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異世界から来た青年はどうやら無双するようです。4

「それでは、お待ちかね。本日4度目の対戦!先ずはライトコーナー、今回が初出場!能力も不明!どんな戦法を使うかも不明!見事初戦を突破し、その名を焼き付けることは出来るのか?!」

  

それを合図に、レベスはよしっ、と気合いを入れ、拳を握る。


自分に噴射された煙から、1歩踏み出したその先で、歓声、期待、はたまた弱そうだ、変な格好だな、などと罵られ、その両方を聞くと、どうしてもニヤついてしまう。罵倒されたいとか、期待されたいとかいう願望があるからではない。ただこれを、この風景を見ると俺の筋肉が、血が、脳が痺れ、笑えと強制する。

闘え、闘え。

体中に響くその声と、痺れを俺は知っている。根拠はないが、知っているのだ。


レベスは初心者のソレではない位、戦場の真ん中で、堂々と立っていた。


「そしてレフトコーナーは、コイツ!」


白い煙の中から黒いローブを着たマルカが鎌をクルクルと回し、それを肩に担ぎ、登場した。


「一瞬でも気を抜けば、その武器からは考えられないほどのスピードで迫り、一撃で相手を狩る!!その姿から死神のマルカと恐れられている!!!さぁ、新人レベスはどう立ち向かっていくのか?!」


レベスとは違い、マルカはここで有名なのか、新人を潰せ~!!やら、ここの厳しさを教えてやれ~!!などという声が多く聞こえ、レベスは改めて、この対戦の厳しさを知った。


「制限時間はなし。相手を気絶させる、又は次の動作で完全に相手を殺せる状態にした方の勝利となります。それでは、誓約をこの手に____」

「「誓約をこの手に!!」」


マルカは手首に、レベスは左胸の辺りに魔法式が浮かび上がり、対戦が始まる。


「俺ァ、手加減はしねぇ。覚悟しとけよ。」


カチャリ、マルカが鎌を構え、脚に力を入れ、体勢を低くし、戦闘態勢に入るとじりじりと殺気が放たれる。これがあらゆる戦闘をくぐり抜けてきた者だ。過剰な自信、相手に対する罵りはなく、ただ静かにその時を待つ強者。それは、見る者を魅了する芸術のように美しく、獲物を狩る前の獣に等しかった。


「それはコッチの台詞なんだけど・・・・。」


レベスが軽く挑発すると、マルカは目を見開いた後、ガハハハ、と盛大に笑う。マルカが笑うこと自体珍しいもので、レベスを悪く言っていた客も、しん、と静まり返る。


「肝の据わってる男は嫌いじゃねぇ。まぁ、お前は強くなるだろう。俺を前にして挑発してくるような奴はそうそういねぇからな。だが、今回は諦めろ。俺が敵なんでな。」


レベスはマルカの言葉に聞く耳を持たず、マルカの死神が持っていそうな格好いい鎌にどう対抗すべきか、迷っていた。


うーん、でっかい鎌の懐に入ってるなら、短めの、軽いのがいいけど、俺は刀にしたい。これは譲れない。となると、短刀か・・・・。だがそれで勝ったとして、なんて言われる?絶対“チビ”助とか“チビ”太郎とか、“チビ”レベスとか言われるぞ。うん。ということは、コレはボツ。スマートに決められて、尚且つあいつよりも格好いい武器ではならない。つまり、コレしかないだろ____


レベスは右手の平をマルカに向け、ぐっと力を込める。更に、左手の平を下に向け、右手のある方へスライドさせ、その手が付くと、両方で拳を握る。そして、それを腰に差し、うっすらと見える鞘から抜き出し始めた。


「【先陣を切れ、罪を重ねろ、汝、血塗られし鬼なり】」


鞘からチラリと見えた刀身のアカを確認すると、レベスはニヤリと笑い、名前を呼んだ。


「さぁ、敵を蹴散らせ。【夜叉刃丸やしゃじんまる】!!!」

「確かに格好いいけど、全然スマートに殺れる武器じゃないし・・・・」


ティルはレベスに呆れながら言った。

それもそのはず。手際よく決めるには、やはり、敵の懐に入るのが一番だ。だが、レベスの刀は、腰に差されていた鞘でも到底長さの足りない、三尺(約90㎝)の大太刀だ。

柄は闇を表すような漆黒、刀身は鮮やかな血のあかつばには、三日月の中心部につるぎが刺さっている絵が彫られている。

ところで、皆さんお忘れかもしれないが、ティルは意識すれば心の声が聞くことが出来る(レベスは何もしなくても勝手に聞こえてくるが)。そのため、レベスの脳内妄想や欲望など全て、意思が強ければ強いほど鮮明に見えるのだ。

レベスが鞘から刀身を全て出すと、レベスの背中にソレ用の鞘が現れ、カチャリ、と装着された。


「なかなか面白ぇモン、出すじゃねぇか。何だ?その刀は?」


レベスの持っている、夜叉刃丸から溢れ出る禍々しいオーラに、マルカは少し恐怖し、鳥肌を立て、タラリと汗を流した。恐怖される側の死神が、同じく恐怖される側の夜叉に負ける。つまり、見かけでは既にレベスは勝利しているのだ。その様子を見た観戦者達は、マルカに向け「勝負は決まってないぞ!!」などと叫んでいた。

たかが刀一振りの威圧に畏縮したところで勝負は決まらない。確かにそうなのだが、その威圧によって、コンディションの低下や、その威圧自体にやられる者も多々いる。これらを少しの身震いで済ませたマルカの強さは、ここで証明されたと言ってもいい。

刀と鎌を交えずとも互いに互いが強者であることを知り、喰らう側であることを知り、対等であることを知った時、2人は考えることを止め、本能のままに行動を開始した。


カキン


先に仕掛けたのはマルカだった。大きな鎌を振り上げ、レベスに勢いよく迫り、その首を狙う。だが、レベスも負けてはいない。マルカの鎌をわざと避けず、正面から堂々と攻撃を受けた。


「おい、今の避けられただろ。何でお前は避けなかった?」

「そんなこと、聞いてどうするんですか」


互いの武器が衝突し、その衝撃でフィールドの砂煙が立ち込める中、2人は未だ、引こうとはせず、キリキリと武器を鳴らした。

レベスは、マルカの突然の問に対し、俺に言わせるなとでも言うように口角を上げ、声を出さず笑う。レベスのその反応に、マルカもフッ、と薄ら笑いし、「愚問だったな。」と言うと、レベスは先程とは異なり、一瞬、満足したように微笑み、再びマルカを挑戦的な目で見た。


「まぁ俺、おとこ、なんで。」

「生意気言う奴だな。その口、今すぐ何も喋れないようにしてやる!」


一旦離れては構え、ぶつかりにいく。これを何度も繰り返し、ぶつかりに行った後も、激しい攻防が繰り返され、マルカとレベスは息を切らす。


「そろそろ、決着、と、いこうじゃ、ねぇか。お前が死ぬか、俺が、死ぬか。」

「そう、ですね。」


只でさえ扱いが難しく、重量もある武器を長時間使用し続けたマルカには、疲労が溜まり、そろそろ限界という所まで後一歩だ。


「あの~、闘いに燃えているところ大変失礼ですが、その・・・・殺しは無し、というルールなので、もし万が一相手を殺した場合は________お2人ともあの世逝きですので♡」


審判は笑っていたが、その笑みは酷く恐ろしいもので、最高潮に達していた観戦者を一瞬にして鎮めた。勿論、対戦中のレベスとマルカもそれに鳥肌がたった。


「そう言えば、そんなルールあったな。楽しくて、そんなこと忘れちまってたぜ。」


その声に、誰もが死神を疑った。マルカが死神と恐れられる由縁は、黒いローブに大きな鎌、という格好もあるが、元々、どんな者であろうとその者が死期を迎えたように、静かに戦いが終わることからなのだ。笑わず、楽しまず、淡々と作業をこなすような、そんな姿から。


「来い!坊主!!」

「・・・・。」


レベスは、今までで一番速く走り、とても愉しそうにするマルカをの顔を横目に見、マルカの反応が追い付かないうちに後ろへまわり、マルカの大きな鎌を右脚で蹴り飛ばしてから首に大太刀を軽く当てた。

つぅ、とマルカの首からは血が流れ、ついに戦いは終わりを告げた。


「勝者、レベス!!ルーキーが死神を破った!!!」


なにが起きたか理解仕切れずにいた観戦者達もその言葉を聞き、理解すると、一気に湧き上がった。












誓約を果たすため、対戦を終えたレベスとマルカは、対戦前に訪れた部屋にいた。


「まぁ、これで俺の経験値は無くなった訳だが、そんなもの、一体なにに使おうってんだ。」

「いや、俺、弱いっすから。今回もギリギリでしたしね。といってもまぁ、こうやって強くなろうとは考えてませんから今後一切こんなことはしません。」 

「面白いことを言うな、坊主。汗一つかいてなかった癖に。余裕だったんだろ?」

「さあ?あと俺、坊主じゃないんで。」


そう言ってレベスは自分の髪を指差し、マルカに背を向け、ティルのもとへ帰って行った。

マルカはというと、レベスとティルがふざけ合っているのを確認すると、一言だけ、ふっ、と微笑み呟く。


「本当に生意気な野郎だ。」


と。


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