ!と音が響く。


 私の背中近くを浮いているが確かに繋がっている二枚の光の羽が人形の一撃を受け止める。


「いくらなんでもセコイんじゃないか?魔神様?」


「まだ本当の戦いに卑怯もセコイもあると思っている程ターニャの頭お花畑だったのかい?」


「まさか!生き残りさえすれば勝ちって事くらい分かる!!」


 1度力を抜き、一気に剣を押し返す。

 そのタイミングに合わせ地面に剣を突き刺しショックヴェイブを放つ。

 地を走る斬撃が四方八方へ飛び散り、剣の効力も加わり衝撃波が不規則に光の柱へ変わる。

 その内の一発だけは背後の人形を意図的に光の柱で飲み込ませた。


 しかし肝心なセリスは地を走るショックヴェイブの中を突っ込み柱が出現したスレスレを横切る。

 そこ光景はまるで柱の中を真っ直ぐすり抜けたかと錯覚してしまいそうな勢いだ。

 距離を縮められ剣による攻防が可能になり、近接戦になるギリギリで私が放った初手は突きだ。


 が、突如セリスが消える。


「ッ!?」


 違う、消えたのではなく、只でさえ驚異的な速度であったセリスが更に加速し懐に入り込んだ結果見失っただけだ。

 セリスを見つけた次の瞬間にナイフが私の喉へ突き立てられた……はずだった。

 しかし実際には当たっていない。

 当たったと誤認してしまうほどの殺気がこもった全力の一撃……のようなフェイントは外傷は与えずとも確かに重い一撃を与えた。

 私を傷つける事のなかったナイフはセリスの手から落ちて地面に落ちようとしている。

 けれどナイフが落ちるまでの時間をセリスが待ってくれる筈がない。

 それが1度や2度じゃない、認識できたものだけで7回ものフェイント。

 フェイントだと頭で理解しても、幻影の攻撃は的確に私の急所へと叩き込まれる。

 一撃一撃が呼吸する事も忘れる程の感覚で、考えとは裏腹に、本能的に体が追い付こうとするが徐々に……徐々に……………


「炎獄烈風波ッ!!!」


 がら空きになった私の腹に鋭い一撃が入り、爆発のような勢いで炎が発生し風圧も合わさり吹っ飛ばされる。


 軽く跳躍したのとセリスの強化魔法のお陰でなんとか威力を抑えて逃がれる事ができたが、この剣が無けいたな。


 リングアウトギリギリでF字の形をした光の翼を広げなんとか持ちこたえているのが今の状況……

 行動しろ!このままじゃ何もできず負けるぞ!


 セリスを見ると同時にガシャンと音がする。


「チッ!」


 音の発生源は最初のフェイントで使われたナイフ。


 ふざけるな!今のやり取りはナイフが地に落ちるまでの一瞬で行われていたって言うのか!?


 そのセリスの周囲には黒い球体が少なくとも十個程浮かんでおり、私がセリスを見た瞬間に放たれた。


「フォースソニックッ!!!」


 気合を込めて斬撃を四つ飛ばすが球体1つすら相殺する事ができないず悪態を付きつつ飛翔する事で回避する。


『はい、いらっしゃい』


 腕組みし私を見上げるセリスからテレパシーが送られてくる。


 何の事かと一瞬思ったが、私の後ろからハラリと金色の光の粒が一つ顔の横を過った。


 一瞬自分の羽かと思ったが、角度的にそれはあり得ない。

 その事に気付いた瞬間に剣と私自身の魔力も使い背の防御を固めた。

 その1秒も経たずに衝撃が走り地面へ叩き落とされ……


「ガアアアアッ!!!」


 私の手足と背中に何か熱い感覚がして思わず叫ぶ。

 ただの痛みじゃない、自分の中の何かが確実に削ぎ落とされたよつな感覚。


「言い忘れてたね。その剣は所有者を選ぶんだよ。

 実力が足りなきゃ剣の力に耐えられず体が悲鳴を上げるからね。

 その剣の本当の力を出した時は二枚じゃなくて六枚なんだよ」


 そう自慢気に語るセリスの横に、真っ白な光のセリスが降り立つ。

 その光のセリスには私の剣と同じものが握られており、その背から生えたF字のような六枚の光の翼。

 その内の四本が異様に伸び私の体に突き刺さっているようだ。


「これはソウルと言う魔法でね、私の魂を半分にして魔力で作った入れ物に入れたもう一人の私だから生き物の召喚じゃ無い。つまりルール違反じゃないよ。

 それとこの羽には傷つける以外に敵の魔力と体力を奪う能力もあるからね」


 セリスがそう話している間に真っ白なセリスが近づいてくる。


「……ここまでハンデを貰っても全然届かなかったな」


「そうだね、良い手だと思うよ?

 技で作った魔力の玉を地面を通して貪欲に勝ちに来てる姿はね」


「………あ、アアアアアッ!!!」


 その言葉を聞いても『気づかれている』と理解したく無くて、頭が真っ白になった。

 無茶苦茶な軌道で放たれた逆転の一手。


 リングを突き破り地から飛び出したその一撃はセリスがほんの少し首を傾げた事で髪を軽く撫でただけで終わってしまった………そして光るセリスの剣が迫る。


 ………が、まだだ!!!


 テレポーテーション


 無詠唱での転移魔法により私の視界が変化し、一瞬でセリスの背を写す。


「ファイナ……」


 渾身の技を当てる!


 だが、その視界に写るセリスが遠退いていく。

 まるで時間を巻き戻したかのように。


「アンチテレポーテーション。

 魔法も使う戦士には使って当然の魔法だよ」


 私の体スレスレに7本の剣が向けられている。

 メイドみたいな格好している人形のくせにゴツイ剣持ってくれやがって……くそ、文字通り身動き1つ許されない状態………本当に全ての手札を使い切った…………


「ぐ………参りました………」


 私が敗北を認めたことでパリンと音を立て守りの魔法が消え、緊張の途切れと共に膝をつく。


『勝者!セリス・アルバーンッ!!!』


 審判の宣言により会場が歓声が包まれる。


「ま、こんなものか。良くやったね。

 この世界に来てからこの私がソウルを使うに価すると思わされた戦いはこの試合が初めてだよ。誇っても良いと思うよ?」


「1分しか持たなかったのにか?」


「1分も持ったの間違いだろう?」


 そう言いながら手を差し伸べてきたセリスの表情はメリルに向けるものと似ているくらい優しげなものだ。


「……そうかもな」


 悔しさはあるものの、この手はセリスに認められたからこそ差し伸べられたものだと判断し手を取り立ち上がった。


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