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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
三章、闘技大会
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 5月19日

 天空城と比べてしまえば小さく寂しい門ですが今年度に訪れた町では間違いなく一番立派な門を潜り、私達はようやくレドランスへと到着しました。

 途中土砂崩れで道が塞がったりもしましたが無事に着けて本当に良かったです。


 闘技大会は5月25日からでまだまだ時間があります。

 ですが私自身が待てなかったと言うのが大きかったですね。


 宿に荷馬車を預け、私は目的の場所へと向かう。

 レドランスへ着いてすぐなので疲れているのに足取りは軽く、この時の自分は気付いてなかったけど何時もより歩くのが早かったと思う。

 そして、目的の場所が目に入る。


「あ……」


「あれみたいだね。でもまだネットを被ってて見えないね」


「……そうですね」


 まだ日が高い位置にあり、目的の建物を覆う灰色のネットが私には光って見えた。

 ネットの中からは木を叩くような音等がしていて、まだまだ工事中だと言うことを教えてくれる。


「折角だしもっと近くに寄ろうか」


「はい」


 立ち尽くしているとセリスは猫のような笑みを浮かべて私の顔を覗き込んでくる。

 優しげな口調で手を差し伸べてくる手を強く握り返して答え、セリスに連れられネットの側へ足を進める。


「わかってはいましたけど何も見えませんね」


「前みたいに感覚強化の魔法掛けて見てみるかい?」


 セリスの言う感覚強化の魔法を使えば中の様子が見えるでしょう。

 あれを使われた時はこんな近くだけではなく、もっと遠くの建物の中の様子まで魔力感知で正確に捕らえられていました。

 ただアレは見えすぎてて処理しきれずけっきょく全ては見えないのが欠点です。

 強化しても処理速度が上がらなければ見落とししてしまいます。


「それを使ってセリスは中を見れるのですか?」


「ううん、残念ながら私は何処まで行ってもヒューマンがベースの種族魔法使いだから限界があるんだよ。

 ドリーミーじゃないから強化してもそこまでは見れないね」


「そうですか……では止めておきます。

 私だけ抜け駆けみたいですし、折角ならセリスと見たいです」


「そっか……ありがとう、なんだか恥ずかしいな……

 メリルがそう言うなら無理には掛けたりしないよ。

 さて、ターニャのところに戻るかい?」


 ターニャはすごく気合い入ってますからねぇ……

 今年はもっと高い順位狙うと言って今もトレーニングをしていて、ついさっきも何時もより派手にセリスに負かされて……


 今年はセリスも出るので決勝まで当たらない事を祈るばかりです。


「その……もう少しだけここに居たいのですが……」


「そっか。……う~ん、そもそも直接聞けば良いじゃないかな?

 うん、何故気づかなかったんだろうね。少し見せてもらえるよう聞いてみるから待ってておくれ」


「はい」


 セリスはネットを退けて「すまない!誰か話を聞ける者はいないか!」と凛としていて良く響く声で呼び掛けるとすぐに一人の作業員が対応に来てくれる。


 話し合いのためにセリスはネット内に入り私は外でお留守番。

 ネット越しと作業の音もありセリスの説得は良く聞こえなくて不安と期待で胸がドキドキして凄いというか、なんでしょう、私今凄く変です。


 しかしセリスです、セリスですから大丈夫。

 セリスの言葉は何と言えば良いか、力があるんです。

 言葉の言い回しに華があって、嘘もまるで真実のように塗り固める強さがあって、それは商人としての嘘でなく、セリスの生き抜いてきた険しすぎる道のりに裏打ちされた力なんです。

 その言葉は絶望を払い、光を見せてくれるような……


 それでもドキドキする。

 頑張れセリス。


「メリル、中の様子見せてもらえるって」


 なんて私が考えていると案外すぐに出て来てそう言ってくれた。


「え、本当ですか!?アポも無しに!?」


「うん、やっぱり聞いてみるものだね。聞くだけならタダだし」


「それは少し違うような……でも………ありがとうセリス!!!」


 商人としては時間を使っている時点で無料とは言えませんよと言おうとしたけれど、それよりも嬉しい気持ちがこう……何て言うか、爆発したと言いますか……私は思わずセリスに抱きついた。


「喜んでくれて嬉しいけど、まだ作業中なんだからあまり期待しすぎない方が良いんじゃないのかい?」


「その仮定の姿も見れるなら見ておきたいんです!

 ああ、本当にここまで来れたんですね!

 どうしましょう!幸せすぎて頬が痛いです!」


「そんなにか……なら写真も撮ろうかな」


「セリス天才ですか!?もうっ大好きです!!!」


「フフフ、もっと褒めても良いんだよ」


 私はもっと強くセリスに抱きついた。

 作業員のお兄さんも気にせずここまで感情をぶつけるなんて。


 作業員に連れられて私達は中に入っていく。

 扉は既に出来ていますが内装はまだ二階の床、天井が所々土台しか出来ていない状態で板が貼られていません。

 他にもトンカチやノコギリ、釘を入れた箱が床に直接置かれていたりとても珍しい光景が広がっています。


「本当にまだまだって感じですね」


「そうだね、でもほら、あそこで物置にされてるけど形になってるね」


「そうですね~、なんか新築よりずっと木の臭いが強いです。

 当然と言えば当然ですけど」


「さて、とりあえず1枚……」


 シャッターを切り一瞬光が発生する。


「……さっきその小さい子が喜んでたがそれがそうなのか?」


「ん?あぁ、これはカメラって道具で風景を写す道具だよ」


「なるほど……ん?先程言っていた写真とは違う?」


「写真はこっちじゃなくてこっちね」


 そう言ってセリスが取り出したのは石油が天へ噴出されて石油の雨が降っている光景の絵でした。


「なるほど、そっちの絵が写真なのか」


「そうだよ。このカメラは元々映像を撮ってこの水晶で写真を作ったり映像を流したりする魔法具だったんだけど私が改造してね。

 映像を録画する事はできなくして変わりに簡単に写真を作れるようにしてね、更に写真は録画ほど複雑じゃないから小型化にも成功して片手で持てて消費魔力量も少ないから屑魔石を使用しても十分なものが撮れるポテンシャルにまでできたんだ」


「へぇ~凄いですね。私も作れませんかね?」


「メリルはその前に光の屈折と魔力による性質変化について学ばないといけないね」


「それもセリスが教えてくれるんですよね?」


「もちろん」


 私達がそんなやり取りをしている中で男性は目を見開いて驚いています。

 目線の先はセリスが適当に台の上へ置いたカメラ。

 大工であればたぶん見取りなどが大切でしょうから、この魔法具の凄さが分かるのでしょう。

 農家の人に見せてもこんな反応しませんよ。


「これは……本当に凄い魔法具だ……」


「フフフ、ありがとう。

 うん……ねえメリル、私の地方だとカメラに似た道具があったから需要はあまり無かったけどさ、この様子だったらカメラって量産すれば売れると思う?」


「それは考えるまでもなく売れるのでは?

 月にどれだけ作れるかにもよりますけど、それだけ便利な道具です」


 最初は付加価値も加え原価の4~5……いえ、性能や技術費を考えれば20倍でも欲しがる人は喉から手が出るほどのはずです。


「うん、じゃあこれは私の方の看板商品にするかな……

 他と桁の違う値段になるけど武器宿も客寄せで一つだけ馬鹿みたいに高いの置いといたりするし……」


「えっと……それ、ここの店ができたら売られる……んですか?」


 あ、説明しながらも口調が荒かったのに急に敬語使い始めましたよ。それも下手くそです。下心丸見えですが共感できますね。


「そのつもりだよ?」


「そうか……え、あ、そうだ、他の部屋も見る……ますか?

 一応上の階も行っても問題無ありませんから。

 ……床の無い所に近づかなければ」


「はい!もちろん見せてください!

 よろしくお願いします!」


 唐突で下手くそな敬語で狙いは見え透いています。

 そんな些細なこと殴り捨てる勢いで食い付くと男性は少しひきつった様子になり、私も少し正気に戻り恥ずかしくなってしまいます。


「あう……ちょっと……セリス撫でないで…………」


「おっ、ごめんね、可愛くてつい……」


「オッホン……おい!お前ら!客人行くから手を止めろ!

 いいか!くれぐれも丁重に扱え!」


 階段に向かって上の階に叫ぶと作業の音が止みます。


「これで大丈夫、とりあえず先導するから着いてきてくれ」


 こら敬語!まあ気にしませんけど。


「わかりました」


 男性に連れられ二階、三階を見て屋根裏の四階……はまだ板が無くて全然できてませんでした。


 二階も床が完全にはできていなかったり、壁の板がまだできてなくて迎えの部屋がまる見えだったりと普段見れない光景を見れて私はとても心が踊りました。


 本当に、こんなに幸せで良いのでしょうか?


「今日はいきなり来たのに貴重な時間をありがとうね。

 これ良かったら差し入れで皆で分けてね」


 そう言ってセリスは焼き菓子を差し出します。


「お、ありがとよ。

 ところで……その魔法具は少しばかり安く買えたりしませんかぇ?」


 別に悪どい事言ってる訳じゃないんですから声を控えなくても……

 まあそう来るのは分かってましたよ。

 カメラはすごく便利で画期的すもんね。


「ん?それくらいお安いご用さ。

 ただ、変わりに良い家を立ててくれよ?」


「それは当然!それで……値段はいくらくらい?」


「原価で良いよ」


「原価!?」


 原価……原価ですかぁ……

 私の予想だとセリスなら半額くらいにすると思ってたらもっと下げてきましたよ。技術費すら入ってない。

 まあセリスですし……


「セリスの事はセリスに任せると言いましたから構いませんが、本当に良いのですか?」


「良いんだよメリル、私は稼ごうとすれば何時でも稼げるからね。それに、こういうのは誰かが実際に使わなければ広まらないだろう?」


 なるほど、確かにそうですね。

 大工となれば使用する事がかなり多そうですし正しいと思います。


「まあけっきょくは趣味範囲に抑えてメリルを手伝うつもりだから宣伝もそこそこで良いんだよ」


「それで済めば良いんですけどね」


「済ませるさ、私は強いんだよ。

 今年の闘技大会で何処までも圧倒的で華麗で優雅に必然的に優勝するからねぇ~。

 勝ち抜き戦では誰の目から見ても文句の付け所の無い絶対の勝利を見せてあげるよ」


「あまりターニャを虐めすぎないでくださいね?」


「ターニャが手加減を望むなら平和に終わると思うよ?」


「……無理そうですね」


 それでも私はちゃんと応援しますよターニャ!


「あ、そうそう、お兄さん名前は?」


「え、ミカエル・ハーツだけど?」


「お、こっち来てから二人目のミカエルさんだね。

 王国の英雄さんと同じ名前」


「ありふれた名だよなぁ。しかも名前負けしてるし……」


 そうミカエルさんが苦笑するのを横目にセリスは2枚の羊皮紙を出現させた。


 久しぶりに見る魔法使いの破れば死ぬ契約だ。


「はい、こっちの羊皮紙にサインして。

 そうすれば店に来て私がいるなら最優先で原価価格で売る事を約束するよ。

 ただ、原価もまだ調べてないから原価でも高いようならその時はこの契約を破棄してくれて構わないよ」


「わかった」


 サラサラっとミカエルさんがサインをして魔法契約が交わされる。


「それじゃ今日は本当にありがとね。来年開店後にでも来ておくれ」


「ありがとうございました」


「こちらこそありがとよ!これは大事に取っとくとするよ!」


 こうして私とセリスは工事中の店を後にしました。


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