表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハニーオレンジとアメジスト ――運命が動き出す街で  作者: じゅんき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/40

第三十話 ――街の不穏――

数日後。


リンクとローランドは、いつものようにギルドへ向かっていた。


朝の空気は少し冷たくて、

街のざわめきはいつも通りのはずなのに、

どこか落ち着かない気配が混じっていた。


扉をくぐった瞬間、室内の空気がわずかに沈んでいるのに気づいた。

人は多いのに、いつもより活気がない。


素材を抱えて笑っている者の姿もあれば、

受付で声を弾ませる者もいる。


ただ、その中に──

仲間同士で早口に言い合う者や、

テーブルで眉をひそめている者が混じっていた。


「……なんか、前と雰囲気ちがうよな」


リンクは、自然と声が小さくなった。

隣のローランドも、周囲の様子を探るように目を細める。


「21階層のせいってわけじゃなさそうだな」


受付近くで、

職員と冒険者がひそひそと話している声が耳に入る。


「また子供が……」

「今週に入って、もう何人目だ?」

「親御さんからはまだ依頼が出てなくて……」


子供。

失踪。


その言葉に、リンクの胸がきゅっと縮んだ。


──村が襲われた時も、

子供が狙われた。


あの時とは違うはずなのに、

その一点だけが、胸の奥で、そっと重なった。


嫌な記憶が、

じわりと意識の底から浮かび上がる。


リンクは小さく息を吐いた。


その横で、ローランドが近くの冒険者の会話を拾って口にした。


「街が浮かれてるからだみたいだぜ。

21階層がどうとか、新素材がどうとかでよ。

親も気が緩んでんだと」


「……そう、かな」


リンクは曖昧に返した。


確かに、

街はここ最近ずっとお祭り騒ぎだ。

露店も増え、夜遅くまで人が歩いている。


けれど、それだけで子供が次々と消えるだろうか。


胸の奥に、

まだ何かが残っていた。


掲示板を見ても、

“子供の捜索”はどこにも出ていない。


「正式な依頼もねぇし、

俺たちが首突っ込む話じゃねぇな」


ローランドはそう言って肩をすくめると、

掲示板の別の欄を指さした。


「とりあえず今日は、また4階層で鉱石だな。

リンの稼ぎどころだろ?」


「……うん」


リンクは頷いたが、

胸の奥は静まらなかった。



ギルドを出て、

二人は街の大通りを並んで歩いていた。


午前の通りは人が多く、

子供たちのはしゃぐ声だけが、

どこか浮いて聞こえた。


「ガキくらい目の届くところに置いとけってんだよ。

まったく、親は何してんだか」


ローランドがぼやきながら、

手を頭の後ろで組む。


リンクは小さく頷いたが、

表情にはまだ迷いが残っていた。


──あの時も、子供たちは狙われた。


走り回る声が耳に触れて、

胸の奥がきゅっと痛んだ。


その時だった。


「また会ったわね、坊や。

ローランドの知り合いだったのね」


ふいに、前方から声が落ちてきた。


赤い服。

深く被ったフード。


ダンジョンで見た、あの女。


リンクの足が止まる。

ローランドも気づき、「あっ」と短く声を漏らした。


女はフードを少し上げ、

ローランドを見つめる。


ローランドの肩が、わずかに跳ねた。

とっさにリンクの方へ向き直る。


「お、おいおいおいおい……!

こいつは昔馴染みなだけだって!」


慌てて両手を振るローランド。

その必死さが、逆に怪しく見える。


キャロルは、ふたたびリンクに視線を向けた。


頭のてっぺんから足先まで、

舐めるように、ゆっくりと。


その視線は冷たく、

どこか値踏みするようだった。


そして、

鼻で笑うように小さく息を漏らした。


「……ふぅん」


その小さな息には、

薄い嘲りが混じっていた。


リンクの胸に、

ちくりと小さな痛みが走る。


「……行く」


短く言い捨てて、

リンクは足を速めた。


「お、おいリン! 待てって!」


ローランドが慌てて追いかける。


「キャロル、悪い! またあとでな!」


振り返りざまに叫び、

リンクの後を追った。


キャロルはその背中を見送りながら、

薄く笑った。


その笑みは、どこか作り物めいていて──


まるで、二人の距離なんて

指先ひとつで崩れるとでも言いたげだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ