鬼を斬りしもの 【オニキリ】(※)
「もし……そこのお武家さま……お助けください……持病の癪が……」
「オレ?」
声をかけられても、最初わからなかった。
『お武家さま』がオレだとは思わなかったし、目がよく見えなかったんだ。
太陽は沈みかかっており、辺りは薄ぼんやりとした明るさだ。
オレは橋の上に居た。
キョウ都の中の、通りと通りを結ぶ橋だ。
よく見れば、橋の欄干のとこに女の人がうずくまっている。
大きな草の笠を被っており、そこからカーテンのように白い半透明な薄絹が垂れている。顔や衣装を覆っているが、青紫の綺麗な衣装と美しい黒髪がおぼろげに見えた。
辺りに人影はない。
街は静まり返っている。
ジパングの人達は、夕方にはもう家に籠ってしまうのか?
今、世界にはオレとこの女性しか居ないみたいだ。
あれ?
お師匠様は? ジョゼやサラ、マリーちゃんにカトリーヌも居ない。
……オレ、新しく仲間を増やしたはずなんだが。
誰……だっけ?
思い出せない。
妙に頭が重い。
「あぁ……」
女の人が苦しそうな声を漏らしてお腹をおさえ、更に小さくうずくまる。
「大丈夫ですか?」
急ぎ駆け寄った。
正義を貫き、弱きを助け強きをくじくのが、勇者だ。
苦しむ人間を前に何もしないなど、勇者道に反する。
「急なさしこみで……」
お腹が痛いみたいだ。
どうしよう?
薬なんか持ってない。ちょっとした病気や怪我なら…………が治してくれるから……
あれ?
…………って誰だっけ?
「あぁ……すみません……」
女の人はせつなそうな声を漏らす。
「背を……」
背を?
「さすってくださいませ……」
おっけぇ。
オレは、しゃがみこんでいる女の人の左側に寄り添い、背にそっと手をそえた。
さらっとしていて、もこっとした感触。
ジパングの人は着物を重ねて着ている。服の上からさすっても、あまり楽にならないんじゃないか?
フラッと女の人が前のめりに倒れそうになる。
「危ない!」
その体を支えた。着物のせいか、けっこう重たい。でっかい笠が頭にのってるから抱えづらいし、顔が見えない。
「ありがとうございます……」
「大丈夫ですか?」
女の人が弱々しく頭を振る。
どうしよう?
「うっ……」
女の人がのけぞって倒れかけたので、支え直した。
肩から重たげな首にかけてを右手で、腰のあたりを左手で支えた。仰向けに倒れかけていた女性を抱えあげたような感じになった。
笠から垂れる薄絹のせいではっきりとは見えないが……
整った顔立ちをしている。
切れ長の黒い瞳、細面の顔。
それに唇が……赤いんだ。
苦痛にあえぐ口がほのかに開き、艶やかな色の唇がひくひくと動いている……
ドキンとした。
女の人の手が、ゆるやかに動く。
首筋へと伸びた両腕が力なく落ち、オレの肩や胸に弱々しく触れてゆく。
しっかりと支えてあげた。
「お武家さま……お名前は?」
「ジャンです。異世界から来ました」
「ジャンさま……」
女の人が微かに微笑む。苦しそうな顔が、ほんの少し和らぐ。
「ミナモトの御大将のお客人ですね……?」
「ミナモトの大将?」
「……ヨリミツさま」
ヨリミツ……?
「赤き大鎧の武人」
ああ……
あれ、か。
サラを妖鬼の大将と決めつけて、斬りかかってきた奴。大鎧着てるくせに、ぴょんぴょこバッタみたいに跳ねてた侍。
そうだ……オレ、あいつの屋敷に招かれてたんだ。
その屋敷で、何か事件が……
頭がボーッとする……
「客人……なのかな? 屋敷に招かれたけど……知り合いなのは巫女さんの方だし……」
「マサタカさまのお知り合い……御一行、皆さまがマサタカさまの手の者にございますか?」
「いや……関係あるのはオレとお師匠様だけ……」
「あの赤髪の女性のことを教えてくださいまし」
サラの面影が浮かぶと、心が乱れた。
焦燥感にさいなまれる。
だが、一瞬のこと。すぐに頭は白いもやに覆われた。
「サラは……幼馴染の……魔術師だ……得意魔法は炎……」
それからオレは問われるままに、サラの事を語った。
隣に住んでいた幼馴染サラ。
おさげ髪で、裾の短いアンダードレスをはいていた。その格好で木登りもチャンバラごっこにも参加する男勝りな奴だった。
でも、とても優しかった。弱い者は守ってやるってな姉御肌だった。内気でひっこみじあんなオレの義妹が、子供の頃、家族以外でまともに口をきけたのはサラだけだったんだ。
オレが勇者見習いとなってからは、剣だ格闘だ魔法だと修行をつみ、オレの戦力になろうとしてくれたらしい。
まだ初級魔法すら扱えない時に無理やり仲間にしちまったのに、あいつは頑張っている。オレに怒鳴ったり、泣きごとを漏らしたり、八つ当たりもしたけど……前進を続けている。魔法を覚え、どんどん力量を高めている。
才能が覚醒すれば、あいつは大魔術師級の実力があるらしい。
けど、そこまで成長しなかったとしても構わない。
サラの努力は知っている。
感謝してる。
サラは、とてもいいヤツなんだ。
「……さようにございますか」
いつの間にか、女の人は橋の上に正座をして座り、オレと向き合っていた。もう苦しんではいない。穏やかに微笑んでいる。
「お二方のこと、ようわかりました。情の強いあの方も、幼馴染のあなたさまの言葉ならば聞きましょうな」
とても嬉しそうに女の人が笑う。
何か頭の中でムズムズした。
この女、サラに会った事があるような口ぶりだが、いつの事だろう……?
女の人がオレの手を取る。
「ジャン様……家まで送っていただけませんか?」
家に……?
ああ、そうだ、この女、具合が悪かったんだ。送らなきゃな。
「いいですよ……お送りしましょう」
女の人が微笑む。笠から垂れる薄絹が半透明なカーテンみたいなんで、おぼろげにしか見えない。でも、とても綺麗だ……
誘うように微笑む唇が肉感的で……
オレのハートはキュンと鳴った。
心臓の鼓動がどんどん速くなる。
萌えてしまいそうだ……
「私の家に参りましょう、ジャン様……美女も美酒も馳走もお望みのままに……」
お腹がすいた気がした。
「うふふ」
手だけじゃない。腕も体も女の人が優しく撫でてくれる。
気持ちよくて、更に頭がボーッとする。
この女の人の家には美女が居るのか。オレは美女に会いに……いや、伴侶探しにこの世界に来たんだ。
美女には会いたい。
だけど……
オレの仲間達は何処なんだろ……?
……みんなと合流しなきゃ。
「……ここから近いんですか……?」
遠くへは行けない。
オレは……皆と一緒に仲間探しをするんだ……
みんなは何処なんだ……?
女の人が魅惑的に微笑む。
その色香にめまいがした……
息が苦しくなる……
女の人の美貌に誘いこまれたようだ。もう彼女しか見えない……
「すぐ近くです……みなさま、もう私の家においでです。さあ、ジャン様も早く」
オレのハートがキュンキュン……しそうになった時だった。
耳をつんざくようなサイレンが鳴り響いたのは。
『警告! 警告! 血圧・心拍数上昇。脳波や声紋に乱れを確認しました! 間もなくあなたは萌えてしまいます!』
音はオレの胸元からしていた。
ポケットに手をつっこんで中身を取り出した。
小さな機械。
それが、空気まで振動する騒音をがなりたてているんだ。
女の人も耳を覆っている。
『注意一秒、萌え一生! 相手をよくご確認ください! その方、100万以上のダメを出せそうですかー?』
やかましい声が誰のものかわかった。
ルネさんだ。
機械のスピーカーからはサイレンとルネさんの声がわんわん流れ、モニターに『萌え注意!』の文字が点滅していた。
『萌え萌え注意報くん』だ。オレの心拍数やら血圧等から間もなく萌えそうだと注意してくれる機械。不用意に萌えちゃいけない時に携帯するといいなと思ったんだけど……うるさすぎだろ!
さっき女の人がオレにさわさわした時に、スイッチが入っちゃったんだな。
オレはそれのスイッチを切り……
あれ? と、思う。
オレは何時、これをポケットに入れたんだ?
『ルネ でらっくすⅣ』をお師匠様と一緒に調べた記憶が甦る。
そうだ……寝ていたはずのサラが起きてきて、部屋が真っ暗になって……
サラが……
「サラ……」
思い出した、オレは……
サラを取り戻しに行こうとして、マサタカさんに止められたんだ。
討伐隊に加えられないか、巫女部隊預かりにできないものか、ヨリミツにかけあうから少し待ってくれ、と。
マサタカさんは、ご先祖に三十九代目勇者を持つ。オレがあと七つの世界に赴き五十四人の女性を仲間にしなきゃいけないんだって事情も心得てくれている。
だから……すぐにも鬼ケ城に行きたかったが我慢した。マサタカさんを信じて、彼女のを帰りを部屋で待っていたんだ。
なのに、なぜ……?
今、オレはこんな所に居る……?
外に出た覚えはないんだが……?
オレは相手を見つめた。
薄絹の下の顔をよく見る。綺麗な顔立ちだが、どこか違和感がある。何か……変だった。
女の人が美しい顔を歪ませながら、ものいいたげにオレを見つめる。
その目が光ったような気がした……
その時、パリィィィンと音が響いた。
橋の反対側に、刀を抜いた赤侍が居る。精霊すらも斬った太刀を振り下ろした姿勢で。
「鬼の気配を感じてくれば……」
赤い大鎧の侍が、お面のような顔で女の人を睨む。
「また貴様か、イバラギ」
「その言葉、こちらから返してやろう。また貴様か、ヨリミツ。貴様の相手はもう飽いたわ」
女の人が唇の下で結んでいた紐を解き、薄絹つきの重たげな笠を外した。
笠の下から現れたのは……老婆のような白髪だった。
黒々としていた美しい髪が、笠を外した途端、真っ白になってしまったんだ。
だが、顔は変わっていない。若々しい艶やかな美はそのままだった。
イバラギ……?
頭の中のもやが一気に晴れる。
イバラギ童子は、シュテン童子の部下。妖術使いだ。
昨晩、サラをさらった誘拐犯じゃないか!
オレまでこいつにさらわれかけていたのか!
イバラギが妖しく笑う。
オレは腰の魔法剣を抜こうとした。
しかし……手はスカスカと宙をつかむばかりだった。
腰に剣がない! 丸腰だ!
ならばと、精霊に呼びかけたんだが、誰一人現れない。
剣を探していた手が腰に触れる。ベルトがない! 飾りのイエロージェードが、土の精霊サブレとの契約の証なのに!
そのまま、首、腕、両胸の辺りを触る。
首のペンダントも、両腕のブレスレットも、左右の胸につけてたブローチもない!
風の精霊、雷と氷の精霊、光と闇の精霊との契約の証も綺麗さっぱり無くなっている!
イバラギが左の掌をあげる。さし示した先の宙に、オレの六つの宝石と魔法剣が浮かんでいた。
「グラキエス様、ルーチェさん、サブレ、エクレール、ソワ」
精霊達は応えない。
手を伸ばしたが、あとちょっとで届きそうなところで剣も契約の証の宝石も消え失せてしまった。転送魔法だ。
何もつかめずに、勢いのまま、オレは二、三歩よろけた。
イバラギが声をあげて笑う。野郎の声で。
くそぉ! 盗賊め!
さっき触った時に盗ったんだな!
「我が部下となるのなら、返してやってもいいぞ、異世界の勇者」
誰がッ!
てか、オレ、もうちょっとでおまえにときめくところだったんだ!
男を伴侶とか……。
ありえない!
絶対、許さねえ!
ぶっ倒す!
「サラは、無事なんだろうなッ?」
「赤髪の女ならば、シュテン様のもと」
白髪鬼は、下卑た笑みを口元に浮かべた。
「我が主人のご寵愛を受けておるわ」
頭にカーッと血がのぼった。
拳をもってイバラギに挑む。が、オレの拳も蹴りも、体をわずかに動かすだけで鬼は難なくよける。
ジリジリと距離をつめてきていた赤侍が、そこで急に駆け出す。
長い白髪をなびかせたイバラギが、赤侍めがけ笠を投げる。
赤侍は高々と跳躍して笠を避けた。昨晩、投げつけられた仕掛け玉は大量のノミ入りだった。不用意に斬りたくなかったんだろう。
橋に降り立つや赤侍は走り、一気に鬼との距離を詰めた。
イバラギは不敵に笑ったまま、動かない。
「塵となれ」
赤侍は白髪の鬼へと太刀を閃かせた。
鬼が頭から両断された!
そう見えた時には、まばゆい光と風圧が襲ってきた。
オレは橋の欄干に背からぶつかった。
イバラギの嫌な笑いが耳をつく。
「幻術だ、ヨリミツ。我と思い、火薬玉を切ったのだ」
イバラギの声が遠い。
顔をあげたが、目がよく見えない。
「何であろうが斬ろうとする貴様が愚かなのよ」
赤侍は答えない。
どうなってるんだ?
怪我を負ったのか、気絶しているのか……まさか、死んだ……?
《もし……勇者さま》
声が聞こえた。
《お助けください》
声のする方へと顔を向けると、にじんだ目に白く輝く光が見えた。
《あなたならば、私に触れられます……どうか共に戦ってくださいまし》
誘われるままに、オレは光へと手を伸ばした。
「あなたは……」
《刀の精にございます》
はっきりと見えない目に、白い着物の女性が映る。結いあげずに垂らした長く美しい黒髪、白小袖に白い袴。目尻の下がった、愛らしい顔立ちの女性だ。はかなげな美貌って言えばいいのだろうか。口元には静かな笑みをたたえている。
オレの手が彼女に触れる。
手ざわりは固い。木の柄を握った感触だ。しかし……
《ああ……》
可憐な女性が、顔をのけぞらせる。
《凄まじい気が……私の中に……》
苦しそうにあえぎながら、その顔はどこか嬉しそうだった。
《さすが勇者……只人とは……まるで……》
身悶えるように体をくねらせ、女性がオレへと微笑みかけてきた。
《あなたならば、私は使いこなせましょう……鬼とて斬れます》
眉間に皺を寄せ、唇をわななかせながら、女性が微笑む……
《持ち手の意志が私を鋭くします……斬る、とだけお望みください。強靭な意志に、斬れぬものなどありませぬ……》
《共に参りましょう……今、私はあなたのものです……》
肉感的な、なまめかしい笑みだった……
オレのハートは、キュンキュンと鳴った……
心の中でリンゴ〜ンと鐘が鳴る。
欠けていたものが、ほんの少し埋まっていく、あの感覚がした。
《あと五十三〜 おっけぇ?》
と、内側から神様の声がした。
女の人の姿が、遠のいてゆく。
オレの右手は、太刀の柄を握っていた。
赤侍の武器だ。火薬玉にはじかれ、オレのすぐ側にそれは落ちていたのだ。
拾い、構え、走る。
橋の上に倒れる赤侍の横に、白髪の男がしゃがみこんでいる。聞き取れない言葉で何かをつぶやいている。術をかけているのか。
気配に気づき、奴が顔をあげる。
だが、遅い。
オレは刀を振り下ろした。
しゃがんでいたくせに、すぐさまイバラギは後方に跳んだ。重さを感じさせない動き。魔法の助けを借りているんだ。
オレが斬り落としたものが、橋へと落ちる。
青紫の着物の袂。奴の服の片袖を斬り落としたようだ。
刀をすばやくひるがえして追いかけ、二刀目をあびせてやろうとした。
が、そこにはもう奴の姿は無かった。
周囲を見渡した。が、何処にも居ない。
移動魔法で逃げたのか?
辺りを覆っていた薄闇が消え、陽光を感じた。夕方だと思ったのすら、幻影だったのか。
オレは橋の上にたたずんでいた。
すぐそばに倒れている赤侍には、見たところ外傷ないようだった。気絶しているだけみたいだ。
オレは赤侍を背負った。赤い大鎧を着ているのに、全然、重くない。その体は不思議なほど軽かった。刀同様、鎧も魔法武具なのだろう。
「明日より、私ヨリミツはミナモトの大将として、郎従家人千二百騎を伴いシュテン討伐に旅立ちます」
赤侍ヨリミツの顔は、非常に親しげなものとなった。敵意は綺麗さっぱり消えたし、侍大将然とした偉そうな顔をするのもやめた。
「なれど、その日のうちに影武者と入れ替わり、私は軍勢より離れます。というのも、忍びのものの報告によれば、」
ジパング界に不慣れなオレの為に、ヨリミツが地図を指差し説明する。都の北のオオエ山、そこに鬼ケ城がある。
「シュテンめは、堅固なる鬼ケ城を離れ、少数の手勢と、オオエ山の奥に連る嶽の岩屋に籠っておるとの事。敵の注意を進軍に向けさせている間に、よりすぐりの勇士と共に岩屋を襲う策をたてております」
ヨリミツが笑みを浮かべ、オレを見つめる。
「勇者様もご一緒くださいまするか? 共においでいただければ百万の味方を得たも同然」
連れてってもらえるのは、ありがたい。
「副将イバラギの居場所は、鬼ケ城か岩屋か不明。なれど、真の宝物はシュテンのもとに集いますゆえ、勇者様の武器も宝玉もおそらくはシュテンの元かと」
サラも精霊達も剣もシュテンの元か。
早く駆けつけたい。
『赤髪の女ならば、シュテン様のもと。我が主人のご寵愛を受けておるわ』
オカマ野郎の言葉なんか信じない。性格の悪い白髪鬼は、オレをからかったんだ。それだけだ。
サラは無事だ。
無事に決まっている……
「オレの仲間も共に連れて行ってもらえますか?」
そう頼むとヨリミツは、チロリとジョゼ達を見渡した。身分の高い者が下々の者を見る時のまなざしで。
「勇者様のお望みとあらば否は、ありませぬ」
そう言ってから赤侍は、オレに対しては艶めいた笑みを向けてきた。
「あなたのお言葉は、天子様の勅令に次いで貴きもの。どのような命にも服しましょう」
んでもって、べた〜とオレによりそってくる。頬をうっとりと赤く染めながら。
同室しているオレの仲間は、あきれ顔だ。
「なんで、そうなったわけ?」
と、カトリーヌが不愉快そうな顔で聞く。
何ででしょう……? オレにも、さっぱり。
「勇者様がヨッちゃんの刀を振るったからです」
と、巫女のマサタカさん。
ヨリミツだから、ヨッちゃん? 似合わないよ、その愛称!
ヨッちゃんとは子供の頃からの付き合いでと、巫女さんが言葉を続ける。
「ミナモトの家には『ヒゲキリ』『ヒザマル』の兄弟刀があります。真なる侍にしか所持を許さない、誇り高き武器。振るい手となる事は、侍の誉れなのです」
神聖武器なのか。
「勇者様がお使いになられたのは、『ヒゲキリ』にございます。しかし、本日より名を改めましょうぞ」
赤侍が熱っぽい目でオレを見つめる。
「オニキリ。鬼切る刀。真の男の刀にふさわしき勇壮な名にございましょう?」
「まあ……格好いいかな?」
嬉しそうにヨリミツが微笑む。
「刀に認められた一流の武人を、夫に迎えるのが夢でした。神仏に祈願した甲斐がござりました、シュテン討伐後、私を妻としてくださりませ」
妻……?
え?
えぇぇっ!
いや、オレの仲間、一応、みんな伴侶だけど。
でも、生々しい関係じゃなくってもっと精神的というか。
お友達感覚というか。
「勇者様もお国の大事の最中。多くは望みませぬ。一夜の契りとなっても構いませぬ」
「ジパング界は招婿婚だ、女のもとに夫が通う結婚スタイルをとっている。一夜限りの結婚も珍しくないそうだ」
お師匠様が『勇者の書 39――カガミ マサタカ』を読みながら、淡々と説明をしてくれる。
ジョゼは無言だ。目をうるうるとうるませながら、とがめるようにオレを見てる。紫の小鳥を肩に止まらせながら。
わかってるよ、ジョゼ! 今はそれどころじゃない、オレはサラ達を取り戻しに行くんだ!
デレデレしてる暇なんかない。
そうなんだけど……
「シュテンを討伐し、早う一つになりとうござります」
赤侍がべったりくっついてくる。
大鎧を着てるんで、くっつかれても楽しくないんだが……
いい匂いがする。
髪の毛がさらさらしてる。
ほんのりと赤く染まった顔が綺麗だ。
ドキドキしちゃう……
魔王が目覚めるのは、五十五日後だ。
こんなに積極的にせまられるの生まれて初めてだ……
どーしよう……
* * * * *
『勇者の書 101――ジャン』 覚え書き
●女性プロフィール(№047)
名前 オニキリ(ヒゲキリ)
所属世界 ジパング界
種族 刀の精
職業 刀の精
特徴 白小袖・紅の単・白袴。
武器が持ち手を選ぶ神聖武器。
真の武者にしか扱えない。
オレは侍じゃないんだけど、
勇者だから特例で持てたようだ。
戦闘方法 真の武者に持ってもらう。
年齢 不明
容姿 目尻の下がった、気弱そうな顔が可憐。
唇は意外と厚くって、色っぽい。
垂らした黒髪もつややか。
口癖 不明。
好きなもの 持ち手と共に戦うこと
嫌いなもの 戦えないこと
勇者に一言 『今、私はあなたのものです……』




