異世界から来た青年はどうやらピエロの親殺しをお手伝いするようです。7
燃える舞台に、泣き叫ぶ観客たち。次々と奪われていく命に、笑ってそれを奪っていく1人の男。
「こんなの、俺は望んでいなかったのに・・・・・。」
急いで駆けつけたレベスとティルの目に映ったのは、感情を表に現した、一筋の涙を流すクラウンの姿だった。
※ ※ ※
遡ること5時間前
「ルイ、ラン、オーナーがお呼びだ。至急オーナーの部屋に来るように。だそうだ」
「了解しました。」
このタイミングでの唐突な呼び出し。やっと彼は重い腰を上げたのかと、クラウンは無意識のうちに口角を上げていた。
「・・・。ラン、悪いが先に行っててくれ」
「いいですけど、ルイはどこへ?」
「野暮用だ。」
「野暮用、ですか」
クラウンに疑いの目でじっと見つめられ、思わず視線を逸らしたティルは、しまった、と思っていたが、すぐにわかりましたという声を聞き、安堵した。
そして、ティルは練習場へ、クラウンはオーナーの部屋へ歩いていった。
※ ※ ※
「・・・・・。えっと、ルイさんがどうして僕のところに?」
練習場にはレイズがポツンと1人、練習に励んでいた。
ティルは未だお手玉2つでも操ることが出来ていないレイズの元におり、たまに右から左へ移すことができているところを見ると、僅かだが、上達しているのが伺える。
そんなレイズを、ティルはただ無言でじっと見つめた。
「もしかして、僕のこと_____」
「脳内に花咲かせる前に、お前の手に花をだせ」
ティルにそう言われたレイズは右手をティルに向け手を伸ばし、パチン、と指を鳴らすと、レイズの右手からは真っ赤な薔薇が一輪現れた。
薔薇が現れたのを確かめると、いたずらっ子のような笑みを浮かべ、決め台詞のように言った。
「こんな風に、ですか?」
「いつの間に・・・・。」
「徹夜してマスターしてやりましたよ!」
「そうか。ところで、どうやってこのサーカス団に入団したのよ。経験の無いスケベくん?」
レイズはティルのその言葉を聞いた途端、顔面蒼白になり、目を泳がせた。動揺しているのは丸分かりである。
「それは、その言葉は・・・・。ま、まさかあなた_____」
「鬼畜なお姉さまですね!」
その瞬間、レイズはティルから顎に一発お見舞された。それもそうだろう。今の格好では、そもそもティルは男である。練習場にレイズ1人だけだったからいいものの、人前で“お姉さま”はたまったものではない。
さらに、“鬼畜な”を付け足すことによって、その言葉のエロさは倍増。そして、ティルの怒りも倍増である。
「お姉さま、やっぱり鬼畜・・・。」
「もう一発、逝っとくか?」
「字が、字が違うように見えるのですが」
「気のせいだ」
もはや、お姉さまには反応せず、鬼畜という言葉に反応し、怒りを剥き出しにしている。だがそれも、レイズの一言で、呆気なく終わりを告げた。
「で、何のようですか?ティルさん?」
「気付いてたの?なら早く言ってくれればよかったのに_____レベス。」
「そっちも気付いてたのか。ティル」
「だって、分かり易すぎだったし」
互いの名を呼び、確かめ合うと、2人は柔らかく笑った。何だかんだ言っても、やはり、信用する者と久しぶりに会うと、長く保っていた緊張感も溶けてしまうということだ。
「ところでさ、レベスがレイズだったってことは、あの歌もレベスが?」
「そうだけど。何だ?」
「いつからわかってたの?」
「気がついたのはティル達がサーカス団に入った後。俺も何か出来ないかな~って事で、取り敢えずサーカス見に行ってたんだよ。色んなところのな。そしたらさ、あの時の違和感の正体がわかったってわけ。違和感の正体に気付いてからは簡単だった。何で人じゃなきゃいけないのかとか、どうして独り身のやつだけを狙うのかとか、色々な」
レベスも怠けていただけではないと知ったティルは、一応レベスもニートやってた訳じゃないんだ。などなど様々な面で関心していた。
「っていうか、違和感って?」
「あぁ、俺言ってただろ?初めてあのサーカス見たとき、呼ばれて、演目手伝わされた後の10人の客に違和感があるって。」
「そう言えばそんな事言ってたような・・・。」
「普通、どんな人間でも知らない奴の動きを同時にする事なんて無理だ。それも、結構な距離がある、な。それなのに、あの時の10人も、俺が何回かいって、観てたときの10人も、皆同じ動きをしてたんだよ。笑顔で、手振って。しかも気味悪いくらいタイミングもぴったりあってたし」
「でさ、あの歌の意味は?まぁ、だいたい予想はつくけど。」
あの歌、とは以前、レベスがレイズとしてやってくる直前と、クラウンにしごかれている際、つくったもののことだ。
もう一度おさらいすると、
やっとこさ、劇の幕開けです。
妖精さんはいりません。
悪魔も神も、入場禁止。
欲しいのは、人。
そう人だけです。
だけど身体は要りません。
欲しいのはその身に流れる、美味しい、美味しい、ジュースだけ。
ほら今日も、そのジュースを力の源に、黒い道化師が皆を笑わす。
おかしな格好1つしないで、皆を笑わす。
これが1つ目。つまり、レイズとしてやってくる前に、ぼそりと呟いた歌。そして、
とってもとっても美味しいジュース。
僕だけじゃとてもじゃないけど飲みきれないや。
でも皆にはあげたくない。
だから、ジュースをあげない代わりに、笑わせてあげる。
ずっと、ずっと。
あれあれ皆がいなくなった。
僕を残してみんなみんな、いなくなった。
お家に塗られてた白もなくなって、真っ黒に染まった。
だけど、それは皆を笑わせるための代償。
見たこともない夢を見せる為の代償。
これが2つ目。クラウンにしごかれている最中につくったものだ。
「最初はわかるだろ?んで、欲しいのは人のその身に流れるジュースってのが魔力だ。あっ、黒い道化師はあのオーナーな。お家は今俺らのいる建物のこと。真っ黒に染まったっていうのは、この建物の外側を見ればわかる。真ん中にあった、太陰太極図の白丸と黒丸が無くなってたあの柄、もう真っ黒になってる。まぁ、オーナーが人だったが故に、人の魔力を欲したって事だな。」
「説明下手だね。レベスって。結局何が言いたいのかわかんないし」
つまり、レベスの言いたいことを要約するとこうなる。
オーナーがあの規模の建物を小さな家に見せるという大掛かりな幻術をかけ、保つには大量の魔力が必要不可欠であり、それを独り身である、死んでもわからないような人の男女に貰う。と言うことだ。
「う、うるさいなぁ」
レベスは顔を真っ赤にさせ、それを見たティルは嘲笑った。
一時の平和がそこにはあった。
※ ※ ※
「やぁ、久し振りだね。ラン。いや、クラウンと呼んだ方がよかったかな?」
「・・・・。はい。」
こちらも、笑みを貼り付けた2人が感動的、とは言えない、寧ろ、敵をみるように対面していた。
※私事により、次話の投稿は5月21日(土)の午後10時になります。その翌日の日曜の投稿についてはこれまで通りに行います。
ご了承のほど、どうか宜しくお願い致します。




