引っ越しⅡ
「えっと・・・直ぐに入居できる物件をお探しということで宜しかったですか?」
「はい。なるべく、というか激安な物件でお願いします。」
超常現象研究会による襲撃から3日後。俺たちは駅前の不動産屋に来ていた。初めてのネカフェではじめのうちははしゃいでいた幽霊と悪霊だったが、案の定、狭い個室での生活は落ち着きのない彼女たちが耐えれるものではなく、2日目の時点で『飽きた』を連発し始めた。俺の方も、ネカフェから大学へ通学するのは不便極まりなく、金の方も長続きする訳がない。一刻も早く、新居を見つける必要があった。
「おっきい家!3階建てのここにしようよっ!!」
「ご主人さま、タワーマンションとやらにしてみましょう!」
俺の背後で騒ぐ幽霊と悪霊。こいつらには金銭感覚というものがないのか。何千万、いや何億すると思ってんだ。ただでさえ金がないのに贅沢は言ってられない。
「あの、どんな物件でもいいんで、とにかく安くて直ぐに入れる物件はないんですか?」
「うーむ、激安とおっしゃいましても、お客様のご予算ではなかなか・・・いや、そういえば・・・。けどあそこは・・・なぁ?」
迷った様子で、近くの同僚に同意を求める店員。どうやら、『訳あり』な物件があるらしい。
「えぇっとですね・・・この辺りの物件の平均家賃を大幅に下回る家賃の物件が、あるにはあるのですが・・・その、言いにくいのですが・・・『出る』物件でしてね。入居された方は、みなさん1週間と持たずに出て行かれるんですよ。」
「その、『出る』というのは俗にいう、心霊現象・・・のことですか?」
「はい。信じられないかもしれませんが、こちらも原因が分からず困惑している状況なんです。築年数も最近のマンションでして、隣室の住人に問題がある訳でもなく、ましてや過去に事故があった訳でもないので告知義務はないのですが、こうも立て続けに退居する方が続くと・・・なので、確かにお安くなっておりますが、こちらとしてもおまりお勧めは・・・」
「ここにします。」
「えっ」
面食らった表情を浮かべる店員。それもそうだ、訳あり物件と聞いて即決するような変な客はそうそういないだろう。少し前の俺だったらこんな怪しい物件など絶対選ばなかった。そう、幽霊たちに憑かれるまでは。隣の部屋に殺人犯でも住んでない限り、今の俺に怖いものなどない。
「と、とりあえず、物件までご案内致しますね。」
「はい!お願いします。」
借りる気満々の俺の返事に若干押され気味の店員は、『ほんとに大丈夫かな・・・』といった表情を浮かべて車へと促した。
「新しい家を見に行くんだって!楽しみね!悪霊っ」
「そうですねっ!この悪霊、早く新しい城を見たいのです!」
こうして、俺たちは意気揚々と新居見学へと向かうのだった。




