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覇王セリスの後日談  作者: ダンヴィル
2章、軽い刺激
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閑話、魔王と大学の平穏


 4月2日


 目覚めていつものように蛇口を捻りお湯で顔を洗う。

 この魔法具はうちの大学教授の発明で実験として大学寮の部屋に1つずつ設置され、最近やっと安全面のデータが取れたとかで偉いお貴族様から順に普及していっているそうです。


「うぅ寒い……ミィちゃんおはよ~」


「ん、おはよ~」


 寮の廊下へ出て、外への扉を開くといつも通り階段の手刷りに寄っ掛かりミィちゃんが煙筒を吸っていました。

 ミィちゃんは吸うのを止めていつも通りの笑顔で手を振ってくれます。


「本当に早起きだよね。

 私これから卵を貰ってくるんだけどどうする?」


「それなら私も行くよ」


 ミィちゃんがいつも通りの様子でそう言ったのを見てとても安心した。

 昨日はこんなに可愛いミィちゃんを怖いなんて思ってしまいましたけど、ミィちゃんはやっぱり可愛いくて綻んでしまいます。


 私の実家の近所には丁度ミィちゃんくらいの背丈をした鳥系ワービーストの女の子が居て、ティアナちゃんって言ってその子が本当に可愛いんですよ。

 歳が近い……と言っても5つも離れていますがそれでも私しか歳の近い子は居ないので、お姉さんお姉さんと後ろを付いて来て可愛くって。

 だからミィちゃんに同じ部屋にならないかって聞いて、良いよと笑顔で言われた時はとても嬉しかったです。


 ……うん、今は怖いなんて思ってない。

 だからハッキリ聞こう。


「ミィちゃんあのね、昨日連れてきたミカエルさんとはどういう関係なの?」


「関係って言われても、昨日会ったばかりだし……ミカエルにはいきなり襲い掛かられたんだよね。

 私はこう見えても祖霊を敬い闘いに恋い焦がれるタイプの一族出身なんだ。

 戦ってわかったけど、可哀想にアイツは今まで強敵に恵まれなかったんだろうね。

 だからこれから戦い方を教えれば面白そうだって思ったんだ」


 ん………ん~?

 祖霊をそこまで重んじるワービーストって今時かなり珍しいんじゃ……

 私もティアナちゃんから聞いただけだからどうかまでは知らないけど。

 それより気になったのは戦いに恋い焦がれるって事は……


「えっと……もしかしてミィちゃんって近接戦闘特化のワービーストだったりするの?」


「あ、知ってたんだ。そうなんだけど私の場合は特別。

 私は先祖帰りだから魔力量が他の皆より多いんだ」


 先祖帰りかぁ……ティアナちゃんの種族は緑の毛が特徴なんだけど、元々は白い毛を持ち癒しの力に特化してたって話を聞かされて面白かったから覚えていたけどミィちゃんの種族はどうなんだろ?


「なるほどねぇ、じゃあ魔法も使えて前衛もできるの?」


「できるよ~。むしろ近接戦闘こそ私の晴れ舞台だね」


「そうなんだ……なるほどなるほど………え?

 じゃあミカエル……さん?」


「ミカエルだよ」


「ミィちゃんが……ミカエルさんを近接戦闘で倒したの?」


「そうだよ~」


 煙筒を上下に揺らしながらニッと眩しいくらいの笑顔で答えてきた。

 ミィちゃんが……え?ミィちゃんが?


 ……良く考えればティアナちゃんも軽いのに空を飛ぶ為に脚力が凄い事になってるしそう言うことかな?

 斧で半分くらい切れ目を入れた普通の木ならティアナちゃんのキックで折れるもん。


「そ、そうなんだ………ところで、ミカエルさんはどうするの?

 女子寮に置いとくのは不味いでしょ」


 女子寮以前にそんな不審者置いておく方が問題だけど。


「え?そろそろ起きるだろうから追い出すけど?」


 キョトンとした顔で首を傾げて可愛い……けど…………


「……あの、本当にミィちゃんは何がしたかったの?

 ミカエルさんに襲われたって言ってたし……」


 ワービーストは変な所でどうしてもヒューマンでは理解できない事をするけど、ミィちゃんは規模が違うね……

 ティアナちゃんは何が何でも枝で魚を捕まえようとしますし。

 これはたぶん本能的な部分なのでヒューマンじゃ理解できません。


「確かに襲われたのは事実だけどあんなの遊びの範囲だし、次に襲われても返り討ちにするから大丈夫大丈夫。

 ……と言うより、私はまだまだ自分の力の全てをコントロールできてないからそうやって襲ってきてくれるなら練習に便利だと思ってるくらいなんだよね。

 万が一殺しちゃっても正当防衛の理由は付くし。

 私が今大学に居るのはこの膨大な魔力の使い方を正しく学ぶ為だから」


 そう言ってミィちゃんは手の平を見つめる。

 手の平の上はまるで蜃気楼のように空間が歪んで見えて、その現象は極度に魔力が集結すると発生するもの。

 ミィちゃんの魔力だけでそんな現象を起こしている事に驚いたけど、同時に凄く納得した。

 そんな事ができるのはこの学園の教授でもほんの一握りにしか居ないでしょうから。


「ミィちゃんってそんなに凄い魔力なんだ……あれ?

 でも前に聞いた時は知りたい事があるって言ってたよね?」


「最優先事項がそれだっただけで今は力の使い方を学ぶのが優先なんだ。昨日まで遠出してたのもそれが理由だし」


「それは大変だね」


「これを言うと怒る人もいるけど、才能の持ちすぎは自分を傷付けるだけなんだよ……

 勝ちすぎても負けすぎても世の中から置いてかれるって理不尽だよねぇ……」


「……ミィちゃん?」


「ううん、なんでもないぞ」


 そうやって笑顔を見せてくれましたが、さっきのミィちゃんは私を見ながらも何処か遠くを見詰めていた気がした。



 ・



「それじゃ私は行くけど今日ミィちゃんはどうするの?」


「私が受けてるの午後からだからなぁ……おゆはんはお肉が良い」


「駄目!今日は魚だから!」


「えー……」


「えーってミィちゃん毎日お肉って言うじゃん。

 それじゃ行ってきます」


「むぅ、行ってらっしゃい…………さて、起きてるよね?おはよう」


 アーちゃんを送ってから床に放置しているミカエルに声を掛けると起き上がる。

 やはりミカエルは回復速度が早すぎる。

 この私が付けた筈の傷が一つも見受けられない。


「何故私を連れてきた?」


「何でだろ?それ多分私が一番知りたいんだよね。

 面白そうだと思って連れてきたは良いけどさ、良く考えなくても邪魔だもん。だから好きにして良いよ」


 正直言うとミカエルを置いとく場所に心当たりが無いし世話をする事もまったく考えてない。

 久し振りの楽しい戦闘で高揚していて深く考えてなかった。

 本当に面白そうだった意外に何の理由も無いんだよねぇ。

 何で連れてきたんだろ私……


「そうか…………私は鍛え直そうと思うのだが、また闘いを挑まれてくれないだろうか?」


 ……不安そうな眼。昨日の熱い眼差しが嘘みたい。


「……なんだ?」


「あ、ごめん」


 ほぼ無意識的に手を伸ばしてミカエルの頬に触れようとしていたが、身長差がありすぎてできなかった。

 しおらしいミカエルの様子を見てなんとなく慰めてあげたくなったけどできなかったモノは仕方ない。


「戦いね、もちろん良いよ。

 日程が合うなら軽い手合わせも構わないし。

 そうそう、この国の模擬戦のルールに乗っ取ってするなら今からでもしようか?」


「……良いのか?」


 ふ、なんだその欲しいものをチラつかされた子供みたいな反応は。

 コイツもしかしなくても可愛いな。


「もちろん。本気を出してなかったとはいえ私とまともに打ち合ったのは評価できるし、そんなのできるのはセリスくらいしか知らなかったからね。

 そのセリスも強いけど、アイツは何処まで行っても魔法使いだからなぁ……

 セリスは魔法も使える戦士じゃなくて、剣なども使える魔法使いなんだよね」


「…………わからないな」


 一度でも剣も使える魔法使いと出会ったなら違いがわかるだろうに……


「本当にお前は可哀想な奴だなぁ~」


「…………」


 あ、あれ?言葉間違えた?


「………怒った?」


「……いや、怒ってない。私の無知さを恥じていただけだ」


 やっぱり怒らせちゃったかもね……

 拗ねてしまっただけかもしれないけど。


「そっか。……ミカエルは戦いに身を委ねて200年、それだけの時間があっても対等な相手に出会えなかったんでしょ?

 私もそれなりに不幸だと嘆いた事あるけど……

 ミカエル、私はお前程可哀想な奴だと思った奴は居ないぞ?

 だからいつか、さっき私が言った違いも教えてあげるね。

 良し、それじゃ模擬戦しよか。

 え~っと……学園のサークルパンフレット何処に置いたっけ……」


 私の部屋に戻り書類を漁るとすぐに出た。


「あったあった、それじゃ行こうか」


 パンフレットに従い模擬戦を良く行うサークルへと向かった。


 このサークルは様々な競技を考案したりルールの見直し等をしている王国武道技術文化考察学会、縮めて武技学会と呼ばれているらしい。

 この武技学会が考案した物の中で私は魔法を放ちながら踊ったりして美しさを競い会う競技がとても心踊ったのを良く覚えている。

 そう遠くないうちに顔を出すつもりだったのでちょうど良い機会だね。


「お~い、模擬戦したいんだけど色々貸して貰えないか~?」


「はーい……ってあれ?ミィちゃんじゃん」


「やあ色男くん、私に玉砕した後のナンパ上手く行ったの?」


 対応してくれたのは大学初日で私に声を掛けて校内を案内してくれた金髪色男のレオ先輩だ。


 レオ先輩の横にもう一人、グレン先輩が居るね。


「何?お前こんな小さい子ナンパしたの?」


「いや、あれはナンパじゃなくってこれだぞ?

 普通に迷子だと思うだろ?」


「ナンパしといてこれって女の子にモテないぞ?

 初対面でいきなり家族や友達はいないの?なんてナンパで使い古された手じゃん」


「ブッ……ハハハハハ、確かにこんな美人さんじゃナンパの一つしたくなるのも仕方ないな!」


 笑いながらレオ先輩を叩くグレン先輩。

 私も便乗して胸を張る。


「フッフッフ、お兄さん見所あるね。今私フリーだよ?

 ところでお兄さん達は何か美味しそうなものでも焼いてるのかな?」


 この匂い、さては川魚を焼いているな。

 それだけじゃなくチーズやニンニクの匂いもする。


「流石犬科ワービースト、鼻が良いな。

 帝国が来月、王国が7月に闘技大会があってね、王国の時に出す物今のうちに試作してたんだよ」


「ふ~ん、そうなんだ…………」


「…………」


「…………良かったら食べてくかい?」


「え?良いの?悪いな~も~、それじゃあ遠慮せず頂くよ」


 物分かりの良い若者が多くて嬉しい限りだね。

 ツマミができたし米焼酎を……あ、昨日ミカエルにぶっかけたから米焼酎半分くらいしか無いや。

 せっかくの上物を勿体なかったね。

 まあ他にも芋焼酎とかもくすねてきたんだけどさ!

 セリスも私に厄介事押し付けたんだし文句言われる筋合いは無いよ!


「ミカエル~。模擬戦は後で良いよね?」


「あぁ、構わない」


「え?彼がミィちゃんと戦うの?」


 ミカエル達が話している間に私は他のサークルメンバーに混ざって試食をする。


「お、本当に水じゃなくてお酒だこれ」


「うわっ、これキツイな。けど旨い、初めて飲んだ酒だけどこれ何のお酒?」


「これは米焼酎って言って東の方へ海を渡った先にある外国のお酒でね、巫女さんって言う独特な進化を遂げた呪い系統魔法使い達が多い国で作られてるお酒だね。

 その国の特産物であるお米を原料にしてるのが今の、こっちが芋焼酎って言って、ジャガイモとは違うけど似たようなのから作った焼酎だよ」


 まあニャッバーンはこっちの世界には無いけどさ。

 ニャッバーンは肉よりも魚を食べる事が多いのもあって魚に合う合う。

 はぁ~……美味しい。

 このシンプルに塩だけで、焼き過ぎたくらいのがパリッとして旨い旨い。


「さて、これも貰って良い?」


「もちろん」


「じゃあ遠慮無く」


「ミィちゃんに遠慮なんて言葉あったのか?」


「戦士とは食える時に食わなきゃ餓死するだけだからねぇ~」


「お、それ武技学会っぽい」


 ん、このニンニクと唐辛子を魚に使った変わった串焼きなんかもこれはこれで美味しいし合うね。


「~~~っ!辛い!来るねこの食べ合わせ」


 ただこれ食べてすぐ焼酎飲むと舌がビリビリする。

 旨い事に変わり無いけど。


 次はこのチーズとクリームのグラタンみたいな串焼き。


「甘いんだけど……」


「あ、ソイツはコイツの敵だぞ」


「旨い酒だけど相性悪いよな」


「それはどうかな?」


 腰に手を当ててグイッと……


「~~ッ!?」


「言わんこっちゃない」


「ん、んん……無念………はぁ、塩焼きが一番だね」


 今のは中々ヒヤッとした。

 ここ最近一番緊迫させられたのが甘い魚の串焼きだとは思いもしなかった。

 塩焼き美味しい、芋焼酎も美味しい。



 ・



「……ミィ、模擬戦はしないのか?」


「ほえ?……あ、そんな話だったな~。

 よしやりょう!だぁ~いじょぶだってぇ!ミカエルに負ける程私は酔ってないからぁ!」


「そうだな」


 む、期待してないって顔だなコイツぅ……


「お~いミカエル、お前姿勢もっと低くしろ、ミィさんを敬え」


 お……なんだ素直じゃんコイツ。

 目線合わせるなんて可愛い奴だな~。

 頬にチュウしてやる!


「………」


「ふふふ、頬へのキスは挨拶のキス。

 これからお前をギタギタにする挨拶だから覚えておけい!」


「……なあ、ミィがミカエルと模擬戦ってやっぱりマジなの?」


「フフフ、このミィお姉さんは見た目と違って強いんだぞ」


 そう言っても止めようとしてくる。

 全く!私はそんじょそこらの有象無象じゃ近づけないくらいに強いんだぞぉコラァ!


 なんやかんや言われたけどようやく模擬戦の準備が整ったよ。


「本気でやるけど全力は出さないから安心しろ~。

 いっくぞ~、ストーンアロ~」


 ミカエルが足に力を込めたタイミングで放ったアイスアローを殴り壊された。

 アハハ!ストーンって言いながらアイス出しただけなのに驚き過ぎだってくぁっわいいなぁ~!!!


 そんな事よりもさ、昨日みたいにバカ正直に剣を振ってくれていれば次は避けにくかっただろうに……もしかして瞬殺は無理かな~。

 酔ってないけど酔った状態じゃもっと手加減できないし面倒だなぁ~。


 まあ畳み掛けるんだけど。


 避けられる事を前提に放ったアイスアローだけど、その影に忍ばせた魔王の爪が地面から飛び出して切り裂こうとしたけどやっぱり避けらちゃった、ちぇ~っ。


 ミカエルは後ろに跳び避けた。

 なら私は地を力一杯蹴り急接近する……フェイントをする。

 幻影の魔法で私を消して、幻の私を突っ込ませた。


 そして空中にいるミカエルの四方八方から幻の私が8人襲いかかる。


「私も嘗められたも「炎獄烈風波!!!」」


 幻の形ピッタリ重なるようにテレポーテーションして、ガラ飽きの脇腹に炎獄烈風波……張り手を当てると同時に炎とそれで生じる風圧で吹き飛ばす技を使って守の魔法を粉砕した。


 ミカエルは受け身を取りなんとか立ち上がったけど終わりだから意味無いよ~。


「よ~し!私の勝ちぃ~!くぅ~!カッコイイ私ぃ~!!!」


 技を放ち宙にいた私はくるりと一回転して綺麗に着地し手をグッて上げて勝利宣言!

 したは良いけどちょっと恥ずかしい。

 あらやだ恥ずかしいわ~。うへへへへへへへ。


「ウオォオォォォ!!!ミィちゃんスッゲーつえぇぇぇぇ!!!」


「今の何したんだ!?誰かわかったか!?」


「幻影に本物の矢を混ぜるって事をする選手が前に居ただろ、それを転移で行うってもしかしなくてもそれよりずっと高等技術じゃないか?」


「転移って事はゲート等も無かったからテレポーテーションだろ?」


 歓声の後サークルの方々は口論を始めた。

 パンフレットにも書いてあったけどこう言う話し合いは面白いよね。

 このサークル、男ばかりじゃなければ躊躇無く入るのになぁ。

 そういえばアーちゃんもサークル入ってないし誘ってみよ~。


「……何をした?」


 ミカエル……ブスッとしちゃってそんなに勝ちたかったの?

 子供みたいで可愛いなコイツ。

 でも私も大人じゃなくて誇り高きスカーレットミーティアのメスだからからかっちゃお。敗者に節度を守って何でも言えるのは勝者の特権。


「ねえねえ今さ、『私も嘗められたものだ』って言おうとしたよね?

 ん?どうしたの?恥ずかしがらずにミィちゃんに言ってごらん~?」


 1度倒した相手は確実に仕留めるのはセリスの世界で学んだことだからね、しっかり仕留めるよ。


 まあ建前は置いといてミカエルからかうの楽しいわぁ~。

 これで精神年齢は私の200歳以上とか面白いね。


 ミカエルの事はティナの記憶の中に沢山あったからねぇ。

 ティナが知ってた事なら何でも知ってるよ。


「馬鹿にするっていうのは今私がしたような事で試合中は馬鹿になんてしてないぞ?

 だって幻影だと見切られるってわかってて使った訳だしさ~。

 ちなみにゴードン先輩の考察は当たりだぞ。

 私は幻影に重なるようにテレポーテーションを使ったんだ。

 幻影を見極める目に長けていると自覚がある者ほどよく引っ掛かる手なんだよね~。

 ただ、普通の幻影だとバレる可能性があるから本来幻影魔法で使う魔力量の数倍を使ったんだ。

 そうすればテレポーテーション等の微妙な変動があってもわかり辛くなるんだよ。

 ミカエルが馬鹿にされてるって思ったのは……もしかしなくても幻影に使う魔力量が多すぎると言うのも見切ってそう言ったんだろ~?

 それこそこのミィちゃんを馬鹿にしすぎだぞ~?

 そこに何か狙いがあるって考えなきゃ駄目だぞ?

 ほらほら~、ちゃ~んとミィちゃんの顔見なきゃ駄目だろ~?」


 うつ向いてしまったミカエルを指でつつく。

 強く拳を握り血が出るほど悔しがっているけど敗者は何も言えないとわかってるんだろうねぇ~。

 コイツの悔しがり方も初々しくてくぁっわいいなぁ~も~。

 なんなん?私にセリス以外にも母性持てって事なの?

 可愛いなぁコイツ~。


「私は……1度敗北した相手をまだ侮っていたというのか……?」


「な~んだ、まだ声が出せる元気があるんだ。ならもう一戦する?

 今度は先手を譲ってあげよっか?」


「……良いのか?」


「なんで聞くんだ?お前はしたくないのか?」


「いや、もう一戦頼む」


 あれ?今コイツ目を拭ったって事は泣いてた?

 ………かっっっっっわいいなぁコイツぅ!!!


「ふへへへへへ、それで良し!良いよそれで!

 続けてやるんだから今の失敗生かして次で挽回して行こうじゃないか!

 ……と、ちょっと待って。

 コホン、先輩方ーッ!今の幻影の恐ろしい所は1度知ってしまうと例え本物が居なくても幻影の中にいるかもって思って防御してしまう所だよー!!」


 それを聞いた先輩方は更に熱を増した。

 先輩方の話しはとても面白かった。

 やっぱりこのサークルに入ろうかな。


 その後模擬戦をしたけどやっぱりこのミィちゃんの圧勝だ。

 ミィちゃんは意地悪だから可愛い真っ直ぐな子を意地悪したくなっちゃうからね~。


 ただ、それらが終わった後が大変だったよ本当………

 まずミカエルはサークルどころか大学関係者ですらない。

 私が勝手に入れて好き勝手やった事がバレて反省文を書かされる事になってしまったけど、先輩達が手伝ってくれたしやっぱり私も戦いが好きなのでこのサークルに入ることに決めた。


「ふぅ、お待たせ」


「それほど待っていない」


「三時間も放っといたのにかぁ?」


「300年も待ち続けた瞬間に出会えたんだ。

 今更そんなの待った内に入らん」


「そっか……」


「………私は冒険者として一年過ごす。

 そして来年、この大学に入ろうと思う」


「そっか、そしたら沢山遊べるな。明日も遊ぼー」


「ああ、わかった」


 手を振りながら歩いていくミカエルが見えなくなるまで見送った。

 ………ヤバイ、今日やっっっばいくらい楽しすぎた!

 これが青春って奴だな!そうなんだな!かっわいいなもう!!!


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