夜明け
「ふぇ?なに?っていうか見たことない人がいるんですけど。っていうか頭痛い、ちょっと誰かお酒持ってきてー!迎え酒するから。」
どうやら怨霊さんは寝起きで状況がわかっていないらしい。というか、迎え酒ってなんだよ。まだ飲む気かよこのアル中が。
「怨霊さんっ!今時間がないんです、どうでもいいんでとにかく合図したらあそこの窓のヒビに向かって攻撃してください!ヌイって奴を撃退した時みたいに!」
ズゴッ!!!!
「ぎゃああああああああああああっ!!手が!手が!」
「あわわわわ・・・ご主人様ぁー・・・は、はやく・・・」
幽霊と悪霊が慌てふためく。音がした方を見てみると、一瞬でヤバさに気づく。ドアと、それを塞いでいたベッドを貫通して、禍々しいオーラを放つ手が攻撃してきたのだ。魔界からの化け物とやらが、とうとうすぐそこまで迫っている。
「げ・・・なにアレ・・・?」
「怨霊さん!はやくしないとアレが入ってきちゃうんですよ!とにかく、怨霊さんが最後の希望なんですよ!今度いくらでも酒奢ってあげるんで、お願いします!」
「ホント!?よっしゃー!約束だからね!」
酒のことになるとホントに行動力が違うな。恐らく、怨霊さんの力の大部分は酒が関係しているのだろう。
「ヌイはこんなのにやられたのか・・・まぁいい。おい、ヌイ聞こえるか!こっちはなんとかなりそうだ!合図と同時にもう一度全力攻撃だ!!」
『はい!分かりました!・・・先ほどの戦闘と私の攻撃の爆音で、この辺り警察だらけでして、いま職質から逃げてるんで、チャンスは一度きりっぽいです・・・!!』
ズゴッ!!!!ズゴッ!!!!ズゴッ!!!!
「早くーーーー!!突破されちゃうよ!!!」
絶対に俺たちを逃がさんと言わんばかりの勢いで、ズボズボとベットを破壊している魔界の化け物さん。完全に俺たちを殺しに来てる。
「いくぞっ!今だ!!」
「おりゃああああああああああっ!!!!」
師匠の号令と共に、怨霊さんは窓のヒビに向かってパンチを繰り出す。俺が想像していた霊力を込めた攻撃とは違って、普通に殴ってるだけのように見えるが、さすがは怨霊さん。その脳筋ぶりは確かで、繰り出したパンチは一撃で窓を破った。同時に、目がくらむような閃光と共に爆風に吹っ飛ばされる。
「うおおおおっ!?」
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鈍い痛みで目が覚める。ゆっくり周りを見渡してみると、朝日に照らされる俺の部屋とあちこちでひっくり返ってる幽霊をはじめとする霊たちと師匠。どうやら、脱出は成功したらしい。外からヌイがこちらに近付いてくるのが見える。
「いててて・・・ったく、やっと脱出できたか。おーい、お前ら起きろー。いつまで伸びてんだー・・・おいおい嘘だろ・・・。」
立ち上がって初めて気付く。室内はメチャクチャ。そして、俺のアパートのベランダは跡形もなく消えていた。やばい、壁に傷付けちゃったってレベルじゃねぇぞこれ。賃貸なのにどうするんだこれ・・・。